婚約破棄された公爵令嬢、のんびり牧場経営で成り上がり?(旧:追放された公爵令嬢、隣国で成り上がって全てを見返す)

絢乃

【本編】序章

第1話 プロローグ

 ポロネイア王国の公爵令嬢ペトラ・ポナンザは愕然とした。

 王城の〈謁見の間〉に呼ばれた彼女へ、第一王子のルークが言う。


「私、ポロネイア王国第一王子ルーク・ポロネイアは、ただいまをもってペトラ・ポナンザとの婚約を破棄する」


 黒髪の王子から放たれる言葉に、ペトラは衝撃を受ける。

 彼女は燃えさかる炎のような赤き髪を激しく乱しながら尋ねた。


「どうして、どうしてなのですか? ルーク様」


 ペトラとルークは愛し合っていた。

 恋愛感情を無視した政略結婚が当たり前のこの王国で。

 だから、ペトラには理解できなかった。


「それはそなたがよく知っているのではないか?」


 ルークの目は血走っている。

 ペトラは、ルークのそんな目を見たことがなかった。

 2人でいる時には絶対に見せない怖い顔だ。


「分かりません、分かりませんわ」


「この期に及んでまだシラを切り通すか。では教えてやる。汝は不貞行為を働いたのだ。この目でハッキリと見た。私だけではない。私の警護を担当している騎士達も確認しておる。あの美しき真紅の髪は、そなた以外にありえぬ」


「誤解です。人違いです。後ろ姿しか見ていないのなら、私とは」


「ふっ、そう言うと思った。だがその言い訳も通用せぬ。我々は顔も見たからだ。あれはそなたに他ならない。そなたほどの美貌を持った赤髪の女など、この世にはおらぬ。見間違うはずあるものか」


 ペトラはそれでも否定するしかなかった。

 現に彼女は、一切の不貞行為を働いていない。


 では、どういうことなのか?


 その答えを知る人物が、この場には2人いた。

 パピクルス伯爵家の令嬢ニーナ・パピクルスと、その父親だ。


 2人は共謀し、ペトラとルークの仲を引き裂く罠を講じた。

 全てはこの2人が仕組んだことだったのだ。


「王子様と婚約していながら他の男にうつつを抜かし、挙げ句の果てに反省の態度も示さないとは何事か!」


 声を荒らげたのは、ペトラの父である公爵。

 公爵は既に、自分の身を守るための策を考えていた。

 その策とは――。


「国王陛下、王子様、我が娘を国外追放に処して下さい」


 ――娘を捨てることだ。


「公爵、本気か?」


 驚く国王。


「本気でございます。ただ国外追放するだけでは収まりがつきません。ペトラは家門から除外、つまり絶縁させていただきます」


 公爵は自ら率先してペトラに厳罰を与えていく。

 そうすることで、自身に火の粉が及ばないようにしている。


 公爵の策は上手くいった。


「公爵がそれほどの厳罰を望むなら……他に言うことはあるまい。ペトラ、そなたを国外追放と処す。また、この時をもってポナンザ家からも除籍とする」


 国王は公爵に何の罰も与えず、ペトラだけを処分した。

 公爵の失脚を狙っていた伯爵は小さく舌打ちする。


「ペトラよ、そなたは今後、ただの一般人としてバーランド王国で暮らすがよい」


 バーランド王国は、ポロネイア王国の隣に位置する国だ。

 ポロネイア王国とは長きにわたって友好関係を築いている。

 そこへペトラを追放するのは、国王によるせめてもの温情だろう。


「分かりました……」


 ペトラは何も言い返せなかった。

 何を言っても聞き入れてもらえないと分かっていたから。


(どうしてこんなことに……)


 騎士に連行されていく中、ペトラは何度も現状を理解しようとした。

 しかし、どれだけ考えても、何が何やらさっぱり分からなかった。

 分かっているのは、自分が誰かに嵌められ、全てを失ったということ。


 ペトラは思った。

 今日は人生で最悪な日だ、と。


 だが後に、彼女はこの日を振り返ってこう思う。

 あの日のおかげで今の充実した日々があるのだ、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る