31話「女体化の親友、夜のお店かバニーガールか」

 深月の好きな人がシスターブレンダであることを確認するように声を掛けたのだが、それはどうやら俺の勘違いのようで相方から明確に冷たい声色で否定の言葉を受けると、それは決して照れ隠しとかではなくて本心だということが伝わる。


 そして互いに微妙な空気感のまま街へと戻ることになると、


「そう言えば今日の寝床どうする?」


 最初に口を開いたのは深月の方で隣から素朴な質問を投げ掛けてきた。


「どうするっつても、深月がわかんないなら俺にわかるわけねーよ」


 その質問に答えを返すことはできないが正直に言うと、異世界について知識が豊富な相方が悩むことのほどであれば、それは当然の如く俺のような男が答えを得られる筈もないことである。

 

「……はぁ。取り敢えず日が暮れる前に色々と探してみるか」


 街に到着したことで深月が溜息を吐きつつ小言を漏らすようにして呟くと、改めて今の俺達は無一文だということを自覚させられるが、まあ大抵のことはなんとかなるだろう精神で乗り越えていきたいところだ。


 そう、気持ちさえしっかりと維持出来ていればきっと大丈夫だと。

 それから相方と俺による無一文の寝床探しが始まりを告げたのである。


 ……がしかし適当に街中を徘徊してみても無一文というのはやはり辛い現状であり、寝床が見つかることはなく、ただ只管に歩くという単純な行為をしたせいで更に疲労を負わされただけであるのだ。


 しかも俺に関しては教会で腰を痛めていることから本音を言うと今すぐにでも体を横にして伸び伸びとした姿勢で安静にしていたいところ。だがそれは深月にも同じ事が言えて、教会に向かう時から足を痛めている節があり、そのせいで今では完全に足を気遣いながらの徒歩状態なのだ。


 つまり今の俺達の状態を的確に表す言葉としては満身創痍という言葉が相応しいのだが……そんなことを頭の片隅で思案しつつ一種の現実逃避をしていると、唐突にも隣を歩いていた深月が両足を止めて何かを眺めるように顔を僅かに上へと向けていた。


「どうした深月? 寝床でも見つかったのか?」


 相方が足を止めたことで何かを見つけたのかと不思議に思いながらも同じ方向へと視線を向けてみる。するとそこには街の情報提示版なる木製の板が設置されていて、どうやら深月はその提示版からならば何かしらの情報が得られるのではと考えているようである。


 そして情報を得たいが為に俺も同様に食い入るように視線を凝らして提示版の内容を見ていくのだが、なんと驚くことにそこに書かれていた内容としてはバイト募集という名の求人が大半を占めていて残りは街の連絡事項ぐらいであった。


「ほうほう、なるほど。バイトという手もある訳か」


 手を顎に当てながら書かれている求人を流し読みしていくと、これは意図せずとして中々に良い機会に巡り会えたのではないだろうかと思える。


 さらにバイトを募集している求人の中身を詳しく見ていくと、その中の一つには【うさぎの酒場】というお店でバニーガールの衣装を着て接客というものまである。


「ふむ、つまりは店の看板娘を募集しているということか」


 そう呟きながら敢えて横で呆然と立ち尽くしている深月へと視線を向けてみる。

 別に特段これ自体に深い意味はないのだが……まあ必然とそうなるのものだろう。

 それから相方は視線の気配に気が付いたようで数秒間だけ交えると目を点にさせていたが、


「なっ!? む、むりむりむりむりむり! 絶対にむり! む・り!」


 漸く視線に込められた意味を理解したようで物凄い速さで首を左右に振りながら否定の言葉を繰り出していた。それは恐ろしく早い首振り動作であり、この俺でないと認識は難しいほどだ。

 ……まあ実際はそんなこともないけどな。ただの比喩表現の一つである。


「まだ何も言ってないのだがな」


 否定の言葉が耳の中で反響しているが肩を竦めて返す。


「いや、お前の目がここで働けと言っていたぞ」


 人差し指を正面に向けながら相方は目を細めると先程までの焦りの声色から一変して途端に冷たいものへと変えるが、それはまるで人の心を読むことができる能力でも体得したかのように的確に内面を言い当てていて普通に怖いまである。


「お、おい! どうやらバイトの募集はこれだけじゃないみたいだぞ!」


 このまま話しを続けていては何だか雰囲気的にまずいことになりそうな気がすると、急いで話題を逸らす意味も込めて他の求人の存在を主張して逃げる道を選択することにした。


「んー、確かに他のもあるみたいだね」


 するとこれが功を成したのか深月の声色と目付きが通常のものへと戻ると、顔を忙しなく動かしては他のバイトの求人へと悩ましく視線を向けていた。


 これで取り敢えずは最悪の自体は免れることが確定した訳なのだが、そのあと俺達は数多の求人に目を通して一つずつ内容を見ていくと、その中には土木作業員の募集や夜のお店での接客業が大半を占めていることに気づかされた。


 やはりこういう世界ではこれぐらいの仕事しか逆にやることがないのだろう。

 あとこの中で一番日当額が多い求人は勿論のことながら夜のお店の接客だ。

 やはりこの手の職業はどこの世界でも高給らしい。


 ちなみにこの知識関しては姉貴がキャバクラで働いているから分かるだけで深い意味はない。

 俺は純然たる高校生となる予定の男だからな。心はいつまでもピュアピュアで居たいのだ。


 それと夜のお店での接客は15000ルーマニの日当が支払われるらしい。

 これが日本の円と同じならば15000円なのだが……現状としては分からないので取り敢えず円と同等の概念にしておく。


 まあ言わずもがな次に高給なのはバニーガールの衣装を着ての看板娘であり、最後が土木作業員のやつだ。つまり答えは既に見えている訳なのだが、一応ここは本人の意思を確認せねばならないだろう。なんせ働いて貰うのは深月本人であるからだ。

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