第40話 凶器⑥
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「やっぱり貴様が【犯人】か!」
すぐさま松平の怒号が飛んだ。
六条は激しく首を振ると
俯いてシクシクと泣き出した。
「これだから女っていう生き物は嫌いなんだ!
泣けば許されるとでも思ってるのかっ!」
六条の涙は松平の怒りを鎮めるどころか
火に油を注いだだけだった。
「・・そ」
その時、六条の口から小さな音が漏れた。
「あぁん?何だ?」
松平が六条を睨み付けた。
「・・そが」
ふたたび六条の口が微かに動いた。
「だから!
はっきり声を出せ!
聞こえんだろうが!」
間髪を入れず松平の怒号が響き渡った。
「・・くそが。
・・くそがぁぁぁ!
この糞爺ぃぃぃ!
わたしはぁぁぁぁ!
知らないって言ってるだろうがぁぁぁ!」
突然、六条が発狂したように叫んだ。
彼女は両手で髪をかき乱すと、
「キィィィィィ!
シャアアァァァァァ!」
と奇声をあげた。
彼女の突然の変貌に2人のやり取りを見ていた
僕も塚本も西岡も呆気にとられて、
ただ呆然と立ち竦んでいた。
「・・き、貴様!
開き直るつもりかっ!」
松平は一瞬、怯んだものの
すぐに体勢を立て直して怒鳴り返した。
「もぉぉぉうぅぅぅ!
何なのよぉぉっ!
どうしてぇぇぇ!
わたしがぁぁぁ!
責められないとぉぉぉ!
いけないのよぉぉぉ!」
そう叫ぶや否や
六条はビリヤード台へ駆け寄って
キッチンバサミを手に取った。
そしてそれを体の正面で構えた。
一瞬で部屋に緊張が走った。
柱時計の
コツコツコツと時を刻む音だけが
遊戯室に響いていた。
不意に西岡が一歩前に出た。
「う、動かないでぇぇぇ!」
六条がキッチンバサミを西岡に向けた。
しかし西岡は足をとめることなく
六条の方へ一歩ずつ近づいていった。
「そ、それ以上こっちへ来たら・・!
さ、刺しますよぉぉぉ!」
次の瞬間、
西岡が駆け出した。
「来ないでぇぇっ!」
六条がキッチンバサミを振り上げた。
西岡は六条の前で左右に体をステップさせると
左に体を倒して右脚で六条の左の脹脛に
強烈な蹴りを入れた。
「あぅぅ」
六条の体が左に揺れ、
彼女の口から悲鳴が洩れた。
西岡はそのままくるりと体を捻って
後ろ回し蹴りを六条の左側頭部に叩き込んだ。
ドスンという音と共に六条が倒れて
キッチンバサミが床に転がった。
一瞬の出来事だった。
皆が呆然とその光景を見ていた。
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