足し引きのロマン
「〈ロボキチ〉さんとはリア友なんですか?」
「ええ、だからリアルでプラモの受け渡しとかも問題無いですよ?」
2対2のPVP・・・2on2の約束取り付けた大柄の〈ジャン〉とヒョロガリの〈スルメ〉は先に〈対戦エリア〉、通称〈コロッセオ〉に向った。
〈ロボキチ〉の奴はことの発端となった機体・・・あの変形どころか飛ぶことすら怪しそうな重武装のプラモ、作品名〈ナパーム・スラッガー〉取りに行った。
ケジメをつけるなら〈
この場に残ったのは俺と〈ジーク〉の二人だ。
〈ロボキチ〉を待っている間、元々〈ジーク〉が鑑賞に使っていた台に相乗りさせてもらう形で奴が今取りに行っている〈ナパーム・スラッガー〉を分析していた。
・・・うーん、俺マジでこの機体とタッグ組むの?
タッグを組む以上、相方の機体について把握しておくのは勝率に関わる・・・というのもあるが、純粋に「なんだこコレ?」っていう興味がデカかった。
今見ているのはロボット形態だが、背部、肩、腕、脇腹、足・・・武装を取り付けられるスペースのある箇所にこれでもかというほどミサイルや大砲を搭載している。
一応、飛行機形態の姿も見れることから、変形機能は存在している様だが、実際に変形できるのかはわからない。
・・・干渉箇所が多すぎる。
実際のプラモデルなら、まず確実に一度武装を取り外さないと変形できない。
ていうか自立できるのか?これ。
変形機の売りは形態変化による機動性の向上だ。
これはその強みを潰しにかかっている。
機体バランスなどという言葉はこの世界に存在しないとでも言う様な出で立ち。
・・・この武装・・・機体のコンセプトは・・・。
「・・・〈ロボキチ〉さんって、何を考えて、この機体を作ったんですかね?僕、プラモデル作ったことなくて・・・、ちょっとわからないんですけど・・・」
〈ジーク〉も当然ながら、このプラモデルを不思議に思っている。
「これはミキシング・・・あー・・・、プラモデルの改造には主に2つのルートがあるんです」
「改造?」
「足し算と引き算」
初心者ならミキシングっつってもわからないだろうからな。
「これは足し算の改造。他のキットのパーツや余剰のパーツを加えることで、一つの作品を作り上げるルートで、所謂『フルアーマー化』を目指すものです」
「フルアーマー・・・」
「逆に、引き算はパーツを減らす改造ルート。目に見える軽量化や可動域の拡張を行なう改造です」
これは俺の〈スケルトン〉が該当する。
元キットの〈アファム〉には、ライフルやシールドが附属していたが、〈スケルトン〉はその装備パーツを削っている。
「〈
雑誌やSNSの写真で見た他の作品もそうだった。
だから〈ナパーム・スラッガー〉もいつも通りといえばそうなのだ。
〈ロボキチ〉こと羽刈 鋳造の作品。
その特徴を一言で表すなら、『大ボリューム』だ。
要は最終決戦仕様のロボットが好きなんだよなぁ・・・超わかるけど・・・
ただ、だからこそ高速戦闘をする変形機との食い合わせの悪さは理解しているはず。
・・・ロボ野郎はこう言っていた。
「
枠線・・・つまりバトルフィールドを定めたバトル。
「察するに、足し算改造の強みはワンタッチで大規模な攻撃ができること・・・ですよね?つまり〈ナパーム・スラッガー〉は爆撃機みたいな感じですか?」
「まあ、大体あってると思います」
「それは・・・」
言いたいことはわかる。
分類的にはそれで合っているはずだ。
しかし、俺達が戦うのは空間ではなくプレイヤー。
ただの面制圧力だけで勝つのは、ハッキリ言って厳しいだろう。
ただでさえ、この喧嘩はこっちが不利なのだ。
〈ロボキチ〉のプラモデルは、再スキャンをおこなっていないため、アップデート適用前の状態。
つまり、〈リアルプラモ〉の優位性たるスキルがない。
俺は『バープラ』始めたての初心者なうえに、デビュー戦で派手に暴れたせいで〈スケルトン〉がどんな機体か広く知られてしまっている。
展示していた〈ナパーム・スラッガー〉も似たようなもの。
それに対し、俺達は相手の機体を知らない。
現状、俺の頼みの綱は〈スケルトン〉の性能だけだ。
「ふふ・・・」
・・・まさかショーケースで燻っていた機体を『頼みの綱』なんて言う日が来るとはなぁ。
『バーチャル・プラモデル・オンライン』なかなか侮れないじゃないか。
「?」
いかんいかん、思わず笑ってしまった。
変な奴だと思われてしまう。
「悪ぃ、待たせた・・・って〈
「え?」
「おい、口の利き方に気をつけろよ?迷惑プレイヤー」
「ぐっぅ!・・・〈ジーク〉・・・さん・・・!」
「いやいや!気にしなくていいですって!!」
「いや、迷惑かけたのは事実なんで・・・、それよりもいいんすか?」
「何がだよw?」
睨むな睨むな、身から出た錆びだろう?
正直、友人のしおらしい姿とかメッチャ面白い。
「〈
「あ」
何かに気づいた〈ジーク〉
「あ?」
なに人のこと指さしてんだと睨む俺。
「ぼ、僕、お先に〈コロッセオ〉向かいますね!!あ、頑張ってください、応援してます!!」
そう口早に言って、〈ジーク〉は走り出してしまった。
「・・・〈コロッセオ〉ってそんなに狭いの?」
「一応、外のモニターでも見れないことはねえが・・・当事者がそんなところで観るのも違うだろ。それに・・・周り見ろよ」
「周り?」
周囲を見渡すと、そこそこいたはずのプレイヤーがいつの間にか全然見当たらない。
そういえば、〈ジーク〉といる時も話しかけられなかったな。
「ここに来る道中も静かなもんだったぜ・・・、たぶんこの辺の奴等は軒並み観戦に行くんじゃねえか?」
「・・・マジ?」
「良かったなぁ、〈コロッセオ〉まで静かに町を歩けるぜ」
それ、さらに目立つってことじゃん・・・ニヤニヤしてんじゃねえぞコラァ!!
「くっ!・・・是が非でも報酬は貰うからなぁ・・・!」
「じゃあ、ま、歩きながら作戦会議と行こうぜ」
いざ、戦場へ。
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