ラッキー7に祈りを込めて
「今度こそ当たりますように!」
私がそう祈りながら3組の宝くじをしっかりと両手に挟んで拝んだら、
「当たりますように」
そう言いながら売り場のおばちゃんがニッコリと福の神のような笑顔を投げてくれた。
年に何度か発売されるジャンボ宝くじ、賞金は10億! とかでっかく宣伝されているが、もちろん一度も当たったことはない。今まで一番大きく当たったのは3000円までだ。
「当たるわけないって、あのCM見てたら分かるだろ」
彼がからかうようにそういう。
『今年も買ってるジャンボ宝くじ』
CMに出ているタレントが楽しそうにそう歌っている。
「な? 今年も買ってるってことは当たってないってことなんだよ、当たりませんが毎年買ってください、そう言ってるんだから買うだけ無駄だって。俺だったらその3000円でちょっとだけいい物食べる」
現実派の彼はそう言うけど、私はやっぱり万が一の可能性にかけたいのだ。
「万が一? いや、億が一にもならないだろう、その可能性」
私の言葉に彼がそう言ってまた笑う。
むうっ!
「いや、私は買う! そんで、もしも当たっても分けてあげないんだからね!」
「当たらないって。だからもしもなんて考えなくていいって」
「いいや、今回は絶対に当ててみせるから。後で泣いても知らないからね」
「はいはい」
そういう対応をされたからだろうか、かなり意地になってしまった。
そうは言ったものの、さて、いざ当てるとすれば何をどうすればいいのかが分からない。だけどこの次期になるとテレビや雑誌で「当たる売り場の紹介」なんてことをよくやってるのは思い出した。他にも「当たった人はこんな人」みたいな記事も読んだことあるな。
「よしっ、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、まずは当たりがたくさん出ている売り場を探さないと」
調べたらうちから日帰りできる当たる売り場は、大阪駅前の特設売場だということが分かった。そう言えば学生時代の先輩がいつもあそこに買いに行くって言ってたな。先輩が言うには大きな売り場で買うにはそれだけのメリットがあるということだった。
『大きい売り番にはたくさんの宝くじが集まる、だから当たりくじが入ってる可能性も高い。小さいところはまずその当たりくじが回ってくる可能性が低いからな、だから大きい売り場で買うに限る』
今まではいつもご近所の売り場で買っていたが、確かにあの売り場に当たりくじが入ってくる可能性はかなり低いように思えた。何しろスーパーの中の宝くじ売り場だ、買ってる人もおじいさんおばあさんが多いように思う。いかにも「買い物ついでに買いに来ました」という風情。あまり当たりそうな人には見えない。
それでも時々「◯◯宝くじ1等当選売り場!」とかって張り紙をしてるのを見かけるから、それなりに当たりは出てるんだろうけど、ジャンボは見たことないはず。
「売り場は決まった、大阪駅だ」
さて、次は買い方だが、当たりくじが入っていたとしても、バラで買ったら前後賞は他の人のところに行ってしまうわけだから、もちろん連番だ。これは今までもそうしてたので変更することはない。
では次はいつ買いに行くか。「
「でも今回は天赦日の一粒万倍日に買ってやる」
暦を調べたら平日だった。
「有給取る」
たかが宝くじを買うのに有給を取るなんて馬鹿馬鹿しいという人も多かろうが、今回の私は本気なのだ。有給の一日や二日取らんでどうする!
「じゃあ時間」
自分の星座、血液型、その他もろもろの占いを調べた結果、午後一番がよかろうという結果を得た。
「到着が正午になるように調整して家を出る」
その他、服装だとかラッキーアイテム、できるだけ自分の運が上がるように色々と決めて、
「神頼みもしておかないと」
ということで、神社にお祓いを受けに行って御札をもらい、運気を高めて高めて高めた上で購入に臨んだのだ。
「これで当たらないはずはないでしょ!」
そう言って、「どうだ!」とばかりに彼に買ってきた宝くじ30枚を突きつけた。
「どうせやるなら日本で一番当たりが出てる売り場に行くとか、日本中から人が集まる神社にお参りとかまでやればよか──」
「うるさーい! そこまでの予算はなかったのよ! これで当たったら次はそうしてやるから!」
そうして、なんだかんだと揉めながら、ついに抽選日を迎えた。
「さあ来い!」
3組の宝くじを並べる私、当たり番号を読み上げる彼。
「えっとじゃあ読むよ、1等の当たり番号は、と……1」
「1」
「9」
「9と7と2」
2つ目ですでに2組の宝くじはハズレと決まってしまった。
「残り1組だね。9の続きいくよ。3」
「3」
「4」
「4」
ちょっと、これって……
「おいおい、本当かよ。次、7」
「な、なな……」
当たるはずがないと言っていた彼の声も震えている。そりゃそうだろう、当たり番号6桁のうち5までが当たっているんだから。
「えっと……」
「も、もしかして、もしかする?」
ジャンボの番号は6桁、そして買ったのは連番、つまり残りどの番号が来ても、
「ラストもう一回7!」
「7ある!」
「うっそだろ!」
「きた……」
思わず手がブルブル震えたが、彼の方が冷静だった。
「で、組は?」
「組?」
「うん、あるだろ、組」
「あ、77組」
「32組」
組違いだった。
「え、ええー! 番号合ってるのに!」
「いや、でも組が違うからね」
「組違いっていくら?」
「10万円」
「10まん、えーん……」
今まで買った宝くじでは最高額である。もしも、何も考えずに買ってたら飛び上がって喜んだろうが、組さえ合ってれば前後賞合わせて億なだけに、なんだかすごく外れた気分になった。
「ラッキー7を狙って77組買ったのに組違いなんて……」
私は自分がすごく運が悪い人間のように思えてへこんでいたら、
「その77組を選んだから組違いの番号が入ってたんじゃない。そこまで運気を上げる努力をしてその成果を得たんだからえらいよ」
と、彼がほめてくれたので少しだけ溜飲を下げたが、やっぱりアンラッキーな気持ちを消し切ることはできなかった。
「よし、じゃあ次は一緒に東京の一番当たる売り場にでも行く?」
彼ががっかりしている私を慰めるように、笑いながらそう言った。
「せっかくやり始めたことだから、気が済むまでやればいいじゃん? な、行こうよ」
そうだね。この10万円はそのための資金。もしもそこまでやってだめだったとしても、一緒にそういうことをしたという思い出は永遠に残る。
「まあ、そう考えたらアンラッキーも悪くないかもね」
私も笑って東京行きを楽しみにすることにした。
※「カクヨム」の「KAC2023の第6回お題・アンラッキー7」参加作品2編の2本目です。
2023年3月14日発表作品になります。
ストーリーはそのままですが、多少の加筆修正をしてあります。
元の作品は以下になります。
よろしければ読み比べてみてください。
https://kakuyomu.jp/works/16817330654396107047/episodes/16817330654428879229
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