叩き込め、夏の虫


 『変形』した。

 と理解するのに、一瞬のラグが必要だった。


 最初は、『自壊』に見えたからだ。


 ガガっ!バキっ!!ガキぃ!!バキキぃ!!



 変形機構の稼働に一瞬だけ抵抗する大量の武装。

 それらは抵抗虚しく、力任せの変形稼働に押し出されて、機体から外れていく。


 〈ナパーム・スラッガー〉

 

 大量のナパーム・ミサイルと大砲にその身を包んだ、飛行形態変形型爆撃ロボット。

 その正体。



 ・・・・・・


 〈装甲パージ〉というスキルがある。

 外装をスキルによってパージすことで、性能を上減するスキル。

 俺の〈スケルトン〉にもセットされているスキルであり、使い所は難しいが、その分、切り札になり得ると言えるものだ。


 プラモデラー羽刈 鋳造ロボキチはそれを、スキル無しで実現しやがった。


 変形することで、意図的に本体と武装を干渉させ、無理矢理に武装を剥がす。


 要は、わざとポロリする様に作っているわけだ。


 あれのミソはパーツを固定する軸の固さ、緩さの微細な調整だ。

 武装を固定している軸が硬すぎると上手く武装をパージできず、最悪、腕などの本体パーツが外れる。

 かといって、緩くしすぎると、飛行中に武装を取り落とす可能性が高まる。


 ミサイルの筋彫りといい、粗暴な態度からは想像できない細かな仕事をする奴だ。


 

〈ナパーム・スラッガー〉が徐々に人の形へとなるのを、森の中から目撃する。


 そして、俺も今、理解した。


 「・・・ああ、『スラッガー』ってそういう・・・!」



 ・・・・・・



 〈ナパーム・スラッガー〉は変形によってスタイルを変える。

 しかし、そのスタイルは連なっている。

 要はコンボになっているのだ。


 人型に変形した、〈ナパーム・スラッガー〉その姿自体に変った所は無い。

 普通の可変ロボット。

 その人型形態。


 特徴的なのは、変形に干渉せず、唯一背中に残った一門の大砲。

 






 ガキン!


 と砲身を掴んで手動で外したことから、パージに失敗した部位なのかと〈スルメ〉は思った。


 だが、違う。


 次の瞬間、大砲から、砲身を


 引き抜かれ、新たに現れた部分には、一目でグリップだとわかるディテール。


 あの世界的なスポーツに用いられる、ボールに次いで名の売れているスポーツ用品。


 バット。


 「ベースボール・イズ・バット野球じゃない


 〈ロボキチ〉が呟く。


 両手でバットを構え、肩に担ぐ様にして、突進してくる。



 早い。

 先程までとは比べものにならない。


 高低差もあった。

 重力の力を借りたフルスイング。


 〈ナパーム・スラッガー炎の打者〉の一打がドームに快音を響かせる。





 「〈スルメ〉っ!!ちくしょう!!」


 先程と同じ機体とは思えない早さで接近した〈ナパーム・スラッガー〉が〈ジード〉を地上へと、ぶっ飛ばした。


 「なっ!?」


 後ろを向いて、驚愕する。

 スタート地点。


 自分達が飛び上がった緑の地面が、燃えている。


 その火力は凄まじく、火の海というより、地獄の入り口の様だった。

 

 ナパーム弾。

 着弾した場所を燃やし続ける爆弾ミサイル。

 かつて、非人道兵器と言われ、忌み嫌われた兵器。

 それがVRの世界で作り上げた地獄が広がっていた。


 バガァァァァッンンン!!!!!


 その地獄の中へ、相方がなすすべもなく呑まれ、やがて衝突音が響き渡る。

 

 「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 〈ナパーム・スラッガー〉は高度を下げつつ、フルスイングの状態で硬直している。


 落とせる!!落とす!!


 二丁の拳銃を向け、相方の仇を撃つ!


 しかし、その引き金が引かれることはなかった。




 「悪いな、あんたらに恨みがあるわけじゃないんだが・・・」


 その声は小さく、確かな距離を感じさせるほど遠かった。


 「仕事を依頼を受けちまってるんでな」


 それなのに、〈ジャン〉の耳にはやけにハッキリと聞こえた。


 「諦めて殺されろ」


 まるで、死神からの宣告の様に。


 「〈ハイ・マニューバ〉」


 次の瞬間、上空のジャングルから、硝子が飛び出し、空中に一条の線を引く。

 

 身体が弓なりにしなったと思ったら、目の前には地獄の地面があった。





 作戦の内容を大まかに約すと、一瞬での各個撃破だった。

 まず、〈スルメ〉と〈ジャン〉は二対一で俺かロボのどっちかを潰しに来るだろう、と考えた。

 〈スケルトン〉と〈ナパーム・スラッガー〉では性能に差が有りすぎる様に見えるからだ。


 〈スケルトン厄介な方〉を先に片付けるか?

 〈ナパーム・スラッガー楽な方〉を速やかに潰すか?


 それが予想できたからこそ、〈ロボキチ〉は各個撃破、疑似的な1on1疑似タイを作ることを提案した。


 まず〈ロボキチ〉が最大火力で、相手を揺さぶり、少しでもダメージを与えて、相手の動きを鈍らせると同時に、下のフィールドをナパーム弾で延焼させる。

 

 そして、変形することで(これは俺も知らなかった。「見てのお楽しみだ」とか言われて)向上した加速力と重力を利用して〈ナパーム・スラッガー〉が片方の敵機を火の中へ叩き落とす。


 打撃+落下+炎熱で一機撃破。


 そして、俺の仕事は開幕で、〈ナパーム・スラッガー〉を上空へ運ぶことと、〈ロボキチ〉が片方の敵機を落とす瞬間にできる一瞬の1on1を一瞬で終わらせること。


 これが、俺達のオペレーション作戦飛んで火に入らないなら叩き落とせ、夏の虫ファイアー・バグズ・フォール』。


 速度と初見殺しにものを言わせた電撃作戦だ。


 問題点を上げるとしたら一つ。


 一瞬で距離を詰めるために使用した〈ハイマニューバ〉。

 こいつは急には止まれない。


 〈ガグル〉(たぶん〈ジャン〉)の腰を右腕のエネルギーブレードで突き刺して、狩ったのは良かったが、俺も炎の中へと、突撃している。


 森林ステージだから、よく燃えていること・・・。

 今にして思うと、打撃+落下で十分なんじゃないか?

 炎いる?

 オーバーキルじゃない?


 身を隠しやすかったから森林ステージは悪くないと思ったのだが・・・相性が良すぎるのも考えものだ。


 このままでは、〈スケルトン〉は敵機と一緒に地面に激突し、炎に巻かれて無事大破だ。

 全然無事じゃねえよ!ふざけんな!!


 しかし、策はある。


 思い出すのは、始めて〈スケルトン〉に乗った時。

 性能把握のために、逃げる蜘蛛型ドローンを〈一刀入魂〉で爆散させたあの時!


 炎の中に入った!


 もう、1秒もしない内に地面へと激突する!!


 「〈一刀入魂〉!!!」


 ブワっ!と、出力を上げたエネルギーブレードの光が増して、貫通していた〈ガグル〉の腹から、その勢いが伝わる。


 スキル〈一刀入魂〉。

 数えるほどしか使っていないが、このスキルは発動してから『一撃』だけ、剣タイプの近接攻撃力を向上させるというもの。


 では、『一撃』とは何か?

 〈バスター・ゴリラ〉討伐時には、〈バスター・ゴリラ〉の脇腹から肩までを『一斬』として威力に補正がかかった。


 つまり、斬撃の場合は『一振り』が補正の時間。


 ならば刺突は?

 『振り』じゃない場合は?

 答えは、対象に刃が刺さり始めて、刃の動きが止まるまで。


 そして、傷口が小さく、威力の逃げる隙間が小さいためか、〈一刀入魂〉で刺された部位は、小規模な爆発を起こす!!


 バッ!!ドッォォッォッォオッォオォ!!!!!!!!



 凄まじい衝突音と共に、土煙が舞い上がる。


 

 土煙が晴れると、そこには腕部の装甲が〈リアクティブアーマー〉によって地面に落ちる〈スケルトン〉。

 

 その足下で、内側から粉々に爆発したと見られる、無残な姿の〈ガグル〉だった。

 

 





 「ひっ!」


 「えっぐ・・・!」


 「絵面ヤバ・・・」


 客席で小さな静寂と、ドン引きの呟きが生まれていたのは後になってから知った。


 

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