第23話 劉備が令和のきみに語る

 はい、こんにちは。

 君かい? おれに話を聞きたいっていうのは。

 ええと、おれがしょくをどうやって手に入れたのかってことだっけ。

 諸葛亮に言われたからだよ。

 おれは自分の土地を持ってなかったからね。

 そしたらさ、蜀を治めている劉璋りゅうしょうは物わかりがよくなくて優柔不断で家来たちも困ってるっていうんだ。だから同じ名字だし、あなたが取ればいいんじゃないかって勧められたのさ。



 もう少し詳しく聞きたいって?

 じゃあ、おれの事情から話そうか。

 君が暮らしているのは令和の時代だろ。

 だから君が聞きやすいように話すよ。



 ほんとはおれたちが生きていた頃はあざなで呼ぶのが礼儀なんだ。

 あざなっていうのは、おとなになってからつける名前。

 でも、あざななんて、いちいち覚えていられないだろ。

 だから「劉備」とか「諸葛亮」みたいに呼ぶことにするぜ。



 諸葛亮には三度会いに行って、三度目にようやく会えたんだ。

 おれは相談したわけ。これからどうすればいいですかって。

 諸葛亮はおれに言った。

「蜀は豊かな土地で、漢という国が始まった場所でもあります。しかも、あなたは漢のみかどの一族だ。だから蜀をあなたが治めれば、漢は復活できます」



 蜀の役人の中には、「蜀はこのままじゃいかん。劉備に頼ろう」って思っていた連中もいたんだよ。

 劉璋もそれを聞いて、おれを蜀に呼んだ。

 ちょうど劉璋は困ってたんだ。

 すぐそばに張魯ちょうろっていうやつがいて、関係が悪かったのさ。しかも張魯は五斗米道ごとべいどうの教祖だ。信者が集まってきていた。

 しかも、曹操も攻めてこようとしている。

 おれが呼ばれたのは、そんな時だったのさ。



 蜀に行ったけど、みんなから歓迎されたわけじゃない。

 おれを蜀に入れるなと、劉璋を止めた役人たちもいた。

 それでも劉璋はおれを蜀に迎えた。



 おれは張魯と戦った。

 そこへ、孫権から「助けてくれ」と言われた。孫権は曹操と戦っていたのさ。

 おれは劉璋に兵を貸してくれと頼んだ。でも、頼んだ数の半分しか貸してくれなかった。

 しかもおれを蜀に迎えようとしていた役人が、おれに「行くな」という手紙を書いていたことがばれて、殺された。

 そこからおれと劉璋は、敵同士になったんだ。



 おれは蜀の都、成都へ攻め込んだ。

 降参するやつもいたけど、最後まで蜀を守ろうとした人もいた。

 蜀を劉璋から奪ったのじゃないかって?

 今さらいいわけなんぞしないよ。

 やったのはおれだからな。

 蜀を守ろうとして死んでいった人たちのことは、忘れたことなんかないぜ。



 おれには仲間がいる。

 みんな、おれについてきてくれる。

 見捨てるわけにはいかないよ。

 今までも、そして、これからも。



 そうそう、思い出した。

 子供の頃、家のそばに、高い桑の木があったんだ。

 遠くから眺めると、まるで、帝が乗る車みたいに見えるんだ。

 だからおれは、親戚の子たちに言った。

「おれは必ずこんな車に乗るんだ」とね。

 もちろんおじさんからすごく怒られたけどさ。

 そしたらほんとにそうなっちゃったわけ。

 おれ、曹操が死んでその息子が魏の皇帝になったあと、蜀の皇帝になるんだよね。



 おれの話はこれでおしまい。

 難しかったって?

 あはは、ごめんごめん。




 参考資料


 陳寿 裴松之 注 今鷹真・井波律子・小南一郎 訳

「正史 三国志 」(ちくま学芸文庫)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る