築ノ宮さんのおはなし

ましさかはぶ子

築ノ宮さんのおはなし その5



絶対に人前でしない事 その1



今日の晩御飯はクリームシチュー。

スーパーで売っている箱に入ったもので、

野菜もゴロゴロ入っていていわゆる家庭で作る普通の物。

築ノ宮さんはそれが大好き。


その日は仕事で遅くなる予定だったが、

家政婦さんに晩御飯のメニューを聞いて、


「絶対に家で食べます、残しておいてください。」


帰宅すると家政婦さんはまだ起きていたので

夕飯の準備をしようとしたが、

築ノ宮さんは自分でしますからと丁寧に断り、

食事の準備を始めた。


鍋にはわりとシャビシャビのクリームシチュー、

そして炊飯器には固めに炊いたご飯。

ぜーんぶ家庭用クリームシチューの時の築ノ宮さんの好み。

家政婦さんよく知っている。


両方とも温か、帰って来てあったかいもの食べられるって

本当に嬉しいねぇ、と

築ノ宮さん、大きい皿によそったシチューを前に

手を合わせていただきます。


そしてやおらシチューの中にご飯を入れてかき回した。


これ、絶対に外ではしないの。

偉いさんと外食する時にもシチューを食べた事あるのよ。

生クリームで作られたホワイトシチュー、

牛肉がほろほろ溶けるようなビーフシチュー、

一流の料理人の方が作った最高級の食事は

そりゃ言うまでもなく美味しいの言葉一つで堪能よ。


でも自宅で食べるシチューにご飯突っ込んだ、

人によっては眉を顰められる食べ方も

これも最高に美味しいのよ。


「ごちそうさまでした。」


築ノ宮さん、両手を合わせて頂いたものに感謝、

そして家政婦さんにも感謝。

当然きちんと後始末もするわよ。

築ノ宮さんだもん。







絶対に人前でしない事 その2



目に違和感を感じて眼科へ。


「あー、赤くなっていますね。雑菌が入ったかな。」


一週間ほど目薬を差すこととなった。


じつは築ノ宮さん、目薬が苦手。

見えているところから雫が落ちて来るのよ。

怖いわ、怖いわあ。


でも目薬は差さなくてはいけないので

恐る恐る試してみた。


そして発見したのは

目薬を差す時に大口を開いているとどうにか差せるのだ。

しかしあまりにも間抜け面なので人前では出来ません……。


ちなみに人に差してもらった事はあったが、

目に力がぐぐぐっと入ってしまって


「力を抜いてくださいねー(怒)」


と言われたりした。

多分口を開けていると顔の力が抜けるのかもね。







人前では絶対にしない事 その3



築ノ宮さん、今日の晩御飯は茶碗蒸し。


今日は早めに帰れたので家政婦さんと

その旦那さんの運転手さんと一緒に夕ご飯。

この二人は築ノ宮さんが子どもの時から面倒をみてくれている人。

ほとんど家族みたいなもん。


テーブルにはみんなの前にほかほか茶碗蒸し。

築ノ宮さんの茶碗蒸しだけなぜかどんぶりサイズ。

そしてみんなでいただきますをして食事開始。


そして築ノ宮さん、でかい茶碗蒸しに

固めに炊いたご飯をやおら突っ込む。

そしてスプーンでいただきます。


特に皆気にも留めず、

今日あった事を話したりの当たり前の食卓。


「でも築ノ宮様、昔からその食べ方好きですねぇ。」


後片付けをしながら家政婦さんが言った。

築ノ宮さんはみんなの分のコーヒーを入れている。

運転手さんはお菓子の準備。


「美味しいじゃないですか。」

「食べ方は自由ですから良いですけど、

外でやっちゃだめですよ。家だけですよ。」

「はい。」


素直な築ノ宮さん。

運転手さんはにこにこしてそれを見ている。







たまごっち



最近たまごっちが流行っていると聞いて

渡辺さんと話していると、


「そう言えば昔遊んでいていくつかありますよ。

遊んでみますか?」


渡辺さん、平成女児?

まあ新しく買う程でもないので渡辺さんに借りる事にした。


電池を入れてしばらくするとふ化するたまごっち。


「ご飯ですか、えーとご機嫌を取るにはお菓子ですか。」


すぐ呼ばれてせわしない。

その時、


「築ノ宮様、お客様がいらっしゃいました。」


築ノ宮さん、無意識にたまごっちをポケットに入れて部屋を出る。


相手方はとある会社の女性社長。

相談事を聞き話をつけている最中、


「あら、この音って……、」


女性がはっとした顔をする。


「あっ、すみません。」


築ノ宮さん、ポケットを探りたまごっちを出した。

申し訳なさそうな築ノ宮さんの顔を見て

女性がくすくすと笑い出した。


「最近流行っていると聞いて一度触ってみたいと思ったら

秘書が持っていたので借りました。」

「そう言えば平成に流行ったおもちゃが

またリバイバルしているわね。良ければ見せて下さる?」

「はい、どうぞ。」


築ノ宮さん、女性にたまごっちを渡した。


「懐かしい、娘が遊んでいたわ。女の子に人気があったわね。」


たまごっちがピーピーと鳴る。


「お腹が空いたとかわがままを言ったらしつけるとか、

面倒臭かったわ。」

「よくご存じですね。」

「すぐ死んじゃうでしょ?学校に持って行けないから

面倒見てくれって私が持たされたの。

でも仕事で忙しくて死なせてしまって

子どもによく怒られたわ。」


彼女はふうと大きくため息をついた。


「何かありましたか?」


彼女は苦笑いをする。


「あー、そう、その子が色々あって家に帰って来たの。」


彼女の後ろにどよんとしたものが見える。

何かしら事情があるのだろう。

彼女はたまごっちを築ノ宮さんに返した。


「社長、私はネットで見ただけですが、

今はたまごっちも進化して通信でアイテム交換とか出来るそうですよ。

今度は二つ買って娘さんと二人で遊んでみてはどうですか。

話をするきっかけにもなるでしょうし。」

「どうかしらね。なかなかうまく話が出来なくて。

それに今たまごっちを見たけど字が小さいわね。

老眼が入っているから……。」

「肩ひじ張らずに娘さんにこれなんて書いてあるのと

聞けばいいんですよ。」


築ノ宮さん、にこにこと女性社長を見た。


彼女はきりりとした有能な人だ。

だがそれが人を寄せ付けない雰囲気があるのかもしれない。

彼女はしばらく築ノ宮さんを見た。


「そうよね、子ども相手に見栄を張る必要はないわね。」


彼女はにっこりと笑った。




その後その女性がどうしたのかは分からない。

だが築ノ宮さんが言ったようにしたはずだろう。


そして、築ノ宮さん、数か月たまごっちの世話を続ける。

やがて電池が尽きたのか画面は沈黙する。

築ノ宮さん、渡辺さんにたまごっちを返した。

また遊びますかと言われたが、丁重にお断り。


「子育てって大変……。」


築ノ宮さん、そっと呟いた。







人前では絶対にしない事 その4



ヨーグルトを食べようとパッケージを開けた築ノ宮さん。


「あ、ふたにヨーグルトが付かないタイプですね。」


いわゆるロータス効果である。


「舐められないですねぇ。」


実は築ノ宮さん、アイスやヨーグルトのふたの裏を

こっそり舐めちゃう。

当然一人の時ね。

なので築ノ宮さん、ふたに一滴水を落としてみる。


ふたにはぷくんと小さな水滴。

それを横に少しだけつつつつつ、

また違う方向につつつつつつつつつつ、


「里芋の葉っぱの上のようですね。」


しばらく遊んでいる築ノ宮さん。

ちなみにロータス効果は蓮の葉っぱな。

まあ里芋でもいいけど。

あれ、なかなか綺麗だよね。






人前では絶対にしない事 その5



築ノ宮さん、髪が長い。

いつもは後ろで一つに結んでいる。

お休みの朝、髪の毛を結んでいてふっとポニーテールにする。


そしてそれをつつつと斜めに移動。


「昭和のアイドルみたいですね……。」


鏡の中の自分を見て首をかしげて笑ってみる築ノ宮さん。

あらま、ぶりっ子ちゃん。

そしてはっと我に返りいつもの髪型に。


それね、サイドポニーテールって言うのよ。

ほほほ、それなりに可愛かったわよ。


でも絶対に人前ではしないよね、築ノ宮さん。







除夜の鐘



お寺の住職から連絡が来た。

今まで騒音対策で除夜の鐘は行っていなかったが、

今年の大みそかに久しぶりにする事になったらしい。


「でも音がおかしいんですよ。」


神仏関係なので秘密裏に築ノ宮さんに連絡があった。

私服姿の築ノ宮さん。


試しに鐘を鳴らしてみると音が響かない。ゴンゴンと言うだけ。


「お寺でも騒音問題は深刻と聞きましたが、

今年はどうして除夜の鐘を復活させたのですか?」


築ノ宮さんが聞くと住職さんは少しうれしそうな顔になる。


「この辺りの子ども会の人達が鐘つきは出来ませんかと

聞きに来たのですよ。

中止にしていた理由を話すとこの近所の方を説得してくださって、

除夜の鐘だけ復活することにしました。」

「ほう。子ども会と言うと小さな子こどもさんの親御さんですか?」

「そうです。子ども達に鐘をつかせたかったらしいのですよ。

日本の伝えられた文化を教えたいと言われました。」

「それはよい事ですね。」


築ノ宮さん、鐘の中を覗くと上の方に小さな塊が。

脚立を持って来て鐘の中を探るとその塊はコウモリだった。

築ノ宮さん、それをそっと手で包む。

片手で収まるほどの小さなものだ。


「もう大丈夫ですよ、きちんと鳴ると思います。」


住職が鐘をつくと良く響く良い音が。


「えっ、すごいですね、どうしてですか?」


住職は不思議そうな顔をして築ノ宮さんを見る。

音が響かなかった理由は築ノ宮さんの手のひらにいる。

だが彼にはそれは見えないだろう。


「多分何年もつかなかったのでなまっていたんですよ。

そう言う事にしておいてください。」


住職はいぶかしげな顔をしたが突き詰める事でもないだろう。


「ところで鐘は夜つくのですか?」

「いえ、子ども会の子達がするで昼間です。

本当は夜ですが時代に合わせて変えなければね。」


住職はにっこりと笑った。




築ノ宮さん、会社に戻るとコウモリをそっと机の上に置いた。

コウモリはまだぐっすりと寝ている。

築ノ宮さん、コウモリをそっとつついた。


「なんだ、もう春かいな?」

「違いますよ。」

「ならもう少し寝せてくれんかのう。」


と言いつつコウモリは大あくびをしながら眼を開けた。


「どこじゃここは。」

「私の会社ですよ。」

「会社?わしは鐘の中で寝ておったはずじゃが。」

「そうです、でも今年使うそうですよ。」

「むむむ、ずっと使っておらんかったから

ちょうどいいと思ったんじゃが。わしを追い出したのか。」

「どれぐらい鐘の中で寝ておられたのですか?」

「二十年ほどかのう。」


鐘の中で眠っていたのはコウモリの物の怪だった。


「眠りを邪魔してしまって申し訳ありませんでした。

しばらく鐘は鳴らせていなかったのですが、

今年から除夜の鐘だけ復活させるそうなんです。」

「なんとそうか。」

「子ども達に昔ながらの伝統を教えるそうですよ。」

「ふむふむ、古いものは無くなる一方かと思ったが

戻っても来るんじゃな。良い事じゃ。」


コウモリじいさん、にやにやと笑った。


「ご迷惑をおかけした代わり別の所にご案内します。」


築ノ宮さん、執務室の扉を開く。


「おお、なんと、美しい所じゃの。」

「皆様が安心して住める聖域ですよ。」


扉の向こうには柔らかな日差しが差し込む

穏やかな森が広がっていた。

そこにいくつかの光がふわふわと浮いている。


「あの光が安心して眠れる場所までご案内します。」

「そうか。」


コウモリがちらと築ノ宮さんを見た。


「この向こうも良さそうじゃが、

あの街中もそれなりに良かったんじゃがのう。」

「街中は騒がしくはありませんか?」

「ん、そうじゃがのう……、」


このコウモリがいた場所は昔ながらの場所。

江戸時代の街道の跡があったりする。


「昔々からおったからの、

街が変わっていく様子も面白かったんじゃが。

あの辺りのにんげんもなかなかいい奴もおってなあ。」

「人がお好きだったのですか?」


コウモリじいさんはははと笑った。


「そうかもなあ、虐められたこともあったがのう、

にんげんは可愛いもんじゃ。」


このコウモリの物の怪は大昔から色々見て来たのだろう。

様々な経験をしてそれでも人を好きだと言う。

築ノ宮さんもにっこりと笑った。


「ありがとうございます、

そのように言って頂けるとこちらも気持ちが良くなります。」


コウモリははたはたと飛び始めた。


「まあわしの先ももう知れとるし、聖域とやらの場所に行こうか。」


じいさん、すうーっと扉の向こうに飛ぶ。

その周りを小さな光がくるくると回って皆の姿が遠くなった。

築ノ宮さんはその姿に頭を下げた。


「優しい方だったな。」


築ノ宮さんは呟く。

虐められたことがあると言ったが、

あの物の怪は人が好きだと笑った。

そして自分が果てる場所を決めていたのに人に譲ったのだ。


「除夜の鐘を鳴らしたら次の日は新年ですね。」


新しい年が始まる。


あのコウモリは自分の行き先は見えているようだ。

それでもまだ生は続く。


あのコウモリに、

そしてすべての生き物に穏やかな日々が続くよう、

築ノ宮さんは祈った。







あとがき


令和8年、2026年になりました。


確認しないと忘れちゃうの。

私の記憶は時空を超えているんで。(最高級忘却機能最強)


そして皆さんが人前で絶対にしない事は何ですか?

築ノ宮さんがやっていたシチューと茶碗蒸しは

わたくし大好きです。


えっ?あれはないって?

ならグラタンとご飯が入ったシチューと何が違うの?

ほとんど変わらないじゃない、(当人比)

それは詭弁?ほほほ、歳をとると好き勝手言えるのよ。老い先短いから。

だからみんな早く歳取りなさいね。


食事を作る者として食べやすいようシチューは

いつもシャビシャビ。

自分好みに、それは作る人間の特権よ!

ちなみに牛丼もつゆだくだく×3ぐらい。ほぼ雑炊だけど。


でもね、人前では絶対しないわよ。

それは約束するわ。安心してね。

みんな知ってる私だけの秘密なの、ふふふ。


と言う事で今年もよろしくお願いします。

暇な時は読みに来て下さいね。




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