第6話(許婚編)好きになってくれなきゃ嫌です
いつもの部室。
「今日は先輩のご希望通り、親が決めた許嫁同士です」
「……それにしても先輩」
「このシチュエーションを選ぶなんて、先輩の積極性のなさが出ていますね」
「だって、そうでしょう? 何もしなくても親が可愛い許嫁を見つけてくれるなんて」
「……可愛いとか言ってない?」
「へえ、そうですか、そうですか。先輩のくせにそういうこと言っちゃうんですか」
拗ねたような、傷ついたような声。
「ふん、もういいです」
「謝るなら最初からそんなこと言わないでください、先輩の馬鹿」
「始めますよ。これ以上先輩と話してもむかつくだけだと思うので」
パン! と亜矢奈が両手を叩く。
◆
「お待たせしました。すいません、待たせちゃって」
「ありがとうございます。……その、なんか緊張しますよね」
「デートしてこいなんて言われても、私たち、二人で会うのは今日が初めてなわけですし……」
緊張しているのが分かる声で、距離も少し遠い。
「で、でも、私たち、高校を卒業したら結婚するわけですよね」
いきなり手を繋がれる。
「これで、少しは距離が縮まりますかね……なーんて」
「もうっ、顔赤いとか言わないでくださいよ」
「男の人と手繋ぐのなんて初めてなんですから、仕方ないじゃないですか……」
「私ばっかりどきどきしてるみたいで、納得いきません」
ふん、と少し拗ねたような可愛らしい声を出す。
「なので、私だってどきどきさせてみせます」
繋いだ手を恋人繋ぎにされる。
耳にふっ、と息を吹きかけられる。
「びっくりしました?」
「今のはどきどきって言うより驚き? 確かにそうですね、ふふ」
「でも、顔、赤いですよ?」
得意げな声で笑う。
「結構、顔に出やすいんですね。新発見です」
「私たち、許嫁なんですから、もっといろんなところを見せてもらわないと」
「そうですね、たとえば……うーん」
不意に唇を人差し指で触られる。
「誰かとキス、したことあります?」
「……ないんですね? 顔に書いてありますよ」
「私? もちろんないです。安心しましたか?」
ねえ、と言いながら、ゆっくり顔を近づけてくる。
「キス、しちゃいます? 私たち、結婚するんですし」
「だめ? どうして?」
「本当にいいのか? 親が決めただけなのに?」
「まったく……」
わざとらしく亜矢奈が溜息を吐く。
そして、恥ずかしそうな、少し怒ったような声で言う。
「どうしてこの婚約が成立したか知ってます?」
「私がお母さんに、どうしてもって頼み込んだんです」
「貴方は覚えてないでしょうけど……小さい頃に私たち、会ってて。その時からずっと、好きだったんです」
「だから、この婚約が決まった時はすごく嬉しかったんです」
「でも、婚約だけじゃ満足できません」
「ちゃんと私のこと、好きになってくれなきゃ嫌です」
ちゅ、と唇に触れるだけの軽いキスをされる。
「……二回目は、女の子からさせないでくださいね?」
パン! と亜矢奈が手を叩く。
◆
「先輩。先輩。せーんぱい、なんか言ってください」
「顔真っ赤ですよ?」
「キスなんて? やりすぎ? そんなに嬉しそうな顔しておいて?」
「……演技でキスくらい、舞台でもドラマでもあると思いますけど?」
そう言いつつも、亜矢奈も恥ずかしそうな声をしている。
「他の人にはしない方がいい? 危ない?」
「……はあ。なんにも分かってないんですね、先輩って」
「私、用事があるので今日はもう帰ります」
「明日のテーマだけ言っておきますね。明日は……」
「みんなに内緒でこっそり付き合っている、女教師とその生徒です」
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