第62話 『ツンツン』より『デレ』

「——はぁ? 助けに?! あなたが?? なんであなたが助けに来るのよ!?」



 おいおい「なんか」って酷くないかい? 君をあの狭い部屋から出したの、僕なんだけど? え?! 放置しておけばよかったかな? 



「すいませんね。僕なんかが助けに来ちゃって……事情はティスリさんから全部聞いてます」

「え?! ティスリが? なんで……」

「なんでって……公爵家が総力あげてアイリス様を探してるって……居なくなった次の日に説明しに来たんですよ。その時に聞きました。ティスリさん、凄く心配してましたよ?」

「……ッ……そ、そんなのって……」



 ……あん? なんでこんな動揺してるんだ? ティスリさんの名前を出したあたりから顔色青くして? 探している事がそんなに不思議かね?



「まぁ……どうでもいいですけど、さっさと脱出しますよ?」



 ただ、僕の姿が見つかってしまったのなら仕方ない。

 そんなキョトンとする彼女を無視する形だが脱出を忙してもらおう。

 ここは『探しに来た体』を装って一緒に脱出してしまおう。



「——ッ!? ちょっと待ちなさいよ! だから、なんでウィリアが私を探しに来ているのかまだ説明されてない! あなた、私を恨んでたわよね? それに、お父様が私を見つけられないのに……なんで、あなたが先に見つけられるの! 意味が分からないわ!!」



 あぁ、ごもっとも。その質問は至極当たり前なモノだ。


 だがな……1ついいかい? そんなこと、この僕にも分かりませんよ。



 学園管理のダンジョンが盗賊のアジトに繋がってて……


僕が崖の先に進める能力を持っていて……


人影を目撃して……


堕落した盗賊さんをアグレッシブ盗賊さんに変身させるためのメソッドを叩き込んで……


盗賊の宝物を拝みに来たら……


捕まっていたアイリスを見つけてしまったと……



 ねぇ……これ一体どんな確率なんでしょうね?



 これを説明しろって言われてもね。


 僕が言えることは……



「これに関して言えば、としか言えませんよ」

「——ッ!? はぁあ?!」



 気持ちは分かるが、そんな目尻吊り上げて睨まれたって、それ以上の説明なんて僕にはできないのよ。



「学園管理のダンジョンが、ここと繋がってましてね」

「——ッえ?!」

「道に迷ってたところを、たまたま怪しい人影を目撃して、それについて行ったらアイリス様を見つけたんです」

「嘘でしょう? そんな偶然って——」

「だから、僕も驚いているんですよ。信じてもらえるか分からないですけど……。幸い、ティスリさんから事情は聞いていましたから、アイリス様を見つけた瞬間に、僕が見た怪しい人影は誘拐犯か、その一味だって自ずと気づきましたよ」

「…………」



 一通り経緯を語ってやる。当たり障りもない感じにだ。

 学園のダンジョンがここと繋がってることまで語ってやるかは少し悩んだが、アイリスのように頭の冴える人物をはぐらかすのは得策ではないと思って、余計なこと(チュートリアルダンジョンへ抜ける隠し通路がある)をのぞいて、なるべく真実のみを喋った。

 すると、アイリスは黙って俯く。訝しんでいるというよりは、情報を整理して話を飲み込もうとしているように見えた。



「だから、僕があなたを見つけたのは、本当に偶然です。とりあえず、ここはアイリス様が閉じ込められていた場所から離れています。誘拐犯達は今は出払ってるようでしばらくは逃げた事に気づかないと思いますが、バレる前にサッサと逃げてしまいましょう」

「……そう。うん……そうね……分かったわ」


 

 ここまで言うと、彼女は言葉を呟き納得したように小さく首を縦に振った。一旦は興奮状態が治ったようで何よりだ。

 下手をすると激昂でもするかと思ったが、とりあえずは安心か?



「あぁ……あと、これを……」

「——ッ?」



 僕は1つの薄い外套を懐の袋から取り出す。デカいカバンはヴェルテの横に置いてきてあるが、携帯品はすぐ取り出せるように、袋に入れて腰に括りつけているんだ。



「ナニそれ……?」

「ナニって……ちょっとした外套ですよ。寒さ対策で持ってたんですけど……アイリス様にそのままの格好で出歩かせる訳にはいかないでしょう? どうぞ使ってください」



 そう。さっきから説明に一生懸命でスルーしていたが……今のアイリスの姿はブレザーとシャツを脱がされた下着姿のままだった。幸い、スカートと下着までは脱がされていなかったが、女の子をそんな格好で歩かせるわけにはいかないだろう?


 僕はね。紳士なんだよ?


 肌着を羽織ってやるぐらい気は使うさ。


 どさくさに、触ったりしたのはノーカウントだ。だって仕方ないだろう? おぶったら直接触れちゃうんだから! 


 ——それはノーカンだ! ノーカン!!



「……あ、ありがとう」



 ——あら? あらあら?! アイリスお嬢様から素直なお礼が聞けるなんて?! 


 ほら見ろ!! あのアグレッシブでヒステリックなアイリスですら、僕の紳士的な献身で素直になってみせただろ? これが僕の実力さぁ〜〜見事に『デレ』を引き出してみせたぞ! どうだ、参ったか!!


 そうやって素直にしてれば可愛いんだから、『ツンツン』よりそっちの方が断然いいよ!



「ウィリア……あなたってと紳士なのね」



 ——ッはい! シャラァ〜〜プ!!!!


 『意外と』は余計ですぅ〜〜!


 意外じゃなくて、紳士なんですぅ〜〜僕はぁ〜〜!!


 さっきから『あなたなんか〜』とか、『意外と〜』とかって——一体、僕のことをなんだと思っているのかね?


 慈愛で紳士的な人畜無害なしみったれたガキンチョですよ? 


 これの何がいけないってんだよぉお! 


 ——文句ある奴は出てこい!!






 

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