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今も思い出すのは直先輩の顔ばかりだった。
清の中にあるのは、直先輩の思い出だけだった。
清は自分のベットから抜け出すと、水玉模様のパジャマ姿のまま窓際に行って部屋の窓を開ける。すると、蒸し暑い夏の八月の風が、二階にある清の部屋の中に吹き込んできた。
昨日、偶然、街で直先輩とすれ違った。
直先輩は清に気がついたようだったけど、一緒にいた、おそらく直先輩の同じ高校の制服を着ている恋人の女の人を意識して、清のことを無視した。
……それが、思った以上にきつかった。(その場で泣いてしまうかと思った)
だから今日、私は直先輩に水の中の泳ぎかたを教わっていたころの夢を見たのだと清は思った。
直先輩がいなくなって、清は泳ぎかたを忘れてしまった。
中学生のころはもっと上手に泳げていたはずなのに、今はもう、そんなに上手に清は水の中を泳ぐことができなくなってしまった。
まるでいつもとは別の世界のような水の中にいると、清はいつも直先輩のことを思い出す。
……きっと、生涯忘れることはないのだろうと思う。
清は目を閉じて、直先輩のことを思い出す。
直先輩の目、直先輩の耳。直先輩の口。
……そして、直先輩の泳ぎかた。
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