第6話
その後、水樹たちは一度事務所に戻った。一階でカノープスたちが控えていると思うと、気もそぞろだったが、家に帰って後をつけられる方が危険だというので、暫く三人とも事務所に泊まることにする。
陽希が、昔ちょっとワルだった頃の人脈を使い、「デルフィヌス」とやらの行方を追った。すると、今は会員制バー「Jardin avec chats noirs」を経営している店主が、情報を持っていることが分かった。
と言っても、その店主も直接連絡を取れるほどデルフィヌスと親しい訳でもなく、バーの客からの噂話程度で、今、大体どこで出没するのか、ということと、「金さえ払えばどんな依頼も請ける人だ」という曖昧な証言が得られただけだった。
***
探偵は体力勝負だと思う。
水樹たち三人は、ローテーションで、デルフィヌスが出没するらしい地点を見張ることにした。探偵社の社用車、ヴォクシーのスパークリングブラックパールクリスタルシャインの運転席と助手席に一人ずつ乗って、二十四時間体制で、デルフィヌスを探す。
デルフィヌスの外見的な特徴は、「黒髪に黒い目、片方に眼帯」に「アンデルセンの『人魚姫』の王子に似た服を着ている男装の麗人である」とのこと。かなり目立つだろうから、見落とすことはなさそうだが、此処に現れるかは定かではない。
寒い車内で、理人と陽希で肉まんを食べる。湯気と白い息が車内を満たすようだった。
「私は、どうしたらいいのか分からないのです」
理人が小さな声でつぶやくと、陽希は頭の後ろに両手をやって枕のようにして、理人の方を振り返った。
「どうしたの? 理人ちゃん」
「今回の事件を追っていくことが、危険なのではないかと……それに、これほどのリスクを冒してまで、遂行するべき捜査なのでしょうか?」
理人は整った眉根を寄せて、声を尖らせた。
「仮に、全てが成功して犯人を見つけることができたとしても、その犯人が標的としているのは、カノープスさんやアルネブさんのような悪党ばかりなのですよね。恐らく大勢の人を殺しているであろうアルネブさんが、平然とパフェを食べている様子に、違和感を覚えてしまって、どうしても……」
陽希は、その言葉を噛み締めるように暫くじっとしていたが、やがてハンドルに身を寄り掛からせるようにし、理人に歯を見せて笑った。
「でもさ、理人ちゃん。い悪党は悪党で反省するべきだけど、俺たちが追っている犯人は犯人で、やり方は明らかに間違ってるんだから、ちゃんと間違ってるよーって教えてあげたいよね」
陽希のこういう信念を持っているところが、理人は好きだった。
その時、フロントガラスの向こう側に、ひらひらとしたフリルのついたズボンを履いた人が、右から左へ通り抜けるのが見えた。
「あ、あの人じゃない!? デルフィヌスさん!」
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