第27話 老いた豚との会話

応接室の柱時計が

コツコツコツと時を刻んでいた。


不意にドアが開いた。

部屋に入ってきた人物を見て、

僕は一瞬ドキッとした。


松平だった。


老いてなお浅ましい欲望を覗かせる

この豚は僕の姿をみとめると

「おう、1人か」

と手を挙げた。

「は、はい・・」

僕は動揺を悟られないように

瞬時に平静を装った。

「部屋には戻ってないのか?」

「は、はい・・。

 大した荷物はないので」

僕は足元の小さなトートバッグを引き寄せた。

それからそっと額の汗を拭った。

「まあ、隣の部屋に死体があるんじゃ

 気味が悪いわな。

 わっはっは」

松平は大袈裟に笑った。

その態度は僕の目にはどこか芝居じみて映った。

それから松平は

僕の対面のソファーにドスンと腰を下ろした。

「鈴木くんだったな。

 お前さんはどう思う?」

そう言って松平はやや前のめりになった。

「・・どう、とは?」

僕はあえて松平の質問の意図がわからない

という風を装った。

「・・誰があの男を殺したと思う?」

松平の目が僕を真っ直ぐに見つめていた。


その時、ふと思った。


松平以外にも

郷田を殺す機会があった人間はいた。

郷田の死体を発見した

六条、平原、菅野の3人だ。

第一発見者を疑うのは捜査の鉄則。

松平は3人の誰かが殺した可能性を

考えているのではないか。

しかし。

他の2人の目を盗んで殺すことが可能なのか、

そこに頭を悩ませているのかもしれない。


「・・わかりません」

僕は松平から目をそらした。

「心配せんでも

 儂はお前さんが犯人とは思っとらん」

何の前置きもなく松平はそう言った。

「わっはっは。

 お前さんはここに一番最後に到着した。

 お前さんが言った通り、

 応接室に来る前に2階に上がって

 あの男を殺すことは可能だ。

 だが、お前さんには

 封筒を盗み見る機会はなかった。

 ゲームを知る前のお前さんが

 あの男を殺す理由はない」

意外と論理的な松平の思考に僕は少々驚いた。

老いた豚でもまだまだ脳は衰えていない

ということか。

「そして当然、

 車椅子の彼女も【犯人】ではあり得ない」

そう言うと豚はニタァと大きく口を開けた。


応接室の柱時計が

コツコツコツと時を刻んでいた。


「やはり状況から考えて

 儂は死体を発見した3人と

 建物内を散策していた西岡の中に

 【犯人】がいると睨んでおる」

松平はそう付け足すと「わっはっは」と笑った。

まるで豚がブヒブヒと鳴いているようだった。

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