第78話 トサカ頭のグリミー3号 能見

22:54分。


ボサッとした白髪頭の大森さんが持ってきた荷物の整理が終わり、後は中沢さんの到着待ちになった。


草加部は大沢君に受付に行くように頼んだ。


「はい」と大沢君は駆け足で車に向かい出発した。


草加部は休憩室に行き座った。


考えることがたくさんある。


”・・・・・・・・・・・・・。”


”・・・・・・・構内作業員は24時間体制のシフトで仕事してるだけなんだよな。それを夜勤は暇だとか楽だとか、どうしてこうなったんだろう。”


”暇だったら何なんだ?”


”楽だったら何なんだ?”


”誰かはやらなくちゃいけないんだろ”


”ビットコインはずいぶん上がったよなー、底値付近で買ってたからけっこうなプラスになっている。”


”ナイトワーカーズをNPO法人にするというのはどうだろう?ハラスメント撲滅を目指す。被害者の心のオアシス的な存在を目指して憩いの場を作る。”


大沢君が戻ってきた。


「草加部さん、そういえば仁田さんから聞いたんですけど、グリミー3号の能見さんが、月曜の3:00ぐらいに出社してくるなり、「暇だったべ、ゆっくり寝れたか、ゆっくり休めたべ」って言ってきたらしいです。」


「えっ、また言ってきたの」


草加部は、呆れたというか、うんざりしてきた。


日曜の夜間は一人体制だった。到着する荷物が少ないだろうという前提で一人体制にしていたが、けっこうな量が入ってくることがある。


どういう時かというと、


通常、その日に集荷された荷物は集約店に集められ、それを何台かの大型トラックで朝までに各営業所に運ばれる。それが全体の7割くらい。距離があるところからの荷物は昼になったり午後からの貨物列車で運ばれる。これが全体の3割くらいだ。


土曜に集荷された荷物は月曜の朝までに各営業所に運ばれるという流れだ。通常通り翌朝までに7割入ってくれれば、日曜の夜の量は少なくなる。この前提でのシフトだが、土曜の夜の当番の大型ドライバーが手抜きをして、ちゃんと持ってきてくれないと日曜日の夜に偏ってしまう。さらに月曜の朝も多くなるのだ。


日曜の夜間に想定以上の量が入り、それを一人で作業するとなると5時間くらいかかる。それを分かっていない人が多い。


土曜の夜に手を抜いて持ってこない大型ドライバーが、日曜なんて暇なんだからと触れ回っていることもある。


こういう会社の中の流れを掴めていない人が多すぎる。先輩が掴んでないんだから後輩も掴めていない。だから改善ができないのだ。


作業に5時間かかるということは5時間動きっぱなしということだ。誰がやっても疲れるだろう。


それを、ゆっくり休めたかと出社するなり開口一番で言ってこられたら不快になる。


「大沢君、大沢君だったら言えるか?」


「・・・・」


少し考えて大沢は答えた。


「言えないですよ、というか言わないですよ。」


「・・・・・」


草加部も少し考えて答えた。


「・・例えば、正月とか留守番みたいな当番でいた人にだって言えないな。お疲れ様ですでいいよな。もしくは、正月から大変ですねってなると思う。」


「それを、ここのドアを開けるなり言われたら嫌ですよね。」


「前にも能見さんには言ったんだけどな。」


草加部は少し考えて続けた。


「構内作業員は24時間体制のシフトで仕事してるだけだよな。」


「・・・そうですね」


「なんでこうなったんだ」


「本当にそう思います」


「毎日やってれば荷物が多い日もあるけど少ない日もある、これってお客様次第であって我々がコントロールできるものではない。荷物が少なければ大型ドライバーが扱う量も減る、我々も減る、配達ドライバーも減る。多ければその逆だ。」


「その通りですね」


「しかも、能見は足上げて寝てるんだよ。言われたくないよなー」


「頭がおかしんじゃないですか」


「異常だな」


草加部はリュックからおにぎりを出し、食べ始めた。大沢君もそれに倣い食事を始めた。


”はっきり言った方がいいかもな。”


「大沢君、もう一回話してみるよ。だって、こういうの嫌だよな~」


「はい、嫌です」


24:53分


中沢さんが持ってきた荷物の対応が終わった。


白髪でリーゼントの中沢さんは、「どうもね」と言って出発した。


「大沢君、休憩しよう。」

「はい」


草加部はタバコを吸いに行った。


星がきれいに見えた。これからの季節は星が見えやすくなる。


草加部はタバコに火を着け、星を眺めていた。


歩道から佐藤が手を上げているのが見えた。


”あっ佐藤さん?”


ーつづくー

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