決戦!! 闇の魔導組織『クーロン』⑤

 サンドローネたちは、玄徳の工房一階に集まっていた。

 サンドローネにリヒター、ロッソ、ブランシュ、リーンドゥ、バレン。

 そしてイェラン。ティガー、リュコス、ルナール。そしてスノウ。

 全員、黙り込んでいた……が、ティガーが両手を強く握り、体毛が逆立っている。


「あなた、落ち着いて」

「…………わかっている」

「……大丈夫。大丈夫だから」


 子供が誘拐されたのだ。落ち着けるはずがない。

 スノウも、目を伏せて黙り込んでいた。

 ロッソはブランシュに言う。


「ね、アオはまだ?」

「その質問、七度目ですわ……大丈夫。アオが『探し物』をして、見つけられなかったことはないでしょう?」

「……そーね」

「それを言うなら、ウングもだね」

「そーそー、あの二人って昔は組んでたんでしょ? なら大丈夫だって」


 アオ、ウングは昔、コンビを組んでいた。

 だが今はもう別の道を進んでいる。今だけ、玄徳や子供たちを救うという共通の目的で、過去を一時封印し、今はなきアサシンギルド最強の二人が手を組んだ。

 ヴェルデの断片的な情報だけで、二人は消えた。

 目の前にいたのに、音もなく消えたのである……次に出て来る時は、全ての情報を得た時だろう。

 サンドローネは煙草の煙を吐きだした。


「……リヒター、お水」

「はい」


 リヒターは、水のボトルを出し、サンドローネのグラスに注ぐ。

 その時だった。テーブルに置いたグラスが、カタカタと揺れ始めた。


「……何?」

「なんか揺れてない?」


 ロッソも気付いた。

 そして、地面が妙な振動を始め、全員が気付き周囲を確認し始めた時だった。

 突如、床下から何かが飛び出し、天井を突き破って飛んで行ってしまった。

 真っ黒な何か。見えたのはそれだけ。


「な、なに、今の……」


 思わず尻餅をついてしまったサンドローネ。穴の開いた天井をポカンと見つめる。

 リヒターが手を貸し立ち上がる。

 そして、ロッソがニヤリと笑った。


「ブランシュ、ヴェルデ、行くわよ!!」

「え?」

「今の、どう考えてもおっさんが関わってるに決まってんじゃん!!」

「……そう言えばゲントク、魔導アーマーだっけ、いろんな機能付けてたわ。まさか、あれはゲントクを追って行った?」

「行くわよ!!」


 ロッソが走り出す。

 ブランシュも、ヴェルデも考えるのをやめて走り出す。

 

「リーンドゥ、行くよ」

「おっけー!! なんかワクワクしてきたっ!!」


 バレン、リーンドゥも走り出した。

 そして、ティガー。


「……私たちも行こう。子供たちを迎えに」

「そうね……リーサ、待ってて」

「クロハ、今行くわ」


 ティガー、リュコス、ルナ-ルも走り出す。

 そして、スノウ。


「私も行きます。失礼します!!」


 スノウも走り出した。

 サンドローネは、リヒターを見る。


「リヒター、自転車用意」

「行くんですね?」

「ええ。二人乗りよ、しっかり漕ぎなさい」

「お任せください」


 リヒターが玄徳にカスタマイズしてもらった特注自転車に乗り、サンドローネが荷台に乗る。

 全速力で漕ぎ、ロッソたちの跡を追うのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

「「「「「待てええええええええええええ!!」」」」」


 えー、現在俺は、メチャクチャ追われていました。

 そりゃそうだ。カッコつけたはいいが、アーマーが飛んで来るまで時間かかる。事前に呼んでおいてからカッコつければよかったぜ。

 一応、食堂から遠ざかるように逃げてはいる。騒ぎを起こせば、俺に向かって来る兵士たちが増えるはずだ。

 がむしゃらに屋敷内を走り回ると、前から、後ろから兵士が挟み撃ち。


「くっそ……まだ来ないのかよ!!」

「テメェ、反逆か? お前の人質がどうなってもいいのか?」

「はっ、んなわけあるか。こうなったら……かかって来いよ!!」


 構える俺。

 一対一なら負ける気はないが、囲まれてるし、数は二十人くらいいるし、かなりヤバイ。

 

「俺はな、しがない魔道具技師だけど、戦うべきところでは戦う!! いいか、俺の名は織田玄徳、この組織を」


 次の瞬間、天井をブチ破って漆黒の鎧が俺のすぐ隣に激突した。

 死ぬほどビビッてすっころんでしまった。同時に、兵士たちも仰天する。

 そして見た……会えてうれしいナンバーワン。俺の鎧……ううう、ちゃんと来てくれたぁ!!

 

「ふっふっふっふっふ……さてお前ら、ここからは俺のステージだ!! 命、燃やしてひとっ走り付き合ってもらうぜ!!」


 とりあえず適当な名乗りを上げる。

 俺はポケットから作業用グローブを身に着ける……このグローブには魔石が埋め込まれており、鎧を作動させるスイッチでもあるのだ。


「行くぞ、へん……っしん!!」


 『展開』の魔石が起動し、『魔導甲殻Mark00・オリハルコンスケイルメイル』が展開。

 俺は背中側が開いた装甲に覆い被さるように鎧を着こみ『閉』の魔石を起動させる。すると鎧が閉じ、完全な鎧姿へと変わった。

 外見は全身鎧。アメコミの鉄男をイメージしたデザインだ。飾りだが、胸には『発光』の魔石が埋め込まれており、キュイーンと光る。

 全ての魔石を起動させ、俺は言う。


「さあ、一気に行くぜ!! ここからがハイライトだ!!」


 魔導甲殻の初舞台……楽しませてもらおうか!!


 ◇◇◇◇◇◇


「ええい、よくわからんがかかれ!! ──おぶぁっ!?」


 俺は右手を兵士たちに向け、『収束放電サンダービーム』を放つ。

 すると、レーザーが兵士に激突し、背後にいた数人も吹っ飛んだ。

 そして、別方向からも兵士が飛び掛かってくる。


「『熱剣ヒートブレード』展開」


 左手の手甲からブレードが飛び出し、『高熱』の魔石と連動して刀身が真っ赤になる。

 兵士の剣をブレードで受けとめると、なんと相手の剣が溶解した。

 驚く兵士。俺は遠慮なくブン殴ると、ベキバキゴキッと嫌な音がして吹っ飛んだ。


「うおお……『腕力増強』の魔導文字。十ツ星だとエグいぞ」

「かかれーっ!!」


 と、いつの間にか接近していた兵士が剣を振り下ろす。

 俺の頭、脇、足、腰、胸に剣が刺さったり斬られたり……することはない。


「おお、『不壊』と『衝撃吸収』の魔石、すげえな……喰らえ!!」


 サンダービーム連射。

 兵士たちが吹っ飛ぶ。感電に衝撃で失禁する兵士多発……なんかここ臭くなってきた。

 よーし、大暴れしてやるぜ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は兵士を薙ぎ倒しながら作業場へ向かう。

 扉を豪快に破壊して乗り込むと、まだ幽霊と格闘していた。

 俺の姿を見て驚く見張りたちに、一発ずつサンダービームを叩きこむ。


「みんな、俺だ!! 道中の敵は倒した!! 家族は食堂にいる!! 行け!!」


 そう叫ぶと、技師たちは歓声を上げて走り出す。

 すると、ホランドが俺の元へ。


「そいつが『切札』か?」

「ああ、カッケェだろ?」

「デザインはイマイチだな。家に帰ったら見せろ、カッコいいデザインにしてやる」

「うるせ。それと、ジェシカちゃんが待ってるぜ」

「……フン」

「俺はこのまま作業場を制圧する。兵士たちの武器が落ちてるから、そいつを拾って食堂まで行け」

「ああ、わかった」


 ホランドが走り出す。

 俺は、作業場に通じるドアをブチ破り、作業中の技師たちを解放した。

 あとは、食堂まで戻って、全員を連れて逃げるだけだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 作業場から食堂まで戻ると、大勢が拘束されていた。

 食堂が開かれ、人質たちが全員、何故か外に出ていた。

 この屋敷の中庭……さっき解放した魔道具技師たちも全員、一か所に集められ、兵士たちに囲まれていた。

 俺は壁をブチ破り外へ。

 そこにいたのは。


「これはこれは、ゲントクくん……で、いいのかな?」

「マオシン……!!」


 マスク部分を展開し顔を晒す。

 マオシンはニコニコ顔で、手をパンパン叩いた。


「いやぁ、来て数日なのに、よくここまで暴れたねぇ……ホアキンもいつの間にかいないしね」

「もう終わりだ。諦めろ」

「諦める?」


 マオシンが指を鳴らすと、兵士たちが一斉に弓を構えた。

 

「やめろ!!」

「なら、どうすべきかわかるよね」


 今の俺は最強だ。きっと、ロッソたちとも闘える……かも。

 でも、それは個人の強さ。

 まずい。この状況じゃ……無理だ。

 全力で戦っても、弓矢を構える百人くらいの兵士たちを止められない。

 犠牲を出せば全員倒せる。でも……ダメだ。

 ユキちゃんたち、そして子供だち。

 家族と再会し抱き合う技師たち。ジェシカちゃんはホランドに抱きしめられている。

 

「くっ……」

「その鎧。魔導武器だね? 面白いね……それをくれるなら、全員を見逃すよ?」

「…………」


 信じていいのか。

 誰かを犠牲にするなら別にくれてもいい。でも……悪者にありがちな『実は嘘でした死ねバーカ』ってことになるのが怖い。

 どうする、どうする、どうする。


「…………わかった」


 俺は鎧を解除。

 鎧から離れると、兵士が鎧を数人がかりで運んでいく。

 そして、マオシンが……なぜか、ユキちゃんを掴んだ。


「にゃああ!!」

「ははは。可愛いねぇ……ねえゲントクくん。約束は守る。でもきみは少しやりすぎたから、ペナルティを与える」

「……よせ」

「この子の命をもって、今回の件は不問にする」

「やめろテメェェェェェェェェェ!!」


 絶叫する。

 すると、兵士が背後から俺を掴んで押し倒した。

 失敗した。

 考えが甘かった。

 俺のせいで、ユキちゃんが。


「では、さようなら」


 マオシンが、ユキちゃんの首を掴もうとした……が。


「あれ?」

「え?」


 妙なことが起きた。

 マオシンの腕が、手首が消えていた。


「あれれ? 手がない」


 ユキちゃんもいない。

 というか、マオシンの両手が、手首から消えていた。


「え、え? あれ」

「……おじさん、大丈夫?」

「え?」


 俺を掴んでいた兵士の腕が、肩から消えていた。

 そして、そこにいたのは、ユキちゃんを抱っこしたアオ。

 

「あ、アオ?」

「遅れてごめん。ユキ、平気?」

「にゃあ」

「よかった。なでなで」

「ごろろ……」


 立ち上がると、アオだった。

 間違いなくアオ。

 ポカンとしていると、突風が巻き起こり、人質たちの周囲に竜巻のような壁が発生する。

 屋敷を隔てる壁の上に、誰かが立っていた。


「おっさん、遅れてごめん」

「あらあら。楽しそうですわねえ」

「人質はもう安心。風の壁で守るから」

「おお~!! なんかこういうの久しぶり。ね、やっていいの?」

「ははは。もちろん、悪の組織は根絶やしにしないとね」


 ロッソ、ブランシュ、ヴェルデ、リーンドゥ、バレン。

 そして、俺の隣にいつの間にかウングがいた。

 何か持っていると思ったらそれは、手。

 それを投げ捨て、適当に言う。


「斬ったのまだ気付いてねぇのか。おめでたいヤローだぜ」

「え、え……う、ァァァァァッ!!」


 ようやく、マオシンたちの手から血が噴き出した。

 さらにさらに、壁をブチ破り、何かが来た。


「子供たちぃぃぃぃぃぃ!!」

「「ぱぱー!!」」


 ティガーさん、リュコスさん、ルナールさん、そしてスノウさん。

 そして、囲まれている子供たちを見て、ティガーさん。


「ゆ、ユ……許、サン!!」


 全身の毛が逆立ち、上半身のスーツがはじけ飛び、眼が獣のように瞳孔が縦に割れ、爪、牙を剥き出しにしてブチ切れた!!


『グォォォォォォォォォォ!! キサマラ、クウ、クイコロス!!』


 こっわ!! てぃ、ティガーさんがブチ切れた!!

 兵士たちが一斉に矢を射るが、ティガーさんの身体が矢を弾く!!

 そして、ロッソたち。


「全員、大暴れ!! この組織ぶっ潰す!!」


 こうして、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』たち、バレンたち三人、ブチ切れたティガーさんによる蹂躙が始まるのだった。

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2024年12月3日 07:00
2024年12月4日 07:00

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~ さとう @satou5832

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