相方が女体化の呪いを受けて勇者一行から追放されると二人で異世界を旅することになりました。~最強と美少女が掛け合わされば天下無敵っ!~
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プロローグ「電車に轢かれて死んだ俺」
「ふぁぁっ……。まさかこんな極寒の中で電車を待たないといけなくなるとはな……。本当に受ける高校を間違えたと今更ながらに思うぜ、まったく」
二月特有の肌に突き刺さるような寒風が吹き荒れる駅のホームにて、欠伸をしながら白い吐息を吐いて愚痴を呟く俺の名は【
何処にでも居るような普通の男子中学生であり、今日は相方と共に某私立高を受験しに行くために朝早くから電車を待っているところだ。
そしてちょっとした自慢があるとすれば同年代の男子と比べても背が高く筋力があるということ。
ちなみに中学二年の頃には脳筋野郎という称号を相方から贈呈されたこともある。
まあ所謂あだ名というものだ。それと筋肉があると言ってもボディービルダーのようなガチムチのものではなく細マッチョに近い。
しかし幾ら脳筋野郎の称号を持っていたとしても、この壁すらもないような寂れた駅のホームではなんの役に立つこともなく、ただただ寒いだけである。
傍から見れば筋肉が少しでも多くあれば暖かいと思われるかも知れないが到底そんなことはない。
現に体が最低限の体温維持の為に小刻みに震え始めているほどに意味はないのだ。
それに元も子もない話をすれば別に筋力トレーニングをして筋肉を蓄えた訳でもなく、況してやプロテインなんぞという人工筋肉製造ドリンクに手を出した訳でもない。
生まれながらに多少の運動量で人並み以上の筋肉を得てしまう特異体質のせいなのだ。
例えるならば幾ら食べても太らないような人と同じだろう。
「しょうがないだろぉー。僕達のような知力が乏しい奴らに受ける高校なんて選べないんだからさぁ」
それから隣の方からは同じく体を小刻みに揺らして最低限の体温を維持しようとしている相方が口を開くと、それは紛うことなき正論で返す言葉も見つからなかった。そう、俺達はお世辞にも頭が良いとは言えず、なんなら学年成績は下から数えた方が早いまであるのだ。
しかしこの相方……名前は【
だが小学生の頃は別に深月とは友達という関係ではなく、ただの家が近い奴という認識であった。
実際に俺の家から深月の家とは徒歩三分ぐらいの距離なのだ。
更に小学生時代の虐めが影響しているのかは分からないが、中学一年の頃の深月は極力誰とも関係を築こうとはせず、休み時間になると一人でいつも本を読んでいた光景が強い。
あとあと何を読んでいたのかと聞いてみればラノベと呼ばれる小説を読んでいたらしいが。だけどタイトルがやたらと長くて、まるであらすじを聞いているかのような感じだったのを今でも覚えている。
それから俺がラノベとは面白い物なのかと興味本位で尋ねてみると、深月は瞳を星空のように輝かせて休み時間と放課を全て使い切る勢いで力説していた。
けれどその時の深月は異常なほどに早口で何を言っているのか聞き取れない部分が多々あった。
しかし全ての説明を終えると最後に深月が『実際に読んでみないとラノベの面白さは分からない!』と読み終えたラノベを貸してくれて、そこから俺達の関係性は始まりを告げたのだ。
まあ端的に言えば深月がラノベを貸してくれて、それを俺が読んで感想を伝えるを毎日繰り返していたら、いつの間にか友達という関係性になっていたということだ。
ちなみに俺が一番好きなラノベは無双系だ。なんかストレスなく読めて良い感じだった。
「はぁぁーっ寒い寒い! こういう日は家で布団に包まりながらゲームをしてゆっくり過ごしたいぜ。ちょうど新作のゲームもあるしよぉ」
両手を擦り合わせながら手のひらの温度を高めつつ、妄想に浸ることで寒さという概念を忘れようとするが、それは横から吹いてくる風により強制的に現実世界へと戻されて意味はなかった。
「そうだね。僕も早く試験を終わらせてアニメを堪能しつつラノベの続きが読みたいよ」
深月の方も妄想で寒さを和らげようとしているように見えるが、それは大間違いで妄想なんぞではなく事実であり、現に相方の右手にはラノベが握られているのだが寒すぎる故に開けていないのだ。
つまり今ここで圧倒的な寒さに負けて読むことを諦めたのだ。
あのラノベだけで白飯が食えると豪語していた深月がだ。
だけどそんな相方を目の当たりにして自然と笑みが零れるが、
「ふっ、相変わらずのオタクだなぁ。お前はもっとアニメやラノベの他に――」
「きゃぁぁぁっ!」
それは突如として駅ホーム内に響き渡る一人の女性の悲鳴により遮られた。
「っ!? な、なんだ急にっ!?」
「ど、どうしたんだろ……?」
その悲鳴がホーム内に木霊して直ぐに俺達も周りの人達と同様に視線を声が聞こえた方へと向ける。
するとそこには既に男の人が何人か集まりだしていて、
「お、おい! 大丈夫か!?」
「急いで緊急停止ボタン押した方がいいんじゃ……」
「女児が線路内に落ちたぞ! 急いで駅員を呼んでくれ!」
などという声が流れ聞こえてくるが誰ひとりとして線路内に飛び降りる者はいなかった。
だがそれも当然の筈なのだ。
俺達側のホームでは既に特急列車が通過していくアナウンスが流れた後だからだ。
「だれがだずけてください……おねがいじまず……」
線路内に落ちた女児の親だろうか泣きながら周りに助けを求めているが、やはり誰も動こうとしない。それに顔を合わせることすらも拒否しているような奴らが多数伺える。しかしよく見れば女性の腕には赤ちゃんが抱えられていて自らが助けに行くこともできない様子だ。
けれど時間的に考えて今すぐに行動すれば助かる希望は多いにあり、このまま駅員を待っていたら女児の命は最悪な形で失われる確率が高いということ。
その二つの選択肢が脳内に浮かんだ瞬間、俺の体は自然と動いて線路内に飛び込んでいた。
幸いなことにまだ電車の姿は見えない。これなら間に合うかも知れない。
「お、おい!? 何してんだ! お前まで死ぬことになるぞ!」
線路に飛び降りて直ぐにメガネを掛けたおじさんに怒声を掛けられる。
「うるせえ! 外野はそこで大人しく待機してろ!」
人差し指をメガネのおじさんに向けながら言い返すと、ここで何もしないで目の前で一人の命が終わることになれば、それは一生自分の中で後悔することになると確信を持って言える。
自分はあの現場に居たのにも関わらずただ傍観していたのみ、だがあの時危険を承知で動いていればきっと助けられた。そんな後悔をしないためにも今動くと決めたのだッ!
「大丈夫か! お嬢ちゃん!」
そして線路内に降り立ち進んでいと線路上に横たわる一人の女児を見つけて急いで近づいていく。
すると彼女は落下した際に頭を強く打ち付けたのか気を失っている様子であった。
「よし、今助けてやるからな。もう心配は要らないぞ」
恐らく聞こえていないだろうけど自身の恐怖心を払い除ける為にも言うと、しゃがみながらゆっくりと慎重に女児を抱えてホーム内に居る母親の元へと返すべく立ち上がる。
――だがその時、妙な振動が足裏から伝わり体が揺れると自然と顔は振動の根源たる物へと向けられていた。そう、通過予定の特急列車が物凄い勢いでホーム内に入ろうとしてきていたのだ。
「ウソだろ……。誰も非常停止ボタンを押してなかったのかよ!?」
「くそっ、駅員だ! 駅員は何処にいやがる!」
ホーム内からそんな焦りの声が多く聞こえてくると、これは典型的な誰かがやるだろうという精神で結局誰も何もしないという何処かの漫画で見たような落ちだとして、足裏から伝わる振動が次第に強くなるのを感じつつ冷静に考えられた。
恐らく今の俺はアドレナリンが湯水のように溢れて出ている状態だろう。
「取り敢えず、この子だけでも無事に親元に返さないとな」
一応自分も助かりたいという気持ちはあるが、女児は頭を打ち付けていることから急いで病院で見てもらった方がいい。それから振動のせいで体が大きく震えるが、なんとか女児を抱えた手を伸ばして母親の元へと近づける。
すると母親はホームの端から身を乗り出して周りの人達に体を支えながら女児を受け取ると、
「あぁぁっ……。ありがとうございますありがとうございます……っ!」
大泣きしながら掠れた声で何度もお礼の言葉を口にしていた。
これで一人の命が救われたと思えば、例え今この場で死んでも天国には行けるだろう。
「まったく、何をしているんだ雄飛は! ほら、急いで僕の手に捕まって!」
線路内でそんなことを思いつつ呆然としていると、ホームから深月が手を差し出しながら声を掛けてくれたことで意識が正気へと戻った。
「深月……ああ、すまないが手を借りるぞ!」
一体先程まで何を呆然としてたのだろうかと頭を左右に振りながら意識を正すと、相方の細い手を掴んで急いでホーム内へと這い上がろうとして全身に力を込める。
――だがその直後、不思議なことに金縛りに遭遇したかのように体の全部位が動かなくなった。
「お、おいどうしたんだよ雄飛! 早くしないと本当にやばいって!」
体の動きが何かしらの要因で封じられると這い上がることすらも出来ず、ただ深月の手を掴んでいるだけの状態であり必死に体を動かそうと奮闘するも指先一つ動かない。
「……すまない深月、手を離してくれないか? 何故だかは分からんが体がまったく動かん。このままだと、お前まで巻き込まれることになる……」
最早このタイミングで仮に体が動いたとしても間に合うのは五分五分であり、ならば深月だけも安全を確保すべきだとして直ぐに離れるように伝える。
「はぁ!? なに言ってんだよ! 冗談でも質が悪いぞ!」
しかしそれは軽い冗談として受け止められたらしく深月は声を荒げた。
「冗談ではない! 手遅れになる前に早く手を離せ!」
こんな状況下で冗談を言う訳がないのだが、相方は決して手を離すつもりはないのか両手を使い尚も引き上げようとしてくる。自分よりも体重の多い俺を華奢な腕二本でだ。
「……っ絶対に離さない! こんな所で唯一の親友を失いたくない! 僕は最後まで諦めない!」
気合を込めた声を出して自らを鼓舞している様子だが、深月の両手は既に限界を迎えているのか震えていた。当然そんな状態では体を膠着させている俺を引き上げることは不可能に近い。
そして運命というものは本当にどうしようもなくて、特急列車が止まる素振りすらも見せずにホーム内に轟音を響かせながら突入してくる。
「馬鹿野郎! 頼むから離――」
「くそくそッ! くそがぁぁあ――」
電車のけたたましい車輪の音に俺達の声が掻き消されると最後に俺が見た光景は親友の深月が全力で人を助けようとする
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