供養とは死したことに非ず

 「そういや、何で〈スケルトン〉のこと教えてやらねえんだ?」


 歩きながら、ロボ野郎が危ねえ話題をふってきやがった。


 「おい、その名前あんまりだすなよ。変装の意味が無くなるだろ」


 この変装、一応お前に気を使って用意したっていうとこもあるんだからな。

 

 「あー、ワリィワリィ、でも別に隠す必要無くねぇか?」


 ロボ野郎が言いたいのは〈スケルトン〉の持つ超必殺ウルトスキル〈リアクティブ・クリア・ミラー〉の発現方法。

 つまり、〈スケルトン〉の作り方だ。


 「別に隠してるわけじゃない、俺が喋んなくてもその内見つける奴が出て来るだろ」


 「ただの面倒くさがりかよ・・・もったいねえなぁ、第一発見者として名前を売るチャンスだろうに」


 「有名になりたいわけじゃないんだよ・・・、残念ながらもう名前は売れちまってるし・・・始めたばっかで静かに町中を歩けなくなった気持ちわかるか?」


 「ガハハ!そう言えばそうだったな!」


 その見た目で山賊みたいな笑い声だすのやめろや。


 「まあ、後は話しかけてくる奴らが気にくわないってのもある」


 「面倒くさがりに加えて人間嫌いか?社会で生きづらいぜぇ、それ」


 「数が多いんだよ・・・、ゲームしに来てんのに大勢に囲まれて楽しめるわけないだろ?人のことを考えられない奴等と長いこと話したくねえの・・・」


 「まあ、オンゲだからなぁ、ある程度はしかたないとは思うが・・・」


 ゲームは現実じゃない。

 だからこそ、現実ではできないことが楽しめる。

 だがそれは同時に、現実の常識やモラルが軽くなることに繋がるのだ。


 リアルでは法律を頑なに破らない人間でも、ゲームの世界なら人を殴れる。

 なぜなら、そういうことが可能なゲームで、現実じゃないから。


 「攻略サイトとか運営してる訳じゃないしな。情報を広める義務も無い。仮に独占してるっても所詮はプラモの作り方だろ?大した問題じゃない」


 「それがそうでもないんだなぁ」


 「はぁ?」


 「レイドボスを単機で削り切れる手段だぜ?間違い無くイベント戦での環境入りだろ」


 環境、か・・・

 それはゲーム内カーストの上位を指す用語だ。

 場合によっては環境上位のキャラじゃないと邪魔者扱いを受け、人として扱われないこともあり人権キャラとも言われる。

 要は、「○○環境キャラ使ってないとかやる気あんの?」とか言われちゃうわけだ。


 レイドボスの様なイベント戦、巨大な敵ならば確かに、敵の最大攻撃をそのまま反射できる〈リアクティブ・クリア・ミラー〉は喉から手がでるほど欲しいだろう。


 だけどなぁ・・・現在唯一の使用者である俺からすれば、良いことばかりとも言えない。


 確かに、始めたての俺から見ても〈リアクティブ・クリア・ミラー〉はぶっ壊れだ。


 その辺にいる野良のエネミーならともかく、レイドボスの様な役割を持った目立つキャラがこの超必殺ウルトスキル一つで沈んだ。


 これは『バープラ』のHPという概念が無く、頭や胴体といった急所部位の破壊によって勝敗が決まるリアル思考なゲームシステムによる部分が大きい。


 あの時、〈リアクティブ・クリア・ミラー〉による反射で、〈バスター・ゴリラ〉の胴体は大きく抉れて、半壊していた。


 もしも、HPのあるゲームだったら、〈リアクティブ・クリア・ミラー〉を直撃させても、多分あのゴリラはピンピンしていたんじゃないだろうか?


 HP制のゲームだったなら、HPをレイドボスに相応しい量にすれば良いが、『バープラ』は例えば、装甲の硬さやスピードといった、HP以外のステータスをレイド用に調整する。


 つまり、何が言いたいかと言うと、俺はあの時〈バスターゴリラ〉の胴体装甲をピンポイントで壊すことに成功しただけで、HPを全損させたわけじゃない。


 要は、FPSゲームのヘッドショットみたいなもんだ。


 いや、レイドボスがヘッドショッドできるってのも十分ヤベえんだけど・・・


 それも単機では難しい。


 制限や状況を整えるのが、かなり厳しいのだ。


 故に、近いうち、〈リアクティブ・クリア・ミラー〉にはナーフ、つまり下方修正が入るか、もしくは〈バスターゴリラボスキャラ〉にサイレントで追加されたあのテナガサルみたいな、難易度調整がされるのではないか、と俺は考えている。


 ・・・考えたくないのは〈スケルトン〉の様なぶっ壊れ機体が参加していることで、難易度が上がる場合。

 つまり、あのサイレントで追加されたと思われているテナガサルは〈スケルトンぶっ壊れ〉があの場にいたことで出現した、というパターン。

 その場合、あんな大変な思いをしたのは俺のせい、ということになる。


 ・・・さすがに考えすぎか。

 

 まあ、あくまで推論なので口には出さない。


 「・・・どうだろう?あれ発動自体は簡単だけど、確実に当てるってなると結構大変だからな・・・相性的な要素もあるし・・・、ロマン砲の域をでないんじゃないか?」

 

 と、使用者としては環境入りには懐疑的、ということだけ言ってみた。


 実際、〈ジーク〉がサルを一匹引きつけてくれて、狙撃で援護してくれた人(結局お礼も言えなかったなぁ)がいなかったらサル一匹でも俺死んでたし。

 

 つーか、それならさ。


 「お前も〈スケルトン〉の作り方わかってねえの?」


 実はこの幼女の皮を被ったガラの悪い男は、たまに雑誌に作品が載る程度には有名なプラモデラーだったりする。

 一風変った作風だが、プラモデルの制作に関しては万人に認められる技術を持った男のはず(変態だったけど)。

 

 「んー・・・何となく、これかぁ~・・・?ってのはあるけど確証は得られていない感じ?リアルで作品見れば一発でわかる自信はあんだけどよぉ・・・」


 『バープラ』の補正が入ったグラフィックのせいで、マグネットによる装甲着脱可能ギミックが分かりづらくなっているのかな?

 

 まあ、それよりも、だ。

 そうかそうか・・・わからんかぁ・・・(ニヤァ)

 雑誌にも載っちゃうくらい有名なプラモデラー様の羽刈 鋳造でもわからんかぁ・・・(ニヤニヤ)


 「教えてやろうかぁ?」


 「ぐっ!絶対当ててやるから喋んな!!」


 まあ、内部フレーム丸見えだからマグネット部分は分からない様に意識して作ったのは確かだけど・・・それも相まって、より分かりづらくなっているっぽい。

 どうりで、検証班含め誰も気づかんわけだ。


 とかバカ言いながら歩いていると、目的の施設に着いた。


 「おぉ・・・!」


 思わず声が漏れてしまうくらいには壮観だった。


 〈鑑賞エリア〉に着いた時から、見えていた一番大きな建造物。


 一言で言えば巨大な美術館。

 中学の教科書で見た、外国にある世界で最も有名な美術館ルーブルを思わせる。

 施設名は〈展示館〉

 このエリアの心臓であり、〈展示場別名〉の由来となっている施設である。


 「久しぶりに来たな、最後にログインした時に来たのが最後だから当たり前だが」


 俺達は合流して、真っ直ぐに、この〈展示館〉を目指した。

 それにはちゃんとした理由がある。

 俺は念願の『バープラ』観光(ガイド付き)。

 

 「さーてぇ・・・俺の愛機達は元気にしてっかなぁ」


 そして、〈ロボキチ〉は使用するプラモデル作品の回収だ。


 俺よりも前・・・、それこそ、『バープラ』がクソゲーと呼ばれていた時から〈ロボキチ〉はこの世界に足を踏み入れている。

 しかし、案の定長くは続かず、ログイン数が減ってきたことを自覚すると、このロボ野郎はスキャンしていた作品を全て〈展示館〉に預けたらしい。


 〈展示館〉に預けた作品は誰でも自由に鑑賞することができる。


 バトルを目的にしているプレイヤーからすれば、機体性能がモロバレするため、ここに展示されている作品は、最初から展示することを目的に制作された物が大半なのだが、こいつは、実戦用含めて全て展示に出していた。


 誰にも見られないデータとして腐らせておくよりはマシだと考えたらしい。

 

 「というか、それ引退したつもりだったんだろ?」


 「まあな。他でも展示できる場所はあるのに、わざわざ『バープラ』に拘る理由はねえからな」

 

 確かに、リアルで開かれる展示会やコンテスト、SNSやブログサイトなどプラモデルを公表する場所は無数に存在する。

 羽刈 鋳造こいつほどの腕になれば、雑誌にだって作品を載せられる。


 『バープラ』に拘る理由は確かに無い。

 引退する時に作品を〈展示館〉に飾って、供養したつもりになっていたのだろう。


 それでも、供養したはずの愛機達を掘り出しに〈ロボキチ羽刈 鋳造〉は戻って来た。


 「まあ、クソゲーが神ゲーに生まれ変わるなんて、わりと奇跡だしなぁ」


 興味を引かれて戻って来たくなる気持ちもわかる。


 「それもある、が、それだけじゃねえよ」


 ?


 「お前が始めたからな」


 絶対やらかすと思ってたぜ、とでも言いたげなニヤケ顔でこっち見んな。


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