第15話 ここがワイの家とバカは眺める
4人は宿に併設された食堂で朝食を食べていた。
メニューはカチカチのパンと薄いスープ、ぶっちゃけ塩の味がほんのりとする体に優しいとしか褒めようがない。
ニィヤンは黙々と食べているが残る3人は不満そうにブツブツと言っている。
「ううっ、お兄さんのご飯がいいよ……お兄さんお手製の携帯食でもいいから出して、ねっ、ねっ!」
「ワイは贅沢は言わんで。だから酒だけ出して、ええやろ兄(にい)やん」
「これが一般的なんじゃが、ニィヤンに完全に胃袋掴まれとるよな」
そう白装束の30歳ぐらいの男、神様がぼやく2人に言うと身を乗り出した2人に胸倉を掴まれて揺すられる。
「当たり前やろ、アホ――! 兄やんの酒は格別なんやぞ」
「そうだよっ! ジュラは小さな頃からお兄さんの料理で育ったと言って過言じゃないの。中でもプリン様は別格で……ってアレ? そう言えばこの人誰?」
ニィヤンのプリンを妄信するジュラは我に返って今更ながら気付く。
ちなみにプリンを愛するジュラではあったがプリンアラモードの警護には失敗した。
ニィヤン達は犯人を捜す気はない。
宿に戻りジュンが帰った事を伝えに行った時に名残惜しそうにプリン専用のマイスプーンを舐めているジュラの姿が確認されたのみである。
神様は昨日、ニィヤン達の部屋へと直行してジュラとは会ってはいなかったが食卓に普通に集合して同じ食卓に着いたのに呑気なものだ。
一緒にいるニィヤンが何も言わないから問題と感じてなかったのだろうが聞くのが遅すぎる。
ニィヤン自身もジュラから問われてから答える流れを想定していた。
その想定の中で神様の紹介について昨日の夜、ニィヤンが目を覚ましてから受けた説明から神様と教えるのは厳禁と神様自身に言われている。
事情は分からないが何やら複雑な事があるそうでニィヤン達が知る必要はないとのことで聞いてはいない。
それで名前をどうしようかと言う話になったが本名は不味いらしい。それはニィヤン、ジュン両名も教えて貰えてない。
偽名を適当に付けるかという話になった時、ジュンが
「ワイに任せぇ! ジュラを納得させるのは得意や」
無駄に自信を溢れさせるジュンに一抹の不安を感じるニィヤンではあったがジュラを丸めこむのは確かに適任だった為、任せる事にしたが……
他の経緯などはニィヤンが適当に話を聞かせるという事で纏まっている。
「コイツはどっかの商会のボンボンらしい。働かず、家に置いておくと邪魔なうえに体裁が悪いという事で預かって欲しいと言われてな」
良く分からない顔をしたジュラに村に居た頃に付き合いのあった行商人経由でお願いされていたと告げる。
神様がニィヤンの説明を聞いてギョッとしていたが似たようなモノだろ、と思うニィヤン。
嫁にここでまともになれと言われるぐらいだから仕事も碌にしてなかったと思われる。
ジュラはヘェ―とまったくニィヤンの言葉を疑った様子は感じられない。
「で、お名前は?」
「それは……」
ニィヤンが若干言い淀んだが前にジュンが出る。
「コイツの名前はそう、『カ―さん』だっ!」
「ええっ母さん?」
「ちゃうちゃう、カーさんや」
ジュラはクエスチョンマークが浮かんだ顔をしているがニィヤンと神様は目が点だ。
混乱気味のジュラの長いウサギ耳に口を寄せるジュンが囁く。
「分かってやれよ。家を追い出されて本名を名乗る事の出来んオッサンの気持ちをよ」
「な、なるほど、辛い事だもんね、分かったジュラ突っ込まない」
そう答えるジュラにウンウンと頷くジュン。
ジュラがチョロくて色々と心配になるニィヤン。
しかし、神様、カ―さんの設定の話は今出したばかりでジュンも知らなかったのに即興で合わせて嘘を練り混ぜて言うのを見てこのペテン師め、と思わざる得ない。
村の女の子もその場で納得しやすい嘘を混ぜて騙したのだろうな、と思う再び、村の女の子の今後の幸せを祈る。
名前を自信ありげに言っていたがジュンは間違いなく神様の『か』の字だけ取って付けたのがミエミエでやはりバカとしか言いようがない。
だが、ジュラが納得してしまったので今更訂正も出来ないニィヤンは頭を抱えたいのを堪える。
「ワシは別に名前は何でもいいんだけどね?」
ニィヤンだけに聞こえるように言っているカ―さんであるがやはりちょっと不満はあるようで少し拗ねている。
とりあえずニィヤンは話を続ける。
「で、だ。このカ―さんの親が面倒見て貰う礼の1つでこの街の土地を提供してくれてな。飯を食い終わったら見に行くぞ」
これは昨日の段階でカーさんが用意してあると言われていた事で本当にあるらしい。
それに目を輝かしたジュラが「なら急ごっ!」と頑張ってカチカチのパンをスープに浸してパクパク食べ始めたかに見えたジュラであったが
「でも、どうしてここに土地が必要になるって分かったの?」
昨日の夕方に初めてジュラ達はここを拠点にすると聞かされていたから当然の疑問だ。
「ああ、その行商人にモルプレが拠点になる予定だと俺が告げたからだろうな」
ニィヤンの言葉をパンを口に頬張りながらコクコクと首を縦に振ってまったく疑う様子のないジュラ。
これはニィヤンに対する信頼なのか、はたまたジュラがチョロいのか悩ましい問題だとニィヤンは溜息を零した。
朝食を食べ終えた4人はカーさんの先導で町外れの空き地に連れられてきた。
結構広い。
その空き地を見た時に感じた感想である。
しかし、
「何もない。家を建てるところからかな? でも、お兄さんなら大丈夫だよね」
「そそ、兄やんならラクショーやろ」
ジュンとジュラは顔を見合わせ気楽に言って笑い合う。
当のニィヤンは空き地の外周をグルっと歩いて帰ってくるとカーさんに額がくっつく程近づけ睨みつける。
「ピッタリ過ぎる。お前、どれだけ俺の行動をチェックしてる?」
「ほ、ほんのちょっと、時々じゃよ?」
ニィヤンに詰め寄られて脂汗を浮かべるカーさん。
その様子から時々とは言えない頻度で見ていたとニィヤンは思う。
「だからバレたんじゃないか?」
カーさんにだけ聞こえる低い声音で告げるとそっぽ剥いて口笛を吹き出す。
必死に誤魔化してますというのを隠す気がないのだろうかとニィヤンは紫煙を吐き出す。
この様子だとニィヤンを転生させた事のバレた要因なのは間違いなさそうである。
「まあ都合が良いといえば良いがな」
ジュン同様、本当に手がかかりそうな神様ようだ。ライラに折檻してまともになれ、的な事を言われたらしいがそういう面倒を押し付けないで欲しいというのがニィヤンの本音だ。
諦めの溜息を零すニィヤンは空き地に向き直ると腰にあるポシェットの口を開ける。
何やら取り出す仕草をするとレンガ造りの二階建ての家が現れる。
「「……ッ!!」」
呑気に笑い合っていたジュンとジュラがピシッと言う音が聞こえたかのように表情が固まる。
そんな2人を無視して空いてる場所に同じように手振りをすると今度は村にあったニィヤンの作業部屋と似た建物が現れた。
口をポカーンと開けるジュンとジュラ。
「よし、こんなもんか。ああ、残りの土地に風呂とトイレを……」
「うむ、ワシの見立ては間違ってなかった」
建物を見て頷いているカーさんと忘れてたと空いてる土地に向かい同じようにトイレを出し、さすがに風呂をそのまま出せないようで棒を取り出し風呂設置場所を示すように線を引いていく。
線を引き終えるとニィヤンがポシェットをポンと叩くと線引きされた場所の土が消える。
「これで風呂を出せ……なんだ、ジュン」
背後に近づいてニィヤンの肩を掴んできたジュンに振り返る。
「兄やん、何でもあり過ぎん? やっぱり兄やんってドラ……ぎゃああぁぁ!」
ニィヤンに最後まで言わせて貰えず、いつものアイアンクロ―を喰らって悲鳴を上げるジュン。
そして、拠点になる家がモノの数分で完成したのであった。
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