第6話 四季夏葉

 およそ30分後、俺達は件の神社に着いた。そこはいつものように厳かな雰囲気だったが、人も多くて少し賑やかだった。



「あれ、何だろう……?」

「何かイベントかな? 普段はこんなに賑やかじゃないんでしょ?」

「はい。たまに参拝客は多い時はありますけど、こんなに多いのは珍しいです」



 俺はもう一度境内に目を向ける。初詣の時によく見るような屋台も多く出ており、境内や俺達のように鳥居の前にいる人達の顔はワクワクして何かを待っている感じだった。


 そして何があるのかと思いながら辺りを見回すと、鳥居のそばに何かが置かれているのが見えた。それは俺でも名前を知っている声優のイベントを報せる物だった。



「四季夏葉なつは……なんかアプリゲームの主題歌を歌ったりキャラクターの声をやったりしてメディアの露出も多くなった声優だったよな? この人、こっちの出身だっけか?」

「噂だと従姉妹がこっちの方に住んでるんだってさ。なんでも俺達と同い年らしいぜ?」

「へー、そうなのか。それじゃあそれきっかけでこっちでイベントをするって感じなのかな?」

「そうかもね。せっかくだから、私達も見てみる?」

「そうですね。こういう機会も中々ないですし」

「だな。よっし、そうと決まれば中に入ろうぜ」



 俺達は鳥居をくぐって中に入った。本当は鳥居の前で一礼をしたかったけれど、他の人の邪魔になるのでそれはしなかった。そして中に入ると、イベントを待ちわびる人達の熱気で少し暑いくらいであり、初詣の時並みの人の多さに困惑するくらいだった。



「これはスゴいな……四季夏葉ってそんなに人気の声優だったんだな」

「まあ新人時代からアニメやゲーム好きからの人気はあったみたいだしな。それが一般の人にも広がればこんなもんだろ。大和、姉ちゃんが迷子にならないようにしとけよ」

「わかってる。夕希さん、俺の手を握っててくださいね」

「う、うん……」



 夕希さんが俺の手を握った後、俺は痛くならない程度に握り込んだ。そして人混みの中を進み、長い参道や二つある石段を越えていくと、そこには拝殿があり、元日などに九星の運勢が飾られるところにはよくテレビで見るアナウンサーや四季夏葉の姿があった。



「おっ、インタビュー中みたいだな」

「だな。イベントはまだみたいだし、ここで待っとくか」

「そうだね。それにしても、夏葉ちゃんって本当に可愛いね。前に雑誌のグラビア飾ってるのを見かけたけど、生で見るとより可愛く見えるよ」

「そうかもしれませんけど、夕希さんだって負けてないと思ってますよ。ただ綺麗なだけじゃなくて大人の色気もありますし、スタイルも良いですから。モデルとか女優やっててもおかしくないくらいです」

「そ、そっか……ありがとね、しば君」

「どういたしまして」



 俺が答える中、泰希は俺達を見ながらニヤニヤしていた。そして数分が経った頃、四季夏葉にマイクが渡されると、俺達を見ながらにこりと笑った。



「みなさーん! こんにっちはー!」

『こんにちはー!』

「大きな返事、ありがとうございまーす! 今回はこの神社でイベントをさせてもらえる事になって非常に嬉しいです。歌やトークでいっぱい楽しませていくつもりなので最後まで見てもらえると嬉しいです。よろしくお願いします!」



 その言葉に拍手が送られると、四季夏葉はマイクを片手に笑みを浮かべた。



「それじゃあまずは一曲。私がキャラクターボイスも務めていた『妖怪さんとGO!』の主題歌、“Walking!”」



 軽快なリズムの音楽がスピーカーから流れる中、四季夏葉は楽しそうに歌い始めた。

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