第8話 “月の欠片”はもう探せないらしい。

 明日、いよいよ私とシャルルはエイダム様が居るデミアン領へと旅立つ。

 見送りを兼ねて皆が宴を開いてくれたけれど、飲み過ぎないように気を付けないとね。

 明日は一度列車でエスト王国へ立ち寄ってから、乗り換えてデミアン領へと行く。

 そのエスト王国まではネモフィラお母様が一緒に行ってくれるんだって。

 ネモフィラお母様の育ての親、といっていいのかは分からないけど、その墓前に今回の事を報告したいんだとか。


 で、その宴の最中。

 やっぱり話はあの“月の欠片”の事で持ち切りとなった。


 「そういやこの世界の月の欠片って、結局私達も見てないのよね。」

 「ワシが居た世界、ジーマの世界、その二つの月の欠片を見たのはワシとカスミくらいじゃからなぁ。」

 「あ、私も二つとも見たよ。ウリエル様に吸収されるとこも。」

 「私も見た。でも、二つは色が違っていた。」


 それぞれの世界、というか地球には、必ず存在するんだそう。

 サダコお母様が居た世界は全くの異世界、ジーマという世界はもはや存在しない世界。

 ジーマはともかく、サダコお母様が居た異世界は、それが無くなってどうなったんだろう。

 というか、無くなるとどうなるんだろう。

 

 「カスミお母様、その“月の欠片”が無いと、この星はどうなるのですか?」

 「うーん、ぶっちゃけどうもならないのかもしれないわね。」

 「そうなのですか?」

 「かつてジーマが言っていたんだけどそれってこの星のエネルギーの塊って言ってたっけ。でも、それがこの星の源という訳じゃないみたいだねー。」

 「そうじゃの、どちらかと言えば余剰分の力、なのかも知れぬな。つまりは予備エネルギーとでもいう物やも知れん。」

 「という事は、一度無くなってもまた発生する、という事でしょうか?」

 「どうなんだろうね、流石にそこまでは解んないかな。エルデなら知っているでしょうけど、今はエルデと会話できるのってシヴァ様やルナ、ウリエルだけだもんね。」


 エルデ様はかつては私達家族全員がその声を聴けた。

 お父様に至っては自由にコミュニケーションが取れていたんだって。

 もちろんエルデ様は、普通の人々がそんな事できるような存在じゃない。

 何しろ、この星そのものなのだから。


 「いずれにしても、だ。先日も言ったがそれの存在は理解しておくだけで良いと思う。」

 「そういやルナはアレがどういったモノかは詳しく分かるんじゃないの?」

 「確かに私はそれによって転生した。しかし、それだけの事だ。その物の詳細までは掴めない。」

 「そうかぁー。」

 「どのみち、だ。探すにしても全く手がかりもない。現状ではそれに割く時間もないし、必要性もない。」

 「そう、ですね。」

 「ただ、コアの封印に絶対必要、という訳ではないのであれば、だがな。」

 「まぁ、あれよ。そっちは別件という事で私達のほうで当たってみるわね。あなた達は自分の力を上げる事に集中して、ね。」

 「ありがとう、カスミお母様。」


 あるのかどうかも分からない“月の欠片”を探すのは、とっても大変というか、時間がかかると思う。

 今はそれが目的じゃなくて、私とシャルルが力を付けてモンスターを討伐できるまでにならないと。


 宴も終わって、あとは自室で明日に備え休むだけだ。

 部屋には私とシャルルだけ。

 シャルルはずっと、その“月の欠片”の事を考えているみたい。


 「どうしたのシャルル。やっぱり月の欠片が気になる?」

 「うーん、というかさ、それって在ったところで結局は封印に使えるかも、というだけ事なのよね。」

 「そう、だね。可能性の話だね。」

 「それなら、さ。封印自体は、お父様と同じ事をすれば済む話じゃん?」

 「でも、それ自体出来るかどうか、じゃない? 難易度で言えばそっちの方が高い気がするけど。」

 「そ。まさにそこなのよ。不可能じゃない、でしょ?」

 「まぁ、難しいってだけだもんね、たぶん。」

 「私達にどこまでそれに迫れるかは、この修行の旅の内容にかかっているんじゃないかって、ね。」

 「シャルル……」

 「ねぇディーナ、私は絶対、お父様の意志を継いで、この世界の安全と平和を維持したい。絶対に。」

 「私も同じだよ。じゃなければ、こんな決断しないし、ね。」

 「もし、もしも、だよ。私が挫けそうになったら、お願いね。」

 「もちろん。こっちもお願いするわよ。」

 「えへへ、どついてでも立ち上がらせてやるわよ。」

 「あんたにどつかれたら、それはそれで立ち上がれないんじゃない?」


 いずれにしても、私達は前に進んでいくだけ。

 大好きなお父様の意志を継ぐ、という事もあるけれど、大前提としてこの世界を守りたい。

 勇者の子として、いえ、お父様の子として。

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