蒼い絨毯
「よし、そろそろだな」
夕飯を食べて、風呂も入って、後は寝るだけという状況を作り終えたら、もうすぐ約束の時間になった。
『バープラ』にログインする準備をしながら、
そう言えば、金剛さんもやってるんだよな『バープラ』
と昼間、知り合った女の子、金剛さんのことを思い出す。
最初は何か、『取りあえず店来たしダメ元でやるか・・・』くらいの雰囲気だったのに突然やる気に目を輝かせて作り方まで教えてくれって言い出すもんだから驚いた。
動揺して、思わずOKしてしまったが、ぶっちゃげ教えるほどのモノ持って無いんだよなぁ・・・
俺が知ってることなんてネットを調べりゃ、幾らでもマネできるものばっかだし・・・
そもそも説明書さえ読めれば、プラモの先生なんて必要ねえ・・・
今にして思うとイマイチ必要性を感じられない役割を請け負った気がする。
あの後、とりあえず素組するのに必要なニッパーだけ一緒に選んで、連絡先を交換した。
「とりあえず組み上がったら連絡しますね」
「OKです・・・ちなみに塗装とかしたい感じっすか?」
「・・・できるなら」
「じゃあ、ダボ穴・・・えーっと、パーツを組合わせるピンと穴の、穴の方にニッパーで切り込みを入れておくと良いですよ」
「?、何のためですか?」
「後で地獄を見ないためだよ・・・」
ちょっと遠い目をしてしまったかもしれない。
プラモデルのパーツってね・・・一度組み合わせると接着剤使ったんか?ってくらい固着する時があるんだ・・・。
セルフ爪剥ぎとかいう拷問は知らないならその方が絶対に良い。
その内嫌でもぶち当たるかもしれないが。
まあ、それも素組が無事に終わってからだ。
「・・・まあ、わかんない所はとりあえず説明書通りに作れば問題ないはずなんで」
そう言って、二人で店を後にしたのだが・・・帰り際の遠条さんの顔は腹立ったなぁ・・・。
ニヤニヤしやがってよぉ・・・。
とにかく、俺は今日、プラモ初心者の女の子とかいう幻想種と連絡先を交換したのだった。
それが、何を意味するのかというと・・・
「・・・まったく寝る気がしねえな!」
別れ際の会話とか思い出しちゃってる辺り、かなり恥ずかしい。
大丈夫かなぁ・・・、俺変なこと言って無かったよな・・・?
明日もし学校があったら寝不足確定からの居眠りコンボが華麗に決まったわけだが、幸いにも今は夏休み。
明日もお休み、昼まで寝れる。
加えて、今日は約束もあるから、やることに困ったりしない+夜更かしの
「さーて、ロボ野郎と会う前に〈ブルー〉を着込まなきゃな」
ログイン。
からの速攻で、〈格納空間〉にGO!
移動すると、目の前に〈スケルトン〉。
その隣に小さく区切られたスペースが新たにできている。
そのスペースの中央にはツインテールの少女が椅子に座っていた。
水色の髪に毛先がピンクのグラデーションになっているのが特徴的な、その少女は深い黒色のマントで全身を覆っているが、そのマントの下が結構スゴイことを俺は知っている。
作ったの俺だから。
そのせいで塗装自体は楽しかったけど、家族の目が恥ずくて、あまり長いこと飾らなかった・・・これもよく考えると不遇なプラモだな・・・。
「しっかし・・・、ゲームで等身大になると、ちょっと生々しいっつーか・・・不気味だな・・・」
『バープラ』にスキャンしたプラモはある程度なら、補正というか拡大解釈をシステムがしてくれる。
〈スケルトン〉のクリアパーツ製の外装が硝子の様に描写されていたり、ハンドパーツが稼働する指じゃなくても、普通の手の様にマニュピレーターとして動かすことができたりと。
美プラの場合は、人形感が全く無くなるわけじゃないが、それがかなり薄まっている様に感じる。
だけど、活き活きとした感じが全く無くて確かに人形だと感じるから、精巧な分、ちょっと不気味だ。
人間的にするか。
人形的にするか。
システムとしても難しいところなのかもしれない。
「・・・まあ、いいか。変装目的だし」
要は、この白い女ギャングから見た目を変えられればそれで良いのだ。
設定ウインドウを開いて、搭乗を選択。
視界が一瞬光に包まれ、尻に椅子の感触。
立ち上がって、自分の姿を確認すると先程まで目の前に座っていた女の子の姿になっている。
美少女プラモには操縦席など存在しないから、必然的に一体型の操縦方法になるのだが、〈スケルトン〉よりも若干、肩とかの関節が動かしやすい気がする。
〈スケルトン〉より生身の人間に近いからか?
まさか・・・生物系とメカ系で稼働感違う感じか?
すごいけど・・・変なところで細けぇ・・・。
アプデ後に追加された要素なのか知らないが、運営の謎の拘りを感じたところで、気づいた。
「あ、しまった・・・スキル関係の設定やってねえや」
スキルの設定は〈格納空間〉内のコンソールで、プラモデルを格納ハンガーに収めた状態でやるモノだ。
わざわざ、もう一回降りて乗るのは手間だなぁ、と思いながら時計を見ると待ち合わせの時間まで間もなかった。
・・・いいか、今度で。
待ち合わせの時間も迫っているし、時間がある時にゆっくりやろう。
そう決めて、一歩踏み出す。
「じゃあ、行こうか!〈ブルー・シート〉!」
少女に付けられた名は〈
水色の髪の毛先に小さな火が灯った様な少女はツインテールの髪と全身を覆うマントをはためかせて、人目に向う。
制作者ですら、長く鑑賞することが無かったそのプラモデルはようやく日の目を浴びた。
雷名轟く日はそう遠くない。
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