最重要捕獲人物 その2
引き続き建物から出てくる絶え間ない量の敵を鉛玉で穴だらけにしながら、
拘束対象のいるであろう奥深くへと進んでゆく。
「それにしても敵の数が多すぎる…どこを除いても敵がわんさか出てくるぞ。」
「そりゃそうだ!史実の九龍城砦でも最高で人口は約41万!もし史実と同じくらいいるとすれば、確か畳一枚に人4人が立ってることになる!」
やばい。流石にそれが全部襲ってきたらやばい。
でもここはあくまで行く当てのない離人者達が作って共同で生活し、そこに
黄中防協の拠点ができたものだから、そこまで襲ってくる兵はいないんじゃ
ないだろうか…
「予想以上に入り組んでるな…隙間が狭いし、ところどころ入れない横道もある。」
なるべく家屋を壊さずに最短ルートを突き進んでいるが、それでも相当な時間。
壁を爆薬でぶち抜かないのかと聞いたものの、どうやらそれは許されないらしい。
九龍城砦との約束で、『もし自分たちの
黄中防協とて、この量の敵と戦うのは利益がなくそもそもしないだろう。
「…ん?あれ?」
倒した敵をよく見ると、部隊章に
離反した組織のロゴではないワッペンを着用した者が複数確認できる。
「楊、このロゴを見たことあるか?」
携帯で死体を撮影したのちに楊に情報を聞くと、
「…それはフランス、セーヌの騎士団の
ロゴだ。仲間になるときの援助として、大量の兵を寄越したんだろう。
今資料を発見したが、どうやらセーヌの騎士団との貿易記録が残っている。
これは確実に、黒だ。」
完全にヨーロッパ側についていたというわけだ。
あらゆる敵を薙ぎ倒しながらも狭い通路を進み続け、ついに。
「ここが本丸か…」
眼の前には組織のボスが居ると思われる区画。だが扉はバリケードで固く塞がれている。
「ここからはもうアーマーは必要ないだろう。組織のボスに逃げられたら取り返しの付かないことになる。急いで発見し、生かして全てを吐かせるんだ。」
するとインベントリからロケットランチャーを取り出した楊は、その弾頭をぶっぱなして強固な扉を木っ端微塵にしてしまった。
「…やるじゃん。」
「どうこう言っている暇は無いぞ?
突入しろ!」
破壊された扉から、他の分隊員と共に突撃してゆく。
「クソッ、時間を稼げ!」
部屋の奥の方から声が聞こえた。目標のものだろう。
部屋の奥からはなりふり構わず爆発物や射撃が飛んでくる。
「俺達は終わったらここの修理を手伝うことになりそうだ!」
冗談を言いながらも的確に敵を処理する楊の後に続き、現在走って逃げているであろう男の声がした部屋をぶち破って入る。
「…あそこか!」
部屋の中には居なかったが、窓の外から九龍城砦の屋上を走って逃げている者の姿があった。
「あれか!
すまん、これ持っててくれ!」銃を持ったままでは遅くて間に合わないと思い、楊に投げ渡してから窓の外に飛び出した。
「あ、おい!
…ありゃ止められないな…よし、区画の制圧に向かうぞ!」
呆れた楊は天音に目標を任せ、残党の後始末に向かっていった。
九龍城砦の屋上。その上で追いかけっこをしているのは、離反した組織「
男は悔しく舌打ちをする。このまましっかり計画が進めば、この中国全土を支配した上あらゆる所とも関係を築き、愉悦に浸れていただろう。だが、いまの状況の通り計画は失敗した。恐らくセーヌの騎士団にも見放され、逃亡の身になるだろう。だが自分が助かればいいだけのこと。
(あの小娘だけなら…まだ俺の力で倒すことが出来るだろう。)
そう思って足を止め、天音を見て集中する…
急に足をとめた男に混乱する。
(まさか、ここで私を倒して逃げるのか?
確かに外側から見ればそれほどの戦闘能力は無いように見える。相手の慢心か、それとも…どちらにせよ、逃がすわけにはいかない。)
とファイティングポーズを取った途端、腹に蹴りを入れてきた。
「ぐは…っ」
咄嗟にガードを取ったが遅く、男に先制攻撃をされてしまう。
「げほ…っ、ごほ…」
「そこ迄強い訳じゃあ無さそうだな。
此奴なら、俺でも潰せる!」
倒れ伏して立ち上がろうとしている最中にも蹴りを入れられ、持ち上げられてから地面に投げられた。
「あがっ…」
(油断した。構えるのが遅すぎたんだ。)
このままではやられる、と直ぐに起き上がり、男から少し離れる。
(既に3発も攻撃を食らっている…これ以上やられたら、再起不可能になって逃げられるだろう。なら…)
考えを固めると、力を抜いたと思った直後に地面を強く蹴り、一気に男の眼の前に進み出た。
「そんなことでこの脚が反応できないとでも思ってるのか!」
男は片足を少し上げ、回し蹴りをしようとしていた。
だがその途端、男の身体はバランスを崩す。
瞬間的にスライディングをし、片足で立っていた男に脚をかけたのだ。
「小癪なっ…」
そして男がよろけると、その隙を逃さぬうちに立ち上がって後頭部へと強烈な打撃を加える。
「ぐぁ…」
一撃。その攻撃で昏倒させ、直ぐ手足を拘束して男を確保したのだった。
天音が男を背負って帰ってくると、
各部屋を制圧した後に心配そうに待っていた楊は不安が消し飛んだように話しかけた。
「しっかり確保したようだな。
身体の方は大丈夫か?途中争う音が聞こえたが。」
「…腹と腰に蹴りを入れられた上、全身を地面に叩きつけられたからな…あとで湿布どころか包帯巻いておかないとな。」
疲れたように男を地面に降ろす。何故か男の顔には大量に殴られた跡があるのだが…
「もしかして…やったなお前。」
なんとなく何があったか察した楊は天音を一瞥して言うと、天音の顔に少しだけ汗が垂れている。
「…いや、何も問題はないか…生きていれば話は聞ける。でも、やりすぎだ。
少しは自重してくれ。」
「あ、はい…」やっぱりバレてしまったか、という顔をした天音は、他の生け捕りにした離反組織のメンバーをトラックに載せ、黄中防協本部へと戻るのであった。
捕獲任務の終了より約数十分前の出来事。
本部の会議室では丁度議論が終了し、後日同盟締結の為の誓約書を送ることを決定した後だった。
会議室から出てきた四月一日達は、表情や動きに違和感なくとも精神的疲労が相当量溜まっていたらしく、一室を借りて休憩をしていた。
「襲撃された件のこともあって結構な時間が掛かったな…」
「次他のグランと会議が行われる際は、ああいう襲撃が無ければいいのですがね。
そろそろ天音さんも帰ってくるのでは?」
四月一日は天音が楊氏と共に任務に行ったことを会議が終わった直後に聞いていた。
「だろうな。複数枚のアーマープレートを着用した上でPKM機関銃を所持した重装兵装備…火力オーバーすぎて、直ぐに終わるだろう。」
「…それよりも、先程の手榴弾の直撃で生きて天音さんが助かったのは驚きでした。
ここの医療班には感謝したい気分です…本当に。」
幹線道路でカーチェイスをしている最中に
天音はモロに手榴弾の爆風を食らって、ほぼ重傷になっていた。
(もしあの状態から短時間で、ほぼ傷を全治させる者がもしいたのなら…こちらにも引き抜きたいものです。)
出された珈琲を飲みながら、ふと窓の外を見て思いにふけるのだった。
その一方。西ヨーロッパ、フランスにて。
カメラによって撮られた映像を見た白眉の人物が額に手を当て、大きな溜息をつく。
「中国組織の掌握計画は失敗か…
残ったのは米二大陸の組織、
。あそこの奴らはよく血の気が多く考えが浅い…すぐにでも懐柔して
仲間にできるだろう。
それが終われば…あとは攻め込むのみだ。」
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