第四十七話 黒騎士(激戦)物語 前編

百貨店地下闘技場特設ステージに引っ張り出された、黒騎士ことアリアちゃん。


エターナルブルーと呼ばれる、透き通った水色のクリスタルで作ったようなオーソドックスな剣を腰に下げ現れた。



「両者前へ!」その栄誉に輝いたのはギジェルだった。

スキルなく、魔法無く己の武のみで戦う黒騎士ともう一度……。


「時は来た……、胸を借りるぞ黒騎士殿」


アリアは正直その暑苦しさに、仮面の下でうぇ~とかやっていた訳だがエキシビジョンに出ないとママンが怒りそうなので仕方なく構える。


「名を名乗っては頂けまいか」ギジェルが丁寧に尋ね、黒騎士は剣を水平に構えると「ファントム」と短く答える。



「いざっ!」カイゼル髭と胸毛がVの字に燃え上がり、両肩には六属性の待機魔法陣がセットされた。武に生きるギジェルにとってはこれは屈辱恥辱の類、それでもファントム殿、貴女に届かんが為。ただそれだけの為に、俺は誇りすら捨てた!。



その様子が、まるで玩具のロボットの様で無茶苦茶かっこよかった為黒騎士の眼が紅く輝く。(実際には興味がむいただけ)



「初めて、俺を意識したようだな黒騎士殿」じりっと地面で左足を徐々に滑らせて距離を詰める。(まだだ、まだ行くな)


両腕は燃える様に、全身の筋肉は脈打っていた。



その様子に、観客席からどよめきが上がる。あの魔法スキル大嫌いのギジェルが、そこまでするのかと。



「拘りも誇りも不要だ、強さと結果があれば良い」



黒騎士は、それ以降無言で構える。


ギジェルは、その最初の一歩を踏み込んで舞台が爆発した。


「ゼウス!」拳に束ねられた炎が巨大な天を突くガンランスに変化、瞬きの間に黒騎士に迫るが黒騎士は剣の先をそのランスの先端にぴったり合わせ。衝撃で舞台がすり鉢状に陥没した。


残身だけで、炎の槍の周りに黒と紅と黄金の三色の雷が残っているではないか。


それを、見たラクセイが「嘘だろ、軍務卿の酔いどれ親父無茶苦茶つえぇぇぇ!」と叫んだ。近衛全員が、それに同意する様に高速で首を縦に振る。



ギジェルは止められるや否や素早く背中から通す様に槍を己の体で隠す様にして、次の攻撃を隠す。そのがら空きの体に黒騎士が剣を突くがその筋肉が隆起して薄皮一枚で止まってしまって僅かに血が一滴こぼれたに過ぎない。



「流石は、黒騎士殿。神武超金剛強化を使って尚この身に血を流させるとは」


それだけ言うと、形状は槍から両手剣に変わっていた。眼を見開く、黒騎士。


「武装千手(ぶそうレギオン)」その両手剣がまるで竜巻の様に猛攻を繰り出した。その全てが必殺、それを剣一本で両手剣の腹を叩いて軌道を逸らし。誘導し、最後には足で両手剣を踏み付けて止めた。


猛攻の間にも、待機している魔法陣から次々と氷やら炎をガトリングガンの様に飛ばし。土魔法で足を掬うべく舞台のパネルを剥がすが黒騎士は剣一本で避けるのとガードに徹するのみ。


「貴公、俺を馬鹿にしているのか?」「そんな訳はない、スキルも魔法も嫌いなお前がそれを使ってまでどんな攻撃を繰り出すのか興味があるだけだ」


黒騎士は、捌きながら答える。


「戦場にたてば皆同じ、負ければ屍ただそれのみ。それを馬鹿にするものは、武人にあらず。しかし、強いものに興味を持ったらダメだという法はないだろう」



ギジェルは尚も眼を見開いて、黒騎士を見てそして一筋の涙を流した。


「久しく、その様な事をいう武人にはお目にかかった事はない。そして、俺は貴女に興味を持ってもらえる程度には強さがあったと言う事だろう」


強スキル持ちは才能だ、魔法も才能。だから俺はそれらを自分が持っていても使わず勝てるだけの強さを追いかけて来た。


「文字通り闘気の動きも感じられず、魔力も一片もない」そのギジェルの言葉に会場の全てが聞き入った。


「それでも、貴女は俺の攻撃をこうして傷一つ負う事無く防ぎきっているっ!。 涼しい顔で余裕が透けて見える!!」


貴女こそが、俺の目標だ。貴女の様になれてこそ、この俺は自身の理想に届く。

今はまだスキルや魔法や闘気を使わねば、届かぬっ。


悔しそうに拳を握りしめ、前を向く。


そうした暑苦しい、ギジェルに黒騎士は静かに言った。


「武に生きるものは結果が全てだ、どれだけの努力を積もうが才能があろうが。死体になればそれはゴミだと言う事。プライドも誇りも才能もいらぬ」


いるのは、勝利その二文字のみ。


「ならば、貴女の強さを俺に見せてくれ。高みを、見せて欲しい!」


ギジェルの両足から、蒼い炎が上がりさらに速度も増していく。一蹴りごとに倍々に。やがて、全身の闘気がロボットの装甲の様にまとわりついていく。


オリジンでさえ、その速さに徐々に眼がついていかなくなっている。


「あの悪友、あんなに強かったのかよぉぉぉぉぉぉ!」とパパンの叫びも聞こえた。


更に、速度とパワーが上がりまるで闘気の形が四つ足のドラゴンだ。

否、翼の付け根全てに魔法陣が待機してる事も含めればパワーだけならカイザードラゴン並と言える。


アリアちゃんはチャリ代わりに使っているが、一般的にカイザードラゴンは弱くない。それを、人の身で完全再現している。翼から今もあらゆる属性の魔法が飛び出しながら、ブレス擬きの突撃を黒騎士にかましているのだから。


剣、両手剣、槍、弓、銃、様々な武器を切り替えて。


徐々に、会場ではギジェルの評価が魔王に遊ばれている面白いオジサンから。軍務卿に相応しい男にグレードアップしていくのが判る。


そこで、黒騎士がギジェルに対しニトロをぶちまける台詞をはいた。


「中々興味深い、大道芸だな。こんど魔王様の御前で披露したら喜ばれるのではないかな」と


その瞬間、ギジェルの血管がブチ切れた音が会場の誰もに聞こえた。


(続く)

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