第65話 さて、か〜えろ♪

「ケホケホ……あぁ……危なかった」



 僕はなんとか瓦礫を避けることに成功した。アイリスを押し出した後、自分の身体能力全開で避けることに注力したんだ。その甲斐あってか、なんとか無事に逃げ出すことができたよ。


 だが……



「道塞がっちゃったよ」



 瓦礫の山は遺跡の狭い通路を塞ぎ、僕の退路を絶ってしまった。これじゃあ前に進めない。


 僕は思わず、ボケェ〜と瓦礫の山を見つめる。


 すると……



「——ねぇえ!? ちょっとウィル! 大丈夫なの!! ねぇえ!!」

「……ん? アイリス??」



 瓦礫の向こうからアイリスの声が聞こえる。彼女は無事なようだ。少し安心した。


 ん? 安心?? 僕は何をホッとしてるんだろうか?


 まぁ……目の前で誰かが危機に落ちたなら、助けてあげたいって思うのは人として当たり前だ。普通を求める僕だってそれぐらいの良心はあるさ。

 だけどさぁ……僕が人助けって、らしくもない。それも美少女相手にさぁ〜〜。

 そんなイケメンムーブをしみったれたクソガキにさせないでもらいたいモノだよ。



「——ウィルぅう!!」



 おっと、アイリスを放置してしまっていた。彼女は声が枯れんばかりに叫び出す始末だ。この寂しがりめ〜〜。

 可哀想だし、そろそろ反応してあげるか。



「……アイリス?」

「——!? ウィル!!」

「こっちは大丈夫。無事だよ」

「……ん?! はぁぁ……よかった。心配しちゃったじゃない」

「……え? 心配したの?」

「——え!? いや、し、し、してないわよ!!」



 とりあえず、僕の無事を彼女に伝える。だって、あんまりにも煩いからさ、早く伝えてやらないと駄目かなって思ったんだ。

 すると、彼女の声が跳ねる。無事を伝えても結局煩いことには変わりないんだが。なぜ?

 てかさ……照れたからだと思うんだけど……人として否定はしないでくれよ。

 心配しないのはダメだろ。

 瓦礫ふりしきってんだ。少しは心配はしてくれ。


 まぁ……いいけどさ。



「ところでウィル?」

「……ん?」

「こっちに来れそう?」



 しばらくすると、一呼吸整えたアイリスが話しかけてくる。


 僕とアイリスの間にはさっきまで遺跡だったモノが崩れ、瓦礫で山積みとなっている。この状態で合流できるのかを彼女は聞いてるんだろう。

 だがなぁ〜〜この瓦礫は盛大に積み上がり、よじ登って超えるのは難しいと思う。崩れると危ないし。それに回り込むにしても狭い一本道の通路状の地形だったから、それも難しそうだ。


 物理的には……



「無理そうだね」

「……え?!」



 まぁ……物理的には……だがな。


 僕には、瞬間移動とも取れる、【虚影】や【影移動】といった魔技が使える。これを使えば楽に向こう側まで行くことができるだろう。いうなら、魔法的といった方法だ。



 だけど、僕はそんな手段があろうが……アイリスの元には行かないけどね。



「待っててウィル。今、こっちからも道を探してみ……」

「行ってください」

「……え?」

「わからない? 僕を置いて先に脱出してくれって言ってるんだけど?」

「——はぁあ?!」



 僕はアイリスに1つ提案を口にする。

 すると、アイリスが声を張り上げた。

 彼女の驚愕がよくわかる反応だ。



「そんなことできるわけないでしょう!? 馬鹿言わないでよ!」



 と——アイリスは僕の提案に反対らしい。まぁ、待ってくれ、これにも理由があるんだよ。



「いや、ここは動かない方が得策でしょう?」

「……え?」

「無理に道を探して怪我してもいけないし、敵に見つかる可能性も増えるでしょう?」

「……ん? 確かに、そうだけど……」

「だから、アイリスは先に脱出して助けを呼んできてよ。僕はここに隠れているからさ。これがなんだかんだ言って1番安全な選択でしょう?」



 とは言ったが……



 これは半分は正解で、半分はハズレ。



 まず、アイリスに助けを呼びにいってもらう。これは正しい選択だと思う。

 急に瓦礫が崩れてきたと言うことは、ここら辺一帯は遺跡が脆く崩れやすいのかもしれないということだ。

 こんなところで探索を進めるのはオススメはできないだろう。無理に 動かない方がいい。

 ここは、道の向こう側にいるアイリスに先行してもらうのがベストだ。

 盗賊達は出払っていてその数が少ない。それならアイリス1人でも脱出はイケるんじゃないかなと僕は考えてる。

 それに彼女には僕のを預けてあるんだ。たぶん大丈夫だろう。


 そして……



 何がハズレかと言うと……



「分かった。ならウィル! 安全なところに隠れてて! すぐ助けを呼んでくるから!!」



 流石は聡明なアイリスだ。一瞬戸惑いはしたが、すぐに行動に移した。僕の提案が理にかなってると分かってくれたようだ。

 瓦礫の向こうからは次第に離れていく足音が聞こえてきて、やがて完全に聞こえなくなった。



「行ったか……さて……」



 では……僕は安全なところを探して、隠れる——



 いや……



「——か〜えろ♪」



 ……のではなく、試験に帰ろうと思う。




 



 


 




 

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