下校する兄妹

 りょうは図書室を出た。

 仕方がないから帰ろうと思ったタイミングでせいからスマホにメッセージが届いた。

『今どこ?』

『校舎を出るところ』

『一緒に帰ろ』

 せいもまだ校内にいたようだ。何をしていたかは定かではない。新しいクラスメイトと仲良くなったのだろうとは思った。

 スマホをいじりつつ、ゆっくりと校門へ移動していたら星に声をかけられた。

 せいのそばには三人ほど友人がいたが、星が彼女らに手を振ったので、そこで解散ということらしい。

「良いのか? 友達と帰らなくて」

「ファミレス行くみたいだよ、りょうも一緒に行く? 行くなら私も一緒に行くよ」

「行かない」遼はぶっきらぼうに答えた。

「やっぱりね」

 たまにせいは有無を言わせずにりょうを友人たちの群れに連れ込んでどこかに行くが、今日はそれを避けたようだ。

「初顔が多いから遼はにあって可哀相だと思ったからやめたよ」

「賢明な判断だ」

「良い子が多いんだけどな、遼の好みじゃないんだろな」

「年上が良いな」と遼は適当に答えた。

「は?」星が足を止めた。

 いつものことだから遼はそのまま歩く。星は仕方なくついてきた。

「H組はどうだった?」機嫌をとるために話をふった。

「問題児を寄せ集めた感マックス」

「それは自覚しているということか?」

「私は違う!」

「学年二位の星川ほしかわがいたんだろ」

「彼も問題児の一人だから」

「確かに変わった奴だよな。面白いよ」

「喋ったことないでしょ」

「ん、すれ違うときに話しかけられたことはあるな」

「ただの挨拶よ。通りがかりみんなに話しかけるんだもの」

「そういうお前も同じだ」

 遼が言うそばから星は出くわす友人たちに「ヤッホー」などと挨拶に余念がなかった。

 双子の兄妹として生を受けたのにコミュニケーション能力は妹がすべて持っていったと遼は思っている。遼が勝っているのは学力だけだった。ルックスの良さも運動神経も、その他すべてにおいて星は遼より秀で、星のまわりに人は集まる。「星」と名付けられたが、むしろ太陽のような存在だと遼は思っている。

「問題児が多いならまとめがいがあるというものだな」

「私は学級委員じゃないけど」

「学級委員といえば、高原とかいう奴にいきなりメアド交換させられたな」

和泉いずみちゃんね」

「そうそう、そんな名前だった」

「和泉ちゃん、ずっとA組の学級委員をやってるし、可愛いし、交友範囲広いし、スポーツ万能で成績優秀。まさにスーパー美少女」

「よく知ってるな」

「助っ人団の仲間だしね。っていうか、成績はりょうより上にいるよ、学年で五位以内のはず」

「それはすごい」遼は棒読みした。

「まあ、遼は本気出してないのかも知れないけど」

「いやいやあれで十分すぎるだろ。あれ以上無理」遼も学年で十位以内には入っている。

「試験期間中に『モンテ・クリスト伯』全部読んでるような人が?」

「あれは読み出したらやめられなかったな」

「その頭脳、私に少し分けてよ」

「お前は勉強は並かもしれないけど、頭は悪くない。むしろ賢いと思うよ」

「何それ、めても何も出てこないわよ」

「何も要らねえ。せいが機嫌よくしていれば俺はそれで良いんだよ」

「なんだかな……」ぶつぶつ言うが満更でもない様子だ。

「それでA組はどうだった?」すぐに明るい顔に切り替わる。

「いきなり担任が、優秀者を集めたクラスだなんて言うものだから、異議を唱える奴が出るようなクラスだった」

「何それ」

「わかりやすく言うと、星川みたいなのがA組にいないのはおかしい。それで成績優秀者を集めたと言えるのか?って聞こえたな」

「ああ、そういうこと。それはみんな言ってるね。上位十名に入っている生徒でB組やD組になった子もいるからね」

「上位五十名に入っている生徒だけで作ったクラスというのは本当らしいけどな。俺には関係ない」

「遼は他人に興味がないからね。もう少し愛想よくしてくれると良いんだけど」

「そんな、想像できる?」遼は少しだけ口角を上げた。

「できないな」星が白目を向けた。

「俺のことより、星は自分のやりたいことをしな」

「そうだよね、うん……、私のやりたいこと……」

 星はうつむいて歩き続けた。それが何なのかまだ形になっていないのかもしれない、と遼は思った。それは自分も同じだった。

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