第8話(新妻編)返事は、キスで教えて?
いつもの部室。
「先輩、見てください、これ」
鞄をがさごそと漁り、何かを取り出す。
「じゃーん! エプロンです。どうです?」
「しかも可愛いふりふりのやつですよ。新婚さんっぽくないですか?」
「は? わざわざ買ったのかって?」
「そんなわけないじゃないですか。そこまで気合い入れませんよ」
「おばあちゃんが持ってたので借りただけです」
そう言いながら、エプロンを着る亜矢奈。
「似合います?」
「……可愛い? ふーん、まあ、先輩にしては上出来ですね」
上から目線だが嬉しさを隠しきれていない声。
「では、今日も始めましょうか」
パン! と亜矢奈が手を叩く。
◆
「おかえりなさい、あなた」
甘々な声。
「今日もお仕事、お疲れ様。疲れたでしょ?」
「お風呂にする? ご飯にする? それとも……」
ゆっくりと近づいてきて、耳に吐息をかけられる。
「私にしてみる?」
ちゅ、と耳元に軽いキス。
「お風呂はまだ沸いてないし、ご飯もまだできてないけど……」
「私は準備、できてるよ?」
「だって、待ってる間、寂しかったんだもん」
「早く帰ってこないかなって、ずっと待ってたんだよ」
「俺も早く帰りたかった? 本当?」
ちょっとだけ疑うような声。
「じゃあきて。いっぱいぎゅー、しよ?」
ぎゅ、といきなり抱き着かれる。
「ふふ」
「……幸せ」
「こうして一緒に住めるようになって、私、本当に嬉しいの」
「結婚してよかったなぁ」
「でも、まだちょっと慣れなくて……今だって、すごくどきどきしてるんだよ?」
「私の心音、聞いてみて?」
ね? と抱き締められ、胸元に顔をうずめる態勢になる。
どくん、どくんと亜矢奈の心音が聞こえる。鼓動はかなり速い。
「私がどきどきしてるの、伝わった?」
「……夫婦なのにまだ慣れないのかって?」
「仕方ないでしょ、大好きなんだもん」
少し拗ねたような顔。
「ねえ、あなた」
「おかえりのキスがまだよ?」
ねだるように言って、顔を近づけてくる。
「早くして」
「ねえ、どうしてしてくれないの?」
少しずつ、亜矢奈が泣きそうな声になっていく。
「……あなた」
涙声。
そして、軽いリップ音。
「ありがと」
「あなた、顔真っ赤よ?」
「夫婦なんだから、恥ずかしがることなんてないのに」
「……ねえ」
「ベッド、行く?」
「……言ったでしょ。準備、できてるって」
「行くの? 行かないの?」
「返事は、キスで教えて?」
先程よりも大きいリップ音。
そして、パン! と亜矢奈が両手を叩く音。
◆
「……先輩、私にキスしましたよね。それも2回も」
「ごめん? 別に、謝ってほしいなんて言ってませんけど」
しばしの沈黙。
「先輩」
「先輩ってどうせ、今まで彼女いたことないですよね」
「……キスしたのも、されたのも、私が初めてなんじゃないですか?」
恥ずかしそうな、それでいてちょっとだけ勝ち誇ったような声。
「まあ、あくまでもこれは、エチュード、ですけど」
「でもこれから先ずーっと、先輩はファーストキスの相手として、私を思い出すんですよ」
「私、先輩の記憶に一生残る女になっちゃいましたね?」
嬉しそうな亜矢奈。
「明日のテーマは、私が決める番です。そうですね……」
すう、と深呼吸する亜矢奈。そして、覚悟を決めたような声で言う。
「サキュバスと人間、です」
「覚悟しててくださいね? 先輩」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます