第3話 美月の過去と動機

夕暮れ時、佐藤 美月の自宅のリビングは、オレンジ色の柔らかな光に包まれていた。窓の外には赤く染まった空が広がり、静かに夜の訪れを告げている。部屋の中は整然としており、最新のガジェットや技術書が美月の生活を象徴するように並べられていた。


美月はソファに座り、手元の写真をじっと見つめていた。その写真には、笑顔を浮かべる弟の姿が写っていた。彼女の瞳に映るその笑顔は、今でも鮮明に彼女の心に刻まれていた。


「もしあの時、正しい診断がされていたら…」美月は静かに呟いた。彼女の声はかすかに震えており、その胸の内に秘めた深い悲しみと怒りを感じさせた。


弟は数年前、医療ミスによって命を落とした。病院の誤診と適切でない治療が原因だった。美月はその時から医療技術の進歩と正確さに強い関心を持つようになり、技術者としての道を歩む決意を固めた。


彼女は手元のノートパソコンを開き、メディカスの開発データを再度確認し始めた。画面に映し出されるコードの行間に、彼女は真実を探し求めていた。技術的な問題を解決することで、同じような悲劇を二度と繰り返させないという強い決意がそこにはあった。


「弟の死を無駄にしないために…」彼女の指がキーボードを滑らかに叩きながら、心の中で誓った。


その時、部屋の電話が鳴り響いた。美月は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに受話器を手に取った。


「佐藤 美月です。」


電話の向こうから聞こえてきたのは、内科医の夏川 蓮の声だった。「美月さん、今少し時間がありますか?先ほどの患者のデータについて、もう少し詳しく解析したいんです。」


「ええ、もちろんです。すぐにそちらに向かいます。」美月は受話器を置き、ノートパソコンを閉じた。彼女の顔には新たな決意が宿っていた。


美月は急いで家を出る準備を始めた。夕焼けの光が窓から差し込み、部屋の中に長い影を落としていた。彼女はその影を踏み越えるようにして、玄関のドアを開けた。


「待っていてね、弟。私は必ず、この手で正義を取り戻すから。」美月は静かに呟きながら、外の冷たい空気を吸い込み、歩き出した。彼女の背後には、暖かいオレンジ色の光が残り、前方には夜の闇が広がっていた。


美月の心には、光と影が交錯していた。しかし、彼女の足取りは確かで、その先にある真実を求める決意は揺るぎなかった。

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