第3話 再会と突然の言葉
「……お久しぶりですね、夕希さん」
「うん、久しぶり。あはは、ごめんね？ 久しぶりなのにこんな姿で」
夕希さんは微笑みながら言うが、明らかに元気はなかった。ただ、青色のデニムジャケットにベージュのロングスカート、そして自然な感じのメイクにサラサラとした長い栗色の髪は綺麗であり、本当に元気がないところ以外はオシャレなお姉さんであり、他の客からの目も惹いていた。
そして俺の隣に夕希さんが座ると、泰希はにやにやしながら夕希さんに話しかけた。
「姉ちゃん、やっぱり泰希がいるって聞いたらすぐに来たな。小学生の時からスゴく気に入ってたもんなぁ」
「だって、しば君は本当に可愛いから。けど……今は体格も良くなったし、カッコカワイイって感じかな？」
「可愛いの部分は無くならないんですね……」
俺はがっくりとしてしまった。けれど、それはそうだろう。夕希さんからすれば、俺なんて一回りも違う子供であり、夕希さんが異性として見るにはまだまだ色々なものが足りないのだから。
肩を落とす俺を見ながら夕希さんはクスクス笑った。
「でも、しば君に会えたのは本当に嬉しいな。ウチには遊びに来てくれてたみたいだけど、中々会う機会がなかったからさ」
「そうでしたね。だから、俺も嬉しいです。本当はもっと気の効いた言葉でも言えたら良いんですけど……」
「そんなの気にしないよぉ。ふふ、せっかくだから抱きついちゃえ」
「え？」
俺が驚く中で夕希さんは本当に抱きついてきた。体の柔らかい感触とふんわりと漂う良い香り、そして服の上からも主張してきていた豊満な胸が俺に押し付けられ、思春期の俺にはとても刺激が強かった。
「ちょ、夕希さん……！」
「はあー……久々のしば君吸いはキマルなぁ」
「色々危ない発言はしないでくださいよ！」
相変わらずの夕希さんに困惑していると、それを見ながら泰希は更にニヤついた。
「大和、こんなとこで盛るなよ？」
「んなわけあるか！ それより、さっきの話をしないといけないんじゃないか？」
「ん、だな。姉ちゃん、ちょっと話があるから大和から離れてくれ」
「はいはい」
夕希さんが離れた瞬間に安心感と寂しさを同時に感じたが、俺はとりあえずそれらを彼方に追いやり、泰希に話すように促した。泰希は頷いて答えると、また真剣な顔をしながら夕希さんを見た。
「姉ちゃん、さっき大和には頼んだんだけどさ」
「うん」
「大和に姉ちゃんを任せようと思う」
「任せる……え、どういう事？」
「交際とまではいかなくとも、大和に姉ちゃんとの外出や愚痴を付き合ってもらって、姉ちゃんのガス抜きをしたいんだ。今の姉ちゃんはやっぱり見てられないし、父さん達も大和になら任せられるって言ってたしな」
「そ、そんな突然……それに、しば君だって迷惑じゃ……」
夕希さんがおろおろする中、俺は震える夕希さんの手を静かに握った。
「大丈夫ですよ、夕希さん。進学組ではありますけど、勉強を疎かにする気はないですし、俺だって夕希さんを放ってはおけませんから」
「しば君……」
「姉ちゃんも大和なら安心だろ？ だって、姉ちゃんは大和の事を……」
「ちょ、泰希！」
夕希さんは慌てた様子で泰希を制止する。気に入られているという事を言おうとしただけだと思うが、そこまで慌てるような事かと俺は首を傾げるしかなかった。
そして夕希さんは大きく息を吐いて気持ちを落ち着けると、少し申し訳なさそうな顔で俺を見た。
「ま、まあ……しば君が良いって言うならお願いしようかな。私もこのままじゃいけないなと思ってたから」
「わかりました。夕希さん、これからよろしくお願いします」
「……うん、よろしくね」
夕希さんは安心した様子で笑う。その笑顔を見られただけでも来てよかったと思えた。
「よーし、そうと決まればここで飯を食べながら午後の事について決めようぜ」
「午後の事？」
「そう。午後はなんと……二人にデートしてもらうからな！」
「デ……！？」
「デート……！？」
泰希の突然の言葉に俺と夕希さんは驚くしかなかった。
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