第29話
少し早いと思ったが、ティファはベッドに横になり「おやすみなさい」と目を閉じた。
まだ二十一時なのに。
「おやすみ」
僕は静かに答える。
バーへ行こうか迷ったが、小鳩老人から頂いた本をもう一度読みたいと思い、僕はまだ部屋の隅で座っていた。照明を付けるとせっかく眠りについたティファが目覚めてしまうと思い、スタンドライトのスイッチを申し訳程度に付けた。薄い暖色の明かりが僕の手元を優しく照らし、心なしか僕の気持ちも穏やかにさせてくれた。
暫く本を読み更けていたら僕は微かな喉の渇きを感じて、売店へ向かいストロング缶を購入した。部屋に戻った僕は直ぐに缶を開けて乾いた喉を潤したいと欲求にかられた。缶を開ける音にも気を使って手で缶の周りを覆うようにして蓋を開ける。そうすると、ティファの睡眠を邪魔することなく気付かれないまま部屋の中で酒を飲むことができる。ストロング缶を片手に僕は再び本の続きを読み込むことにした。
読み終えて時刻を確認すると二十三時を過ぎていて、集中している時の流れの速さとは恐ろしいものだと思わず実感せざるを得ない。
ふと視線を変えたその先には、静かに眠る美しい姿があった。
ティファがあまりにも静かに眠るものだから、目の前に美しい死体が置かれているようにも思えてしまった。
アンドロイドはログアウト状態になったら、その後は完全に思考が停止してしまうのだろうか。そうしたら、目覚めるタイミングはどう決めるのだろう。わざわざティファの電源を入れてあげたことなど一度もないし、そもそも電源があるのかもわからない。ティファの目覚めの原理は謎である。
そんなことを思っている僕であるが、目の前の美貌に思わず見入ってしまった。目の前で眠っているのはアンドロイドだから呼吸をしないとわかってはいる、わかっていたつもりだが、僕は無意識のうちにティファに接近して暫く眠る表情を間近で眺めてしまった。
華奢な腕と足、細いくびれのシルエットが服を着ていてもわかる。それに涼香によく似た整った顔立ち。しっかり女性の体をしていることに驚いた。
まさに綺麗の一言に尽きた。女性らしい肉付きをしたその美貌に目が釘付けになっていると、僕はその体に触れてみたい欲求にかられた。
少しなら…………、
僕は眠るティファの胸を触ってしまった。
鉄のような冷たく固い触り心地。でもフォルムはしっかりしていて揉んだ時の手に収まる感じはしっかりあった。
僕は胸を触ってああ、アンドロイドなんだよな。と、真実を告げられたようだ。
焦り急いで理性を取り戻して、自分がしてしまったクズ極まりない行動に呆れて、してしまった行動の悪さに自覚して申し訳なさと罪悪感で心は一気に埋め尽くされた。
僕は「だめだだめだ」と正気を取り戻そうとバーへ逃げることにした。
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