より早く真相を探れ
一通りの説明を聞き終えた虎和と護千代は、城下町に出た。
妖魔退治の基本は情報収集である。このような怪事件を起こす妖魔は、当然ながら高い知性を持っている。巧妙に姿を隠している事も多いので、虎和が先程倒した牛鬼のようにはいかないのが常だ。
故に、分析する。事件の特徴などから妖魔の習性などを予測し、正体を推測する。そして少しでも有利に勝負を進めるのだ。
「ふむ、怪死事件についての調査ですか……」
二人はまず、怪死事件の被害者を診た医者の元を訪ねた。藩内でも有名な医者なので、信頼できる情報が多く手に入りそうだ。
「はい。些細な事でも構いません。知っている事をお話していただけませんか?」
護千代は先程の虎和への態度が嘘のように、物凄く丁寧に聞き込みをしていた。やはり名家育ちという事もあり、礼儀作法自体はしっかりしているのだろう。恐らく本人の性格に問題があるだけで。
「そうですね。まず怪死事件の被害者の方は全員、目立った外傷はありませんでした。なので死因は毒だと思うんですが……。こんな短期間で二十人以上が毒死だなんて、普通あり得ませんよ。やはり妖魔の仕業なのでしょうか……」
「毒、ですか……。他に何か気になる事はありませんでしたか?」
「あとは、全員が夜に死んでいるといった所でしょうか? ……あーあと、怪死の一部始終を見ていた方の証言に気になる部分がありまして」
医者はポンと手を叩いて、机から紙を取り出した。彼が目撃者の証言を記録しておいたものだ。
「気になる部分、というのは……?」
「その方によりますと、目の前に一瞬だけ薄い煙のような物がかかったと。そしてそれが晴れた次の瞬間には、被害者の方が苦しみだして倒れたそうです。まぁ目撃者がいたのはこの一件だけで、他でも同じような事が起きているかどうかは分かりませんが……」
そこまで医者の話を聞くと、虎和は立ち上がった。
「貴重な情報ありがとうございました。お陰で、事件の真相と黒幕が見えてきました」
それだけ言って、虎和は出て行ってしまった。護千代は慌てて後を追う。
「おい待てよお前。たったあれだけの情報で真相が見えたとか、流石に嘘だろ?」
「いや、俺はもうほぼ分かったよ。情報収集ももう良いかな。俺は一足先に宿に行くことにするよ」
虎和はひどく余裕そうな表情で、宿の方へ歩き出した。
「全く、あれだけで妖魔の正体が分かる訳がないだろ。情報収集すらしないなんて、本当に桜様の家臣になる気があるのか? ……まあ良いか。その分俺が情報を集めまくって、先に事件を解決するってだけだ」
その後護千代は、久我家の人脈や金の力で、日が沈むまであの手この手で情報を集めた。一方の虎和は、町の宿でのんびりと眠っていた……。
そして、夜がやって来た。
~~~
丑の刻(午前一時ごろ)。
虎和は刀を持ち、宿を出た。
護千代がどれ程の情報を手に入れているかは分からないが、行動は早いに越したことはないだろう。
医者の話から、その妖魔が夜遅くに行動する事は分かっている。虎和は夜遅くの活動に備えて、早めに宿へ行き睡眠を取っていたのだ。
夜の城下町を歩く。行燈を持ちながら歩いている男を一人、見つける。
次の瞬間、その男の周りに薄い煙が立ち込めた。
「そこの男! 離れて!」
叫ぶと同時に虎和は駆け出した。すぐに男の元まで辿り着き、鼻と口を着物の袖で覆いながら煙から離れる。
「取り逃がした……。私を嗅ぎまわる愚かな侍、もう一匹いたのね。私の至高の時間を……邪魔しないで頂戴!」
男を覆っていた煙から声が聞こえてくる。煙は一か所に集まっていき、やがて不気味な顔の女になった。
「ひぃ!? 何だこれ!?」
「まぁ、お前だと思ったよ。
煙ヶ羅は煙の妖魔である。体が煙で出来ているため、どんな姿にもなることができる。
虎和の推測通り、この怪死事件は煙ヶ羅が毒性の煙を夜道を通った者に吸わせて殺していた、というのが真実だった。
「あなたは早く逃げて。煙ヶ羅は上位の妖魔だ、守りながら戦える自信は無い」
虎和の冷静な一言で、取り乱していた男は一目散に逃げて行った。
「……まぁ良いわ。お前みたいな妖魔狩りを殺してやるのもまた一興。さぁ、醜い死に顔晒しなさいよ!」
「さて、妖魔退治の時間だ」
虎和は刀を抜きながら、静かにそう言い放った。
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