「そりゃ変だな」
「そりゃ変だな」
タメダは言った。
「変?」
わたしは聞き返した。
そりゃ変だけど。人間じゃないなんて。
あれから――。
怖くてその先を確認できていない。話の先。お母さんたちの正体。
コミちゃんはナニでなんなのか。
問い詰めたら、何をされるのかと思うと。
よくあるから。正体を知ったからには生かしておけない。なんて。漫画やアニメで。
このまま黙って見過ごすのが正解なんじゃないかと思うものの、黙っていることができなくってわたしは今タメダにこうして愚痴っぽく核心を話している。
だって、こあーい。こあいもん。
わたしたち5人はわたしとお母さんが寝ていた部屋で寝ている。すし詰めになってぎゅうぎゅうで寝ている。あれはあれで今まで楽しかった。
寂しさは紛らわせている。
だが。
隣にコミちゃんがいる。そのコミちゃんがぎゅってわたしの腕抱いている。そしてコミちゃんは人間じゃないという。寝るに寝られないだろ(寝るけどさ)。
「どう、変?」
タメダはおもむろに口を開いた。
「今お前のお母さんに起きている事象は、大きくふたつに別けられるよな。いや、別けられると俺は思っていたんだ」
ああ? 何言ってんの?
「ふたつ? ひとつでしょ」
分裂。
「ふたつだよ。細かく別けるともっとあるだろうが、大別してふたつだ。いいか。ひとつが分裂。お母さんが4人に分裂したこと」
「うん。だからそれじゃん」
それ以外何があるの?
ばかじゃん。タメダ。利口そうにすんな。
タメダはふんと鼻で息を吐いた。
「こっちのが重要だ。いや、重要ってか変だ。変てか気になるんだ」
「? はっきり喋れや」
「お前は誰に対してもそうなのか?」
「お前っつうな。あいって呼べや」
「何に影響受けてんだが知らねーが……。まあいっか」
タメダは組んでいた脚を投げ出し、大きく開いた。
うん。こっちのがしっくり来る。タメダスタイル。
公園。いつものベンチ。
わたしはその前にいて、膝抱えて蹲ってタメダを見上げている。たまに立って、伸びしたり、飛んで跳ねたりする。
飽きたら。
今は飽きてないからうずくまりスタイル。
タメダが喋る。
「もうひとつ。それぞれが別の個体であること」
「別の個体?」
意味は分かるが、意味が分からない。その言葉をお母さんに当てはめるのが自分でできない。
「フツー、俺の知ってるこの世に生きる分裂できる生物の分裂は、分裂してもそれは同一個体なんだ。なんだって、それぞれが別の個体になる?」
「分裂できる生き物って? トカゲ?」
「トカゲはまた違うだろ。分裂って言うのかあれ。じゃなくて、アメーバだとかプラナリアだとか」
「プラナリア知ってる。切っても切っても体が再生するんでしょ。頭も生えてくるって。わたしもプラナリア切ってみたい」
「……」
タメダは嫌なものを見る目をわたしに向けた。
その目やめろ。失礼だろ。
「さっき、言い直したこと。別けられると俺は思っていた……ってやつ」
ああ。なんか言ってたね。
今日のタメダはよく喋る。嬉しいけど、どした。なんかイヤなことでもあったか。聞いてやるぞ。お姉さんが。
「何にやけてんだ」
「うるさい死ね」
「あいの母親に起きている事象。①が分裂。②がそれぞれ別個体。だけだと思っていた。だが、そのコミっていう奴の話を聞いて確信に変わった。③擬態だ」
ぎたい。
ってなんぞ。
「あいの言ったコミちゃん――6歳のコミちゃん。人間じゃない。仮に宇宙人だとしよう。わかりやすくモンスターでもいい」
「物体X?」
「XでもZでもAでもαでもいいよ。とにかく人間を真似する、擬態するモンスターだ」
「だからぎたいってなに?」
「マネだ」
「マネか」
「そうだ。真似。モノマネ。フツーな? 真似するんなら、元の生き物をそのまんま真似るだろ? なんだって、中身のパーソナルな部分が完全に別人になってんだよ。お前のお母さんをそのまま真似た方が何かと都合がいいだろ? 分裂するんなら元のお母さんのまま分裂する方が自然だろ? お母さんは完全にどっか消失して、見た目だけ同じな別人、けどおばあさんの料理の味だの、お姉さんの性格は昔のお母さんっぽいだの……中途半端なんだよ。ガワしか真似できねーっつーなら理解できるが、中身はほんのちょっぴり寄せているのがなんだか気持ち悪いっつーかなぁ。これは俺の知ってるSF映画で出てくるモンスターと比較してって感じだが」
「あんまりモンスターモンスター云わないで」
「ああ、すまん」
タメダはばつの悪そうな顔をした。
違うわ。お母さん(ぽいなんか)がモンスターに喩えられることに不満を持ったわけじゃなくて、単純に一緒に住んでる奴がモンスターって云われるのがイヤなのだ。
こあいじゃん。
夜中トイレ行けなくなるじゃん。
いや、わたしの場合、一緒に寝てるわけだからトイレ行ってた方がまだ怖くなくなるのか。
タメダは喋る。
「分裂してそれぞれが別の個体になる意味ってなんだ? 漫画なんかでよく見るよな。分裂する・擬態するモンスター。でもあいつら見た目一緒で中身は元の人間と違う、如何にも人外な、人類のことなんてなんとも思ってないような性格で分裂すんだろ? 『ふん。人間とはこんなものか』『脆いな』『やはり足りない』『もっと必要だ』とかなんとか会話しながら仲間を増やしていくんだ。あいの家の母親軍団はなんか違うよな? 妙にフレンドリーだ。しかもそれぞれがバラバラで性格が違うときてる。そして、半端に寄せてそれから……」
わたしは言う。
ややうんざりして。
「タメダって頭悪いでしょ」
「あ? んだと?」
わたしはすっくと立ち上がる。伸びをして、ラジオ体操。体をねじる運動。左に一回右に一回。胸を大きく逸らしてそのまま喋る。
曇ってら。
「①分裂。②別個体。③擬態。いいけどさ。わかるよ。タメダの言ってること。でも、逆でしょ。そんな風に順番つけるから意味わかんなくなるんだよ」
頭悪い人は頭良い振りしちゃいけない。
「? どういうことだ?」
わかんないかな。タメダの話パッと聞いてわたし、とりあえずの今後の方針浮かんだくらいなのに。言ってる本人が言ってて混乱してる。
変に複雑に考えすぎ。
大人。
「逆でしょ。付ける順番が。①擬態。②別個体。③分裂。でしょ」
「ん? それでなんか変わるか?」
「変わるよ」
つまりあれでしょ。宇宙人だかモンスターだかがお母さんをモノマネして、それはそれぞれ別の個体(別の人間じゃないなにか)で、全員が全員お母さんのマネするものだから分裂しているように見えてる。別の個体だからぱーそなる? ――って、たぶん性格とか内面的な意味……? で、合ってるのかな? なんか聞くのやだな――な部分がだから違っちゃってるとかそういうことでしょ。
ばかじゃんタメダ。わたし天才。
タメダは「おお」と感心を示すように声をあげた。
「ふふん」
「つまりお前の家は今いろんなモンスターの棲み家になってるってわけか」
お前って呼ぶなあいと呼べっつったろモンスターっつうなこあいっつったろ。
二度も三度も同じこと言わせんなや。
とりあえずタメダお前家付いてこいよ。
「なんでだよ」
「こあいじゃん」
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