第16話 優勝候補


「アランちゃーん……? 一試合目のあれは一体どういうことなのかしらー……? うふ、うふふふふっ」

「ご、ごごっ、ごめんなさい……!」


 初戦でいきなり魔力解放をし全力で相手を叩き潰してしまった俺は、恐ろしい笑顔を張り付けたメリア先生から叱られた。


 ダリア先生は笑って「やってしまったものは仕方がない! その調子で頑張れ!」と応援してくれたが、そのせいで一緒に怒られることになった。


「次はないわよ。アタシ、アランちゃんのことを信じているわ」

「は、はいっ!」


 とてもこわかったです。


 だがプリシラに手を出そうとした下衆相手に魔力解放したことは一切後悔していない! 何故なら俺は間違っていないからだ!


「はあ……散々な目にあった……」


 そんなこんなで、俺はげっそりしながら闘技場の控室へと戻る。


「来たぞ……!」

「あれが……化け物……!」


 するとその瞬間、周囲のガキどもの空気が一気に張り詰めた。


「対戦相手を一方的に痛めつけて笑ってたんだろ……? 人間じゃねぇよ……っ!」

「バカっ、声が大きいぞっ! アイツに聞こえてたらどうするっ!」

「アラン・ディンロードか……。ホロウズ家の双子といい、アイツといい、今年の大会ははどうなってるんだ?!」


 そんな……化け物だなんてひどい。誤解だ。


 俺はたまに暴走しちゃうこともあるっぽいけど、基本的には心優しい人間なのに……。


「邪魔だ、どけ」

「わっ?!」


 控室の中が居心地悪そうだったので入り口に立って入るか迷っていると、突然後ろから押される。


「おっとっと……!」


 よろめきながら振り返ると、そこに立っていたのは鋭い目つきをした金髪の少年だった。


「モタモタするなノロマ」


 このクソガキが……! 舐めてると潰すぞ……!


「い、いやぁ、ちょっと考え事しててさ。……ごめんね」


 俺はそんな思いをどうにか抑え、生意気なクソガキに謝罪した。一応は立ち止まっていたこの俺にも非はあるからな。素直に謝るのが大人というものだ。


「お前のくだらない言い訳など聞いていない。失せろ――――アラン・ディンロード」


 おいおい、まさかこいつまで俺の名前を知っているとはな。


「僕ってそんなに有名人なんだ」

「魔力解放くらい……その気になれば俺でも使える。初戦で雑魚相手に勝って少し目立ったくらいで調子に乗るな」

「別に調子に乗ってるわけじゃないんだけどなぁ……」


 どうやら一方的に敵対視されているようだ。おっかない奴だぜ。


「……そうだ! ちなみに、キミの名前は?」


 今後の人生で関わりたくない相手なので、貴族同士のパーティーとかでうっかり鉢合わせないように名前を聞いておこう。


「ギルバート・レーヴァンだ。そんなことも知らないとは、無知な奴だな」

「………………!」


 なるほど、


 レーヴァン家の長男、ギルバート・レーヴァンは原作における魔人の内の一人――つまり俺やレスター達と同じボス格のキャラだ。


 魔法の適性は雷。原作で過去が語られることはないが、皇帝の命令に服従する残虐な黒騎士として主人公達の前に立ちはだかる。


 性格としては、趣味で部下の兵を焼き殺し、戯れで魔物に村を襲わせ、暇潰しに奴隷にした女子供を拷問し、ついでに魔物も八つ裂きにして処刑する、やりたい放題な外道キャラだ。


 そんなに好き勝手していたら部下達から反乱を起こされそうなものだが、家族を人質に取っている上にギルバート自身も屈指の強さを誇る魔人であるため、極悪非道な行為の数々がまかり通ってしまうのである。


「……また将来の魔石保持者か」


 よくよく考えてみれば当然のことだが、この帝国の首都は原作における敵地のど真ん中。そこで行われているこの大会に将来のボスキャラ――即ち魔人候補が集まっていても何ら不思議ではない。


「魔石? 一体何の話をしている?」

「ああ、何でもないよ。それじゃあ僕はこれで」

「おい待て」

「バイバイ!」


 周囲からは注目され、おまけにギルバートまで居る控室では心が休まらないので、俺は外で時間を潰すことにした。拡声の魔法による案内は闘技場の外に居ても聞こえるから、試合に遅れることはないだろう。


 しかし、ホロウズ家の双子にレーヴァン家のギルバートか……。おそらく、ここに俺を含めた四人が優勝候補だと思われていそうだな。


 トーナメントを見る限りでは、あと二回勝ち抜けば準決勝でドロシア、決勝でレスターかギルバートのどちらかと試合をすることになる。


「ドロシアとかぁ……」


 何とか負けてくれドロシア。そしてどうにか勝ってくれレスター。俺は色々な意味で面倒な相手とは戦いたくない!

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