第13話 ニィヤン死す、バカは泣いた

 ニィヤン達4人は白い空間、以前、ジュンが初めて神様と出会った場所にいた。


「場所を変えよう」


 そう神様に言われて移ったのだ。


 普通、そう言われたら酒場や食事処の個室という定番だが、さすがというべきか世界そのものを変える辺りは神様のようだ。


 移されても動揺する様子がない2人。


 いや、ジュンは動揺する気持ちより不貞腐れてるだけかもしれない。


 ニィヤンに死んでくれと言われ納得出来ない上にその状況になってるに対して理解が追い付いてないからだ。


 対して、ニィヤンは状況を飲み込めているようで慌てる様子もなく紫煙を吐き出し落ち着いている。


 そんな対照的な兄弟を見て絶世の美女、おそらく女神は乱れもないピンクの髪を整えるように撫でる。


「やっぱり貴方、落ち着いてるわね。この状況を予測してた、という事でいいのかしら?」

「ああ、神様はジュンの死の原因はバレると不味いと言っていた。生き返らせる事は基本不味いのだろう。だが、ジュンの死は神様の不手際、それに付随する不具合は神様側が背負う義務が発生する。しかし、俺は」


 そこで一旦切るニィヤンは紫煙を胸に入れ、隻眼で神様を見つめる。ニィヤンの視線に更に小さくなる神様。


「ジュンの我儘で行われた。神様自体に俺に対する責任は生じるかもしれないが他の神様達にそれを負う責任はない。バレてしまえば、修正に動くかもしれないとはずっと思っていた」


 そう、ジュンの死は神様の不手際。本来、生き返らせるのも不味いがそれは修正しなくてはならない。その結果、ジュンがこの世界に転生させられるところまではいい。

 勿論、ジュンを死なせてしまった神様はそちらの世界での責任追及、罰則などはあるだろうが処理としては間違っては無かった。


 だが、ニィヤンを転生させた事は蛇足で転生した事を修正しなくてはならないということだ。


 ニィヤンの言葉を聞いて少し感心したらしい女神は先程の少し見下したような視線に好意的な感情を乗せて隻眼を見つめてくる。


 反対に絶望という感情を乗せた瞳を向けるジュン。


「ワイのせいで兄(にい)やんが死なんとあかんのか!」

「気にするな、俺も理解した上で受けた事だ」


 全部はきっとジュンは理解は出来てないだろう。


 それはニィヤンも分かっている。それでも普段何をしても懲りる事を知らないジュンであるが自分のせいでニィヤンが死ぬしかない状況になっている事だけを理解して本気で落ち込んでいる。


 本気で落ち込んでるジュンの頭にそっと手を載せる。


「本当はお前が地に足が付く所までは居たかった。だが、足がかりだけでも出来た事で満足する事にしよう。贅沢を言うなら前世の無念は晴らしたかったが……」

「兄やん……ッ」


 ジュンはとうとう我慢の限界が超え、涙を流す。


 自分の事、痛みなどでは簡単には泣かぬジュンではあるがこれはどうにもならなかったようだ。


 その様子に少し嬉しげにするニィヤンにピンク髪の女神は嘆息しながら手をパンパンと叩いて注目させる。


「出だしがかなり意地悪しちゃった私が悪かったわ。事情は変わってるのよ」

「どういう事だ?」


 ジュンの頭に手を置いたままのニィヤンとまったく理解出来てないジュンは涙を流し口をへの字にして耐えるようにする2人に見つめられバツ悪そうにピンク髪の女神は続ける。


「まずは自己紹介がまだだったわね。私は恋愛神のライラよ。蛇足だけどコイツの第二夫人よ」


 親指で示す先にはエヘッと言いたげの神様がいる。扱いが雑だな、とニィヤンは思うが先を促す。


「貴方がこの世界に組みこまれた事である運命に改変の兆しが生まれたわ」

「その改変はそちらにとって都合が良いと?」


 ニィヤンがそう言うとピンク髪の女神、ライラは頷く。


 頷くライラは続ける。


「その結果、不幸が確定していた女の子の可能性が生まれたのよ!」

「おい、待て。それで俺の不具合を面倒見るのはどうなんだ?」


 確かに死なずに済むのは有難い話だが、そんな私情が入ってるような理由で回避されるのはどうだろうとニィヤンは頭を抱える。


 どうしてそこまでするのだろうとニィヤンが見つめると聞いてくれるの? と言いたげの顔は少し嬉しそうだ。


「このバカ亭主は私達がいるというのに他の女神にも色目使い出すはしまいには下界の女を物色し出す始末。そのせいで第一夫人のヨルズに至っては下界の少年に恋して天界から出て行ったのよ」


 男なんて女の子を幸せにする義務があるのよ、と闇を抱えた声音で呟くのを聞いて嘆息してしまうニィヤン。


 これがおそらくニィヤンが瞳を見た時に同情してしまった理由なのだろう。


 隻眼でギロリと睨む先には神様。


 それにビクッとする神様に「おいっ!」と怒気を込めて告げると慌てた様子で弁明し出す。


「だってな、どれだけ長い間いると思ってるんじゃ? ワシだってな、古女房から可愛い子に乗り換えたいと思っても……ぎゃあぁぁ!」


 ニィヤンは問答無用に神様の顔を鷲掴みにして吊るし上げる。


 ニィヤンは嫁など1人いれば充分だろう、という考えの持ち主。だから余計にそう思うのもあるだろうが今のセリフは看過出来なかったようだ。


「だからと言って悲しませる事を容認出来るかどうかは別だろう。こんな美人の嫁が居て、おそらく第一夫人も良い勝負する嫁まで居て何が不満なんだ」

「ぎゃあぁぁ、この兄弟、神を恐れなさすぎるぅぅ」


 更に力を込めるニィヤンは低い声音で「コイツもジュン同様、教育が必要だな」と呟く。


 その呟きを聞いたライラは一瞬呆けた顔をした後、薄らと頬を染める。


 そして、ニィヤンに近づくと優しく頬に手を添える。


「貴方、良い男ね。だから運命を改変させるのかもしれない……あら、いやだ。ちょっとヨルズの気持ちが分かちゃったかも」


 頬を触られた事と不穏なセリフに背筋に悪寒が走ったニィヤンは神様を掴んでた手を思わず放す。


 ここに来て初めて動揺するニィヤンにまだ頬を朱色にするライラはわざとらしい咳払いをして話を続ける。


「話を戻すわね。貴方は運命を改変させる可能性がある。まずはこれを見て」


 そう言うライラが両手を広げてみせると辺りにピンク色の小さな球体が星の様に浮かび上がる。星というのが相応しくパッと見て数えるのが億劫になるような数である。


「これは?」

「これは貴方が幸せにして上げられる女の子達よ」


 そうライラが告げた瞬間、ニィヤンの表情が凍ったかのように固まる。


 未だに話の流れが理解できていないジュンがそれを横で見て慌ててニィヤンの肩を抱くようにして揺する。


 慌てるジュンを無視してライラが告げる。


「自惚れちゃ駄目よ? 別に貴方じゃなくても幸せになれるんだから……どうしたの?」


 漸く、ジュンがニィヤンに抱きつくようにして泣いてる事に気付く。


 ジュンはエグエグと泣きながら天を仰ぐようにして叫ぶ。


「兄やんが死んだぁぁぁ!!」

「「ええぇぇぇ!!」」


 神様とライラが間抜けな声を上げて驚いた。

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