奇譚0013 裏池
高校の同級生だったコージーから久しぶりに連絡があった。「ちょっと頼みがあるんだけどさ」というので聞いてみる。
「今実家なんだけどちょっと用事があって出かけなきゃいけなくて代わりに留守番してくんないかな?」コージーの実家には高校の時に何度か行ったことはあるが泊まったことはなかった。
「どういうことよ?何かするの?ペットのお世話とか?」
「特になんもしなくていいよ。本当にいてくれるだけでいいし酒も食べ物も食べたいもの用意するし映画とか見てゆっくりくつろいでくれたらいいしバイド代も出すからさ、どう?」
最近金欠だしそれはありがたいし、その日は特に予定もない。
「家の人は誰もいないの?」
「そうそう、それで誰か家にいて欲しいんだわ」
「そこがよくわからないんだけど、なんで?戸締りして出かけりゃいいんじゃねーの?」
「まぁ、うちはそういうわけにいかんのよ」
「だからなんでよ?」
「実は俺もよく知らん」
なんだそれ?!
「ずっと昔からあの家は夜に誰か一人いなきゃいけないって決まってるんだよね」
こいつの実家は結構大きなお屋敷って感じでかなり古くからあるような感じだから昔からの風習的なものが残ってるのかもしれない。コージーは確か長男だからそういうのを受け継いだりもするんだろう。
で、結局きな臭さは残っているものの引き受けることにした。まぁコージーもその家族もずっとこの家に住んでて特に問題もなかったわけだし何かあるわけじゃないだろう。それに金欠だし。
「あ、あとな、ここの裏に小さい池があるんだけど、日が暮れたらそこにはいかないでくれよ」
「なんだよその怖い話みたいなやつは?」
「もし何かあっても誰かに言われても行かないどいてくれ」
「誰かって誰に?」
「まぁ大丈夫マイフレンド!」そう言うとコージーはさっさと出かけて行った。とりあえず炬燵に入って出前された寿司を食べてビールを飲んだ。色々聞きたいことはあるがまぁいいか。冷蔵庫の中には酒もツマミもたっぷりある。これで女の子でもいれば最高だけれどまぁいいだろう。広い屋敷で一人で留守番なんて中々する機会もないし、それにこの6畳くらいの畳の部屋でテレビがあって炬燵があって隣にはこじんまりした台所があってトイレもすぐそばで寝床もすぐ隣の部屋にあるからなんだか田舎の爺ちゃん家を思い出して落ち着く。でもこの部屋は何なんだろうな?お手伝いさん用の部屋みたいな感じなのかな?とりあえずバックトゥザフューチャー123を全部見るかと思いDVDを再生する。録画されたビデオカメラの中でドクが「逃げろマーティー!」と言っているところで誰かの声が聞こえる。
映画の音じゃないよな?DVDを一時停止して耳を澄ますと「おーい」という女の子の声。誰だよ?怖いんですけど。「おーい吉田くーん」と俺の名前を呼んでいる。え?まじで誰だ?と身構えていると「おじゃましまーす」と言って入って来たのは同じ高校だったミツキだ!
「えー!ミツキかよ!何々?どういうことですか?」
「なんで敬語なのよwww。わたしもコージーに呼ばれたんだよ?あーさむーい」そう言ってミツキが炬燵に脚を入れると俺の脚と当たった。やばー。ドキドキするんですけども。
「まじか。あいつ何も言ってなかったぞ」
「サプライズしたかったんじゃない?」
コージーよ。それならサプライズは大成功だよ。俺が高校時代にミツキが好きだった事を知っててコージーはこんなサプライズを用意してくれたのか!まじでサンキューコージー!とりあえずミツキの分のグレープフルーツサワーとツマミに生ハムとかオリーブとかピクルスとかチーズとかを適当に皿に持って「さぁさぁジャンジャン飲んで食べてくれ」「これコージーの家のやつじゃんw」とか言いながらワイワイしてると「ねぇねぇ裏の池ちょっと行ってみようよ?」とミツキが言う。「いや、コージーに行くなって言われてるじゃん?」「ちょっとくらい平気でしょ」「行ったらわかる的な仕掛けがあるかもよ?」「えー!?なにそれ?」「青髭的な感じでさ」「えー?もしかしてビビってるの?」「いやいやビビってないっすよ?でもさ、一応約束は守らないと、バイト代ももらうし」
いや、待てよ。コージーがこのサプライズを仕掛けたならそこには行くなっていう肝試し要素を持ち込むことで俺たちの仲が盛り上がって進展しやすくなるための演出なのかも?と都合よく解釈しそうになったが俺の膀胱がそれを止める。「ちょっとお花摘みに」と言って俺はトイレに行きついでにコージーに連絡してみる。
「どうした?」「今ミツキが到着してさ」「ミツキ?なんで?」「え?コージーが呼んだんだろ?」「呼んでないっていうか連絡先も知らんわ」「ええ?!」「そうか、まじか」「なになに?何がそうかなんだよ?」「今いるのはミツキじゃねーぞ」「え?じゃあ誰だよ?」「裏の池に行こうって言われなかった?」「言われた」「行ってないよな?」「行ってない」「とにかく絶対に行くなよ?そこにいるのはミツキじゃないから何言われても無視しとけば何もされない」「だから何なのよ?」「俺もよくわからんけど、とにかく日が昇ればいなくなるからよろしく!」そう言って電話が切れた。トイレから出ると目の前に無表情のミツキがいた。「わぁぁぁぁ」と悲鳴をあげてしまった。「ビビりすぎでしょ!私もお花摘み!」と言ってトイレに入った。やべー、今の聞かれてたか?まぁいい。とにかく裏の池に行かなきゃ問題ない。俺は部屋に戻ってバックトゥザフューチャーの続きを見始めた。ミツキじゃなくてミツキのようなモノが戻ってくる。「もうこんなん何回も見てるでしょ?見に行こうよ池」というミツキのようなモノはやっぱりミツキにしか見えないが俺は無視。「なぁなぁ?無視?ちょっとひどくない?」ひどいのはお前だ!人の恋心を弄びやがって!ミツキのようなモノは頭から炬燵の中に入り込んで俺の座っているところから顔を出した。「吉田君がしたいことしてあげようか?」ミツキのようなモノの体が俺の下半身に密着している。結構胸がでかいとか考えてる場合じゃない。「離れろよ!おめーは偽者だ!ミツキはそんなことしないぞ!」「あんたが私の何を知ってるのよ?私は吉田君のことが好きなんだよ?」「はぁ?おめー彼氏いただろ?あのイケメンの!」「そんなのもう別れたし。今は吉田君だけ!」一瞬心が揺らぐがすぐに舵をとる。「ふん、どうでもいいわ。さっきコージーが言ってたぞ。ミツキなんて呼んでないしそいつはミツキじゃないって」「その電話したコージーが偽物かもしれないじゃん!」「そんなわけねーだろ!もういい。俺は酒飲んで映画見てダラダラするからお前はどっかいけ!」するとミツキみたいなモノは「わぁぁぁーん」と子供みたいに号泣する。俺はテレビの音量を上げて無視。泣きながら部屋を出ていくミツキみたいなモノの後ろ姿を見て若干心が痛むが気にしない。あんなよくわからない存在とこれ以上関わっちゃいけない。コージーが帰ってきたらちゃんと説明させてバイト代も割増させよう。
それ以降ミツキのようなモノは姿を見せずバックトゥザフューチャー3の中盤くらいで俺は眠ってしまった。目が覚めるともう日が昇って昼過ぎくらいになっていた。いい天気だ。「おお、起きたか?無事でなにより」と言ってコージーが部屋に入ってきた。「なによりじゃねーわ。大変だったぞ」「まぁ何もなかったんだろ?よかったよかった」「あれは何なんだよ?まぁ俺もよくわからんけど、裏の池の何かなんだろうな〜」「その池は何なのよ?」「一応歴史があるらしいけど、見た目は普通の池だね。あ、でも珍しい鯉が1匹いる」「鯉?どんな?」「まぁ綺麗だけど普通の鯉って感じ。でも3億くらいの価値があるらしい」「は!?3億!」「本当かどうかは知らないけどさ」「お前自分家なのに知らないこと多いな」「そんなもんでしょ」「その鯉は庭なんかにいたら盗まれたりしないのか?」「まぁ庭って言ってもこの母屋に囲まれた中庭みたいな感じだから大丈夫なんじゃねーか?」「あ!じゃあ誰かが留守番してなきゃいけないのってその3億の鯉のためか?」「ああー確かにそういうことかもな」とこいつは適当なおとぼけコージーになってやがる。「鯉見てみるか?」と言われて確かに3億の鯉はちょっと見てみたいと思い裏の池に行き水面をみると真っ黒な中に満月が浮かんでいる。上を見ると夜だった。ああーそうか怖い話とかでもこうやって騙されるじゃねーか?さっきコージーだった何かは黒いドロドロになって俺を真っ黒な池へ引き摺り込んでいく。せめてミツキの姿で引き摺り込んで欲しかった。
了
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