息抜きで書いてる奴

ぬーん

第1話 機械

 着地に失敗。全体の80%が損傷しました。自動修復を使用し、破損箇所の回復を実行…


 エネルギーの不足。代わりにこれ以上の損傷を防ぐ為表面を修復します。


 成功。エネルギーの低下によりスリープモードへ移行…


 マスター、私は失敗してしまいました。


◇◆◇


 目を覚ます。

見知らぬ場所、見知らぬ人。

前後の記録を思い出そうとしても靄がかかった様に思い出せない。

私は何故ここにいるのか、私は何者なのか、私は何の為に生まれたのか。

それは既に記録の中に消えていた。


 「ここは…?」


 少し古いソファの上で目を覚ます。

体には毛布がかけられている。

ソファの向かいに窓があった為、そこから外を覗くと他の家が見える事からここが市街地なのだろうという事が分かった。

目の前にはまだ成人していないであろう少女が一人。

その奥には成人してはいるだろうが若い男が一人いる。

おそらく兄弟なのだろうか。

少女の方がこちらに顔を覗かせ、声をかけてくる。


 「目は覚めた?君、道端で倒れてたんだよ。ちっとも動かなかったし、とりあえずこのままじゃ不味いと思ってここに連れて来たんだ。」


 今度は男の方がこちらに気付き、近寄りながら私に声を掛けてくる。


 「お、起きたのか。身体の具合は大丈夫か?」


 「大丈夫…だと思います。」


 ぼやけた記憶の中で言葉を紡ぐ。

それにつれ最低限の記憶を思い出していく。

今、私はここにいる。

私は何か大事な事を忘れている。

私は何か大事な事の為に作られた物…機械である。


 「そうか。何かあったら言えよ。目の前で死なれると目覚めが悪いからな。」


 「ありがとうございます…ところで貴方達は?」


 「私はアイリ。で、こっちは私のお兄ちゃんのグイド。私たちは…


 その瞬間。

耳をつんざく様なサイレンが鳴り響く。


 「襲撃だ!揺れに備えろ!」


 グイドと呼ばれた男が叫ぶ。

それに合わせてアイリが机の下へと入り、グイドはそれを守る様に机を押さえる。


 「机の下に入れ!」


 それに合わせ私も机の下へと入った。

窓から外を見ると、四脚の巨大な機械が何体も闊歩していた。

そのうち一体が機械の正面と思わしき箇所に光球を創り出す。

何かしらのエネルギーを溜めているのだろうか、それが段々と巨大になっていく。

それに続き、他の機械達も同じ様に光球を創り出し、巨大にさせていく。

ある程度の大きさになった所で機械たちはそれを光線の様に飛ばし、辺り一帯を焼き払わんとしている。そこに市民がいる事など知らないかの様に無差別に。

外がまるで地獄の様になっている事は外を見ずとも床に伝わる振動により容易に想像が可能だ。


 数瞬経ち、振動が止む。

ただ、それは助かった事を意味する訳では無い。

外を見れば、機械はもう一度光球を創り出している。

しかし、その内幾つかは光線に貫かれて破壊された。

よく見れば、また別の機械が空を飛び、光線を放ち四脚の機械を破壊して回っているのだ。

しばらく経つと四脚の機械は全滅していた。


 「もう安心だ、出て来ていいぞ。」


 アイリが机の下から出て、私も続く。


 「今のは一体…?」


 私はそう尋ねる。


 「他国からの襲撃だ。私たちが今いる国"ラース社会主義連邦"は"カリュシア共和国"と戦争中でな、敵国が兵士を送り込んで来たっていう訳だ。」


 「…一般人まで巻き込まれてるんですか。」


 「そうだ。」


 「この国から逃げたいと思った事は無いのですか?」


 「そんな事は考えた事も無い。どうせ秘密警察だの何だのに阻まれるだけだ。」


 「…自己紹介が途中になっちゃったね。私と私のお兄ちゃんの二人でこの家に暮らしてる。貴方は?」


 私の名前を思い浮かべる。

しかしその記録は存在しなかった。


 「私…私は機械なので名前はありません。」


 「機械?…証拠は?」


 「こちらを…」


 証拠を見せる為に腕を取り外す。

中からは筋繊維の代わりに太いコードが露出した。


 「うぇ…」


 アイリが少し顔を歪める。


 「本当に機械なのか…」


 「私は命令を受け、ここに来た筈なのですが、内部が破損した為に命令を忘れてしまいました。一応修復機能があるのでエネルギーさえあれば記憶も戻ります。」


 「機械…それは少し不味いな。人に近すぎる機械を作る事はこの国では禁忌とされていて捕まる可能性が高い。先程の襲撃のせいで恐らく秘密警察が動いてるから…直ぐにお前を隠すか破壊しなければ駄目だ。」


 「…私は破壊されるつもりは無いですよ。」


 「そんな事分かってるさ。…そもそも機械と戦って勝てる気が起きないしな。念の為聞いておくが…戦闘はできるのか?」


 「…お兄ちゃん、何を考えてるの?」


 「一応だ、一応。」


 「出来ます。」


 「そうか。もし何かあれば俺もお前も俺の妹も死ぬ事になるからな。その時は頼むぞ…」


 インターホンが鳴った。

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