六話 謎ってほどじゃないけれど

 午前中の授業が終わり、昼食の時間になった。

 今日の昼はいつもの三人に高畠たかばたとその彼女が混ざることになったが、その彼女が問題だった。


「げっ、天美あまみ


 なんと高畠の彼女は、よりにもよって佐藤だったのだ。


「いやほんとにウチの彼女がすまん!」


 俺は特に何を言う気は無かったのだが、佐藤が嫌そうな顔をしたことと、優親ゆうしんが昨日のこと話してしまったので高畠が平謝りしている。


「高畠が謝ることじゃないだろうよ、佐藤がやらかしたわけだし」


 べつに高畠が何かをしてきた訳では無い。

 件の佐藤はずっと気まずそうに目を背けている。


「へー、佐藤さんって彼氏に全部面倒押付けて自分は知らんぷり?そんな人が私のお友達だなんてやだなー」


 栞が鋭い視線を佐藤に向けて冷たい声を出す。


「まぁ、そう言ってやるな。別に手を出された訳じゃないしな。確かにあの時は腹は立ったが…それだけだよ。とはいえさすがにこの空気じゃ飯は食いずらいし、また日を改めよう」


「本当にすまない、天美。ほら幸実ゆきみも」


 高畠が佐藤の背中を押して謝らせようとした。

 しかし本心から謝る気がないのに謝られても気分が悪い。


「いやいい、本人が正しいと思っているのなら無理に謝らなくていい。高畠は彼女のことを大事にしてやれ」


「天美…お前ってやつは…」


 高畠がなぜか感動しているが、実際恋人というのは大切な人だ。

 それをまず一番に守ってやらねばどうするのか。


「それに、俺らの仲を見せつけてやれば、佐藤だってちっとは考え直すだろ。な、栞?」


 最近になって、ただでさえ近かった距離がより密着してきたのだ。俺らの仲を見れば考え方だって変わるはずだ。


「……もー!そんなに私と仲良くしたーいの?好透ってばかわいいー!」


 栞が嬉しそうに抱き着いて頬をスリスリしてくる。頬の感触がより感じられる。

 …さすがにここは人の目が…。


「そーだよそーだよ!私と好透が仲良いんだってこと見せてやればいいじゃーん!」


「これもう仲いいってレベルじゃねーぞ」


 たしかに普通の友達ならこんなにくっついたりしねーよな。俺もそう思うよ高畠。


「っというわけだよ佐藤さん、君がちょっかいをかけるような事じゃないから」


 こら優親そんなに冷たい声を出すもんじゃありません。言ってることは間違ってないが。

 しかし佐藤は相変わらず気まずそうに目を逸らしたままだ。


「高畠」


「ん?」


 俺は高畠に伝えたいことがあった。


「本当に佐藤が大事だと思うなら、高畠だけは傍にいてやれよ。複数でたった一人を責める趣味は無いが、それでもこうやって怒る奴らもいる訳で。そこで高畠までこっち側に来ちまったら佐藤は孤立しちまうだろ。」


「あぁ、それは…そうだな」


 そこまで考えつかなかったようで、彼は驚きその表情に影が差す。


「せめて、なんであんなことをしたのかって高畠になら言えることもあると思うし、二人できちんと話し合ってみろ。

 俺と栞ですら、察して貰うんじゃなく話し合う事だって多いからな」


「天美…分かった。幸実とよく話してみるよ」


 なぜ佐藤が俺にあんなことを言ったのかはわからない。

 でももしかしたら、彼女の恋人である高畠になら話すかもしれない。

 その上でどうするかは分からないが、少なくとも俺たちが怒っていたとしても、高畠は彼女のそばにいてやって欲しい。…と思う。

 佐藤が申し訳なさそうな表情をして、軽く頭を下げた。


 高畠たちと別れて、栞と優親は俺の席の周りに来て三人で昼飯をとる。


「いやー、好透優しいねぇ。これじゃ、僕らの方が怒ってたみたいだね」


「好透があー言うんなら私はなにも言わないよ。でも、ほんとに何であんな事…」


 そんな事はいくら考えても答えなんて出やしない。答えは高畠からの話を待っていればいい。



 午後の授業が終わり、帰宅の為に栞と外に出る。



 相変わらず近くなった距離のまま、二人で話ながら栞の家に向かう。

 果たして栞の家に着いたが、栞はまだ少し話し足りなそうだ。


「あー、もう着いちゃったね」


 残念そうに栞がそう言う。


「今までだってこんなもんだったろ?」


 別にそこまで急いで帰ったわけでもない。

 それでも早く感じるのはそれだけ楽しかったからではないだろうか?なんて思ってみる。


「そうだけどね、やっぱり好透といると時間経つのはやいなぁ…」


 栞がしみじみと言った。


「今日も後でVC誘うから一緒ゲームしよ!」


「そりゃ全然いいけど…珍しいな、そんなに頻繁にやるのって」


 今まで二日連続なんてあっただろうか?

 俺も栞も一人でゲームをすることが多く、今までは気が向いた時にどちらかが誘っていたが、それも月に数回程度だ。


「むうぅ…だって少しでも好透と一緒にいたいし…でもあんまり遅い時間まで外に入れないからせめて声だけでもと思って…」


 栞がしょぼくれたように胸中を明かす。

 その姿はとてもいじらしく、思わず抱き締めてしまった。


「んーふふー♪こぉすけぇ…♪」


 胸に顔を埋めてぐりぐりと甘えてくる栞はまるで子供である。

 しかし本質は子供のそれとは大きく違っており、とても…なんと言うか…って感じである。煩悩退散!


 こうしてひとしきり抱き合った後は栞が家に入るので、それを見届けてから俺も家に戻る。


 その日は少しだけ、遅い時間まで栞と一緒にゲームをして楽しい時間をすごした。

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