GROUND ZERO 〜特級スキル『パーフェクト・コピー』を持つ訓練生は、氷雪系最強の血筋、“フローレン家”の名を受け継ぐ暗殺家一家の御曹司〜 【第1巻】
平木明日香
パンゲアの土地
かつて、世界には風が吹いていた。
その風は空を動かし、命の“種”を運んだ。
「パンゲア」と呼ばれた世界では、すべての種族が同じ土地の上にいた。
すべての時間、——すべての“記憶”の中に。
すべての始まりは、大地に芽生えたある一本の植物からだった。
宇宙のはるか彼方から運ばれてきた「オメガ」と呼ばれる種子は、長い歳月をかけてこの星に辿り着いた。
何もない大地に緑が芽生えたのは、この種子が大地に根を張らしたからだった。
星に吹いていた風はオメガの“葉“を運び、大陸全土に生命の基となる“種”を届けた。
空は雲に覆われていた。
空と地上を結ぶ境界線には、決して晴れることのない灰色の闇が横たわっていた。
生命など、存在できる環境ではなかった。
その環境を変えたのは、他でもないオメガの緑だった。
オメガの運ぶ恵みによって、雲に覆われていた空は次第に晴れ、世界には青が広がるようになった。
そこから何億年もかけて様々な種が生まれ、人類の祖先となる原生生物が誕生した。
人類は「風」の子供だった。
世界の記憶の中には、かつて雲に覆われていた空の姿があった。
灰色に染まり、光さえも閉ざされた世界。
——暗黒時代の景色が。
人類は風の子であり、「夢」を見る存在だった。
世界には何もなかった。
神でさえ、存在していなかった。
人の体の中に赤い血が流れているのは、自らの足で、大地を歩くためだと言われている。
緑が広がり、青が降り注ぐ世界の中心で、「自由」を追い求めるためだ、——と。
やがてパンゲアの土地は分裂し、一つのものではなくなった。
自由を追い求める人々の足は、それでも、決して歩みを止めることはなかった。
たとえ、その足が、——「血」が流れる運命が、地平線の向こうに続いているとしても。
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