カフェイン中毒女子の異世界救国物語 〜スキル「カフェインテイマー」で成り上がれ!〜

餡乃雲

序章

1話:スキル、カフェインテイマーと奴隷商人

「アイデアよ! 我に降臨せしめたまえ〜 なむ〜」


 私は高校生の佐藤花(さとう はな)。猛暑の夏も過ぎようとしていたある日のこと。私は学校の制服姿そのままで、深夜自室の机に向かってナムナムと手を合わせていた。

 今は三年生の夏の終わりという進路選択が差し迫った大事な時期。もちろん目前に迫った大学受験に向けて毎日毎日猛勉強の日々で、机の上には教科書や参考書やノートが山積みされている……、などということもなく、山のようになったエナジードリンクやカフェインタブレットが机の上や足元に転がっていた。


 これは一体どういう状況なのかと問い詰められそうなところだが、答えはいつだってシンプルなもの。


 私は現代ネット社会の金鉱脈、「な⚪︎う系作家」としてPVを稼ぎ10代にしてプロ作家デビュー。印税ガッポガッポの不労所得生活をするため、妄想と創作の世界に没頭していたのだった。


 世間一般ではWEB小説経由でデビューした作家を十把一絡げに色もの扱いのニュアンスでそう呼ばれている。

 私的には原稿用紙にペンで書いたものだろうがWEB上で書いたものだろうが、物語を書いていることには変わりないので、普通に「作家」でいいだろうにと思わなくもないが、誰でも気軽にWEB上で作品を発表できるようになったのは良いことだ。それに原稿用紙を出版社に送るしかなかったといういにしえの時代よりもデビューしやすくなったとも言われているので、悪いことばかりじゃないとも思っている。実際こうして私にもチャンスが巡ってきているわけだしね。


 結局のところ創作の世界は面白い作品が書けるかだけの勝負でしかなく、テクノロジーや時代に文句をつけても意味はない。


 ということで、私は「な⚪︎う系作家」としてプロデビューすことを目標にしていた。


 気を取り直した私は、いつものように「キメる!」の気合の掛け声とともに、冷蔵庫でキンキンに冷やしたエナジードリンクでカフェインタブレットを喉の奥に流し込み脳のリミットをかけずにブーストする。


「くぅぉぉ〜キンッキンに冷えてやがる! やっぱ創作のお供にはこれだにぇ〜〜!」


 10代の乙女的には他人に絶対に見せられない姿を晒す私だが、女の現実なんて所詮こんなものである。それはさておき手が震えているのが少し気になるが、限界に挑戦するにはリスクがつきもの。芸術は爆発なのだ。


 これはイケる! と芸術よりも頭が爆発しそうな私は、すかさずノートパソコンのテキストエディタを開き軽快なキータッチを奏で始めた。


 今日も元気だ、カフェインが美味い。


 このノートパソコンは高校入学祝いに5万円で買ってもらったんだけど、キーボードがオモチャみたいにちゃっちく、今にも壊れそうだ。私のタイピングする力が強すぎるのがいけないのかもしれないけど、そろそろ推しラノベ作家さんが使っているとツイッター(今はエックスか)で言っていた、リンゴがトレードマークの15万円する新しいノートパソコンが欲しいところだ。母さんにお小遣い前借りしようか。でも、受験しないなら働きなさいって言われてるんだよなあ。


 働くなんて絶対嫌だけど大学や専門学校みたいなリア充どもの巣窟になど行くなどもっと嫌だ。奨学金など名ばかりの借金をしたが最後、資産マイナス400万円スタートの社会人生活など絶対に嫌だ。


 そんなことを考えていたら閃き一瞬。「働いたら負け」をテーマにしたファンタジー小説を思いついた。


「おらおらおらおらー!!!」


 それからしばらく、私はどのくらい時間が経過したかもわからないほど猛烈に思いつくまま執筆に没頭した。すると不意に高速回転していた脳がぶつっと音を立てて途切れた気がして。直後鼻からドロっとした液体が出て、キーボードの上に垂れた。あ、鼻血だ……急いで拭かないとパソコン壊れちゃう。


 何とはなしにそう思い、ちょっと離れた場所にあるティッシュを取ろうとしたその瞬間。


「あがっ……」


 急に胸がドキドキして止まらなくなり、焦りも相まって呼吸も過呼吸に。手足が痺れ倒れ込む私。助けて……、でも呼吸が荒くなるばかりで、声が出せない状態に。


 そうこうするうちに、そのまま私の意識は消失したのだった。



……


 気がつけば私は、見知らぬ場所で仰向けに倒れていた。周囲は深い森で、聞いたこともない鳥の声や、見たこともない植物が茂っている。あれだけ苦しかった胸が苦しくない。着ている学校の制服も倒れた時そのままの姿だ。というか。


「ここは……どこ?」


 頭を振って、夢ではないことを確認するために自分の頬を叩いた。痛みが走り、これは現実だと理解する。あれ、私あのあとどうしたんだっけ。


「どうしてこんなところに……」


 困惑していると、背後から草花を踏みつける足音がし振り向くと、足音の主は低音で若干ハスキーで渋めな声を出した。


「おいお前。女子供がこんなところで何をしている?」


 振り返ると、そこには大男が立っていた。彼は頭にはターバン、粗末な服を着ており、背中に巨大なリュックサックと両手剣を背負っていた。アラビア風のコスプレ、ではなさそうだ。


「どなたですか?」


 恐る恐る尋ねると、


「俺は奴隷商人のリュウだ。森にモンスター卵を採取するために入ったら、女子供の声がしたので来てみれば。お前みたいのが、こんなところで何をしているんだ? まあ、見た感じ怪我もしてないようだし大丈夫そうだな。立てるか?」


 「奴隷商人」と聞き、少し警戒しつつもリュウの手を借り立ち上がる私。


「ありがとう、リュウさん。私の名前は佐藤花といいます。ところで、ここはどこでしょうか?」


 お嬢様モードでとりあえず当たり障りのない世間話を試みる私。

 だがこの時点でふと思い至ったことがある。これって「小説家にな⚪︎う」でお馴染みの異世界転生ってやつじゃないだろうか。きっとカフェインの取り過ぎで倒れたあの瞬間一度死に、神様のいたずらで転生したとか。

 見た目がアラビアンナイト風の明らかに日本人ではない人と言葉が通じるのも、異世界転生のあれやこれやと考えれば納得できないということもないし。それに周りの植物をみると異様にデカいし、形や色も見たことないものばかりだ。「異世界転生した説」、割と信ぴょう性あるような気がしてきた。


「ここはどこかだって? それにサトウハナなんて変わった名前だな。あー、ここはエルディア大陸の南側諸国の一つレグリア王国の東端、魔の森と呼ばれているモンスターの出る危険な場所なのだが。……その顔、聞き覚えはなさそうだな」


 はい確定。ここは異世界ということで間違いなさそうだ。そしてリュウさんは、私の反応に怪訝な表情で首をかしげていた。


 だが私は、創作の世界を生きてきた人間だということもあり、この異常な状況をむしろ一般的な人よりすんなりと受け入れることができていると思う。というかむしろ創作の糧になりそうなので、先ほどからずっとワクワクしていた、という方が正しいのかもしれない。だいぶイカれてるよな。


 まあここが異世界なのだとすれば、どちらにせよ目の前の男から情報収集をしないといけないだろう。

 できるだけ丁寧な口調で。間違っても創作者としての自分を出してはいけない。これでも私は、ご近所では評判の娘さんで通っているくらいには猫被りスキルがあるので、与える印象によってはもしかしたら助けてくれるかもしれないから。これは私なりのサバイバル術だ。


「ええ、遠い場所から飛ばされてきたみたいで、地名には全く聞き覚えがないのです。リュウさん、できれば私を安全な場所まで連れて行ってはくれませんか?」


 うゆゆゆ、と悲しげに瞳をうるませる私。そんなクソ演技に騙されることのなかったリュウさんは、大鷲のような眼光を私に向け、腕を組み首を軽く傾け思案したのち、


「ほう、なるほどつまりサトウハナは異世界人なのか。確かによく見るとお前、変わった服を来ているしな。若干のあざとさは否めないものの、嘘は言っていないと見た。それに、こちらの世界に迷い込む異世界人はこちらの言葉を理解し、不思議な格好をしており、そして鑑定、アイテムボックス他、特殊なスキルを有するとの噂だしな。もしお前の言うとおり、お前が異世界人で何か特殊なスキルをもっているなら、いいだろう。俺の弟子にしてやらんでもない。それなら助けてやるが、どうする?  弟子の件を断った場合はもちろん、特殊なスキルがなかった場合は俺が助けることはない」


「あ、はい。それで大丈夫です。ですが、私にスキルがあるかどうかなんて、どうやって確認するんですか?」


 悲しそうに瞳を「うゆゆゆ」とするクソ演技は意味がなかったのでやめ、素直な表情でリュウさんに問う私。

 と聞きつつも、「鑑定スキル」など創作の世界ではむしろ常識の部類に入る。アイテムボックスもそう。自分のスキルなど鑑定スキルで確認するに決まっている。異世界人が知っている方がおかしいので、あえて質問したということになる。


「自分に向かって「鑑定」と念じてみろ。本当に異世界人ならば、最低限鑑定スキルとアイテムボックスのスキルが備わっているはずだ」


 案の定彼はそう言った。頼む! 何か特別なチートスキルがあってくれ! 生存をかけてというよりは、私は自分自身の趣味趣向と創作意欲を満たすため、そう願いを込めて、自分に「鑑定!」と念じてみた。すると、


名前:佐藤花

職業:なし

レベル:1

体力:7

魔力:3

俊敏さ:6

器用さ:7

スキル:鑑定、アイテムボックス、カフェインテイマー


 と表示された。うおー! スキルが3つもだと!? とテンション爆上がりな私。私はさらに「カフェインテイマー」という文字に向かって意識を向け、「鑑定!」と念じてみた。すると、


【カフェインテイマー】

(効果)

カフェインを摂取することで、特定の時間だけ獣魔や人間をテイミング状態にできる。テイミング状態中の獣魔や人間は仲間となり、自分に従わせることができるが、対象によってテイミングの難易度が異なる。強力な獣魔や人間をテイミング状態にするには大量のカフェイン摂取を必要とするが、カフェイン許容量はテイマー自身の「体力」に依存し、テイミングの成功率はテイマーの「魔力」に依存する。カフェイン値の上昇に伴い、魔力が上昇する。

(デメリット)

カフェインの覚醒効果が切れると対象のテイミング状態が解除されるため、効果時間内に目的を達成する必要がある。カフェインの摂取量が増えると、依存性や耐性が強まり、摂取しないと禁断症状が出る。過剰摂取すると体に負担がかかり最悪死に至る場合もあるので、適度にカフェインを抜く時間を設けることを推奨する。


 と出た。


 うひょーー!! ん!? これって、ひょっとしたら使えるスキルなのかな? リュウさんは奴隷商人で、モンスターの卵を拾いに魔の森に入ったと言ってたからね。


「リュウさんありました! 特殊っぽいスキル「カフェインテイマー」が! それにアイテムボックスと鑑定スキルもありましたっ!」

 口角泡を飛ばす私。どこいったお嬢様。

「ほほう、なら話は変わってきそうだな。そのスキルについて詳しく聞かせろ」

 不適な笑みで返すリュウさんに、私はスキルの鑑定結果を伝えた。


「ふむ、制限があるとはいえモンスターと奴隷を扱う俺の商売とは相性が良さそうだ。いいだろうサトウハナ、お前を俺の弟子にしてやる」

「ありがとうございます、リュウ師匠!!!」

 さっそくリュウさんを師匠呼ばわりする私であった。

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