4-7

*描写あり



「やめぉっ、抜けぇ!っあう!ひ、さわ、るなぁっ!!」

「なんで俺の事置いてくの?なんで?」

「うるしゃい!貴様にィッ!何が…!っう、あぁんっ!」

(痛い、心も、体も、ぜんぶ)


別れるつもりだったのに。

みのると、最後の別れを告げようとした。

でもみのるの顔を見ると、どんどん離れたくなくなってくる。

それ程みのるを愛し、離れたくないと思う存在に、なくてはならない存在になっていた。


「すまぬ、すまぬみのる。愛しておる、だから、だからここで…」


頬に軽くキスをする。

これで、最後。

のはずだった。


「鬼々さん、答えになってない」


どすん!と奥を突かれて鬼々はまたイった。


「あ、ぅ……っ」

「ねぇ、どうして?俺何か悪い事した?悪いところあったら直すから」


何もない。

何もないからこそ、何も言えない。


「はぁっ、あっ…も、やめ……」

「だめ、答えてくれるまで離さない」

「ひぅっ!あっ、ああぁっ!また、イっ…!」

「ねぇ」

「ンンンッ!」

「どうして」

「~~~ッ!止まれ、とまりぇぇっ」


どうして、どうして、どうして。

いなくなるなら―――。



***



「わーお」


鬼々を連れていくために、蓮華がみのるの家に行くと、それはもう目も当てられない事態になっていた。


「フーッ、フーッ」


みのるはまるで獲物を取られたくない動物のような目をして、蓮華を睨みつける。

鬼々はそんなみのるに抱かれ、体のあちこちに噛み跡を作り、気を失っていた。


「随分な事したねぇ。血も出てるし、こりゃあの子の血、飲んだかなぁ?どう思う蝶子?」

「有り得るかと」

「おーい、その手離して貰える?」


蓮華の言葉に反応したみのるは、鬼々を抱きしめる手を更に強くする。

鬼々の方は死んではいないが、息をするので精一杯に見える。


「うーん困ったなぁ、あ、そうだ。蝶子、あの子奪い取ってきてよ」

「はい」



***



「宝!」


来夢が慌てて階段を駆け下りてくる。


「どうしたんです?」

「これ、なんか兄さんから手紙来てて…!」


何か嫌な予感がした。

手紙なんて鬼々がしそうにない事をするなんて、と思うのは失礼かもしれないが、とにかく中身を見てみる。


『突然ですまないが、今日でみのると離れる事に決めた。みのるのことは頼んだ』


「ちょっと、これ…」

「とにかく、みのるんち行こう!まだ兄さんがいる可能性もあるし!」


宝は来夢の言葉に賛同し、二人でみのるの家に向かった。

しかし、たどり着いた先は、まるで地獄だった。


「なに、これ…」


宝の目の前には血まみれになって倒れている女、同じく血まみれだが辛うじて立っている男、その二人を攻撃したであろうみのると、その腕の中には今にも死にそうな、真っ白な顔をした鬼々がいた。


「やーっと来たか、遅いよ来夢」

「んな事どうでもいい。アンタみのるに何した」

「えー、こんな血まみれのお父さんを心配してくれないのー?」

「そんな軽口叩けんだから元気だろ。で、何した」


一気にいろんな事が起きすぎて、宝の脳はパニックを起こしていた。


(みのるがこの二人に何かしたのか?それにこの男の人、お父さんって…というかなんでこんな事に……?)


「いやーあの二人を引き離そうとしたら失敗しちゃってね、このザマだよ」


その言葉に宝がぴくりと反応した。


「なんで、なんでそんな事をしたんですか!!」


宝が蓮華に詰め寄る。

口には出さないが、みのるは人が離れていくのを極端に嫌がる。

それは自分のせいだと、宝は理解している。

だからこそ、もう二度とそんな思いはさせまいと決めていたのに。


「君が弟を大事にするように僕は息子が大事なの。人間なんかにうつつを抜かされちゃ困るの、わかる?」

「だからって好き同士で付き合ってるふたりを、そんな…」

「関係ある?それ?これだから人間は嫌いなんだよ」


(この人が来夢くんと鬼々さんの父親なんて、考えられない)


薄情で、冷酷な人。

しかし今はこれ以上この男と揉めている場合ではない。

鬼々を助けることが第一優先だ。


「みのる、鬼々さんを離してあげて」


ゆっくりとみのるに近づく、が。


「フーッ、フーッ!」


かまいたちのような何かが、宝の体を傷つける。


「宝!危ない!ダメだよ!」

「大丈夫、ですから」

(痛い、けど……!みのるの痛みに比べたらいくらでもマシだ!!)


あの日みのるを傷つけ、みのるにトラウマを植え付けた。

それからずっと苦しんで来たのだろう。

それは自分のせいだ。

だから自分の手で解決しなければ。


「みのる、鬼々さんを離せ」

「フーッ」

「聞こえないか?みのる。鬼々さんを離せって言ってんのが、わかんないのか?」


ちゃんと兄弟として、向き合おうと。

あの日から止まったままの時を動かし、向き合う、兄弟として、家族として。

未だ攻撃を続けるみのるに、宝は歩みを止めることなく更に距離を詰める。


「……だ、いやだ」

「何で」

「だって、鬼々さん、いなくなる…またいなくなる」

「いなくならないから」

「うそ、だってにぃちゃんは」


先程よりも攻撃が落ち着いてきたし、少しづつ会話が出来るようにもなっている。

ここで畳み掛けないと、また同じ事が起きるかもしれない、そうなったら次同じ手が使えるとも限らない。

宝はみのると鬼々を優しく抱きしめる。


「もう、俺はいなくならないから。ごめん、ごめんなみのる。お前の事、本当は羨ましかった。人間として普通に生きていられるのが羨ましかった。嫌いなんかじゃない」

(私の想いが伝わるだろうか)


宝はずっとみのるに対して思っていた事を話す。

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