第15話 女子高生、家路につく。

「じゃあねワンコ」

「うん、ばいばい」


 最寄り駅で電車を降りたわたしは、六花りっかと別れると、長く長く伸びた影を引きずるように、重い足取りで家へと向かう。


「つ、つかれた……」


 もっとも、実際にはずっと座りっぱなしだっただけだから、いわゆるヒマ疲れってやつだと思う。ぎゅうぎゅうの人混みのなかずっと待たされたから人酔いしたってのもあるかも。


 裏鬼門うらきもんのダンジョンから開放されたのは、結局、夕方になってからだった。



「はぁ……さんざんな目にあった」

「あーあ、せっかく、おニューの武器を買ったのに」

「ダンジョンアトラクションはしばらくいいかなって感じ」


 お客さんは様々な文句を言いながら裏鬼門うらきもんのダンジョンをあとにする。


「本日は誠に申し訳ありませんでした」

「本日は誠に申し訳ありませんでした」


 ダンジョンアトラクションの係員さんは、入口でただひたすらに平謝りをつづけている。


「あの、ちょっとお伝えしたいことがあるんですけど」

「第三層が突然なくなったじゃないですか、あれって……」


 わたしたちは、ダンジョンの第三層で起こったことを話そうとする。けれども、


「本日の件につきましては、ホームページのお問い合わせフォームにお願いいたします」


 と、係員さんはロボットのように感情のこもっていない受け答えをする。


「第三層の異変、アタシたちが起こしたかもしれないんです」

「話をきいてくれませんか?」


「本日の件につきましては、ホームページのお問い合わせフォームにお願いいたします」


 だめだ。取り付く島もない。

 結局わたしたちは、係員さんに追い出されるようにダンジョンアトラクションの外に出た。


「ワンコ、どうしよっか?」

「しょうがないよ。明日、もう一度説明しにいこう」

「あーあ、今日はせっかくバズると思ったのにぃ」

「しょーがないよ、またがんばろ!」



 わたしは、年季の入った木造平屋建ての引き戸をガラガラと空けると、ぺたりと玄関に座り込むと、背中から声をかけられる。


「おかえり一子かずこ。帰りが遅くて心配したよ」

「ただいま、おじいちゃん」


 わたしはふりむいて笑顔で返事をする。


 おじいちゃんの名前は犬飼いぬかい一也かずや。今年でもう70歳になる。剣道道場の師範としていまだに毎日稽古場に立つバリバリの現役だ。

 髪はまっしろだけど、年中アロハシャツで見た目もずいぶんと若い。


「ごめんね。今日の稽古すっぽかしちゃって」

「いやなに、構わん構わん。ナウいJKの本分は遊ぶことじゃからのう」


 ナウいJKって……おじいちゃん、昭和と令和がごちゃまぜだ。


「そういや、おじいちゃん、今日、ダンジョンで辺なこと起こったんだけど……」

「そのまえにお風呂に入りなさい。こんなに遅くまでダンジョンを探索したんだ。ずいぶん汗をかいただろう」


 うーん。今日は中庭に座ってただけなんだけどな……でもその経緯を説明するとなると、玄関では長話になりすぎる。


「はぁい」


 わたしはおじいちゃんに返事をすると、お風呂場に直行した。





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