決戦!! 闇の魔導組織『クーロン』③

 この日の作業を終え、俺とホランドは再び地下牢へ。

 地下牢……ここ、地下の階段を降りてすぐに格子があり、窓もないので見張りもいないんだよな。広さも大したことないし、男が十人ほど詰め込まれて正直きつい。

 でも、今はありがたい……なぜなら、ひそひそ話ができるから。


「全員、静かに聞いてくれ」


 俺は、この場にいる全員を集める。

 全員男。最年少は二十代後半の青年で、どこか疲れた顔をしている。

 男たちは顔を寄せ、ぼろいランプの下に集まって俺の話を聞いていた。


「俺は、ここから脱出……というか、この組織を潰すつもりだ。そのための作戦もあるんだが、お前たちの力を借りたい」

「だ、脱出……だと」


 年長者のおじいさんが驚いたように言う。

 俺は頷く。


「全員、人質を取られてるんだろ。だからまず、俺は人質の安全を確保する。その後で、ここにいる組織の連中を全員倒す」

「おいおいお前、そこまで強いのか?」

「俺自身はそこそこ。でも、切札がある」

「切札……? なんじゃ、それは」

「まだ内緒。でも、確実に言える……あのボスも、俺なら倒せる」


 切札……言ってもいいけど、この中にユダがいる可能性も否定できない。

 男たちは「ほんとかよ」とか「どうする」と話し合い、全員が俺を見た。


「……もし、失敗したらどうなる」

「俺が死ぬだけだ。あんたらに責任はないようにする」

「……いいだろう。で、何をすればいい?」

「魔石だ。明日の作業で支給される魔石を、失敗したフリをしてポケットに忍ばせて、後で俺にくれ。そいつを利用して、人質の位置を確認する」

「魔石……つまり、魔道具を作るのか?」

「いや、そこまでじゃない。魔石に特殊な魔導文字を彫って使う……今日、いくつか実験する」


 俺はポケットから、俺に支給された魔石を二つ、ポケットに入れて持って来た。

 そして、そこに魔導文字を刻む。


「一つ目……全員、しっかり口を手で押さえてくれ。いいか、絶対に声を出すな」

「「「「「……?」」」」」


 全員が口を押えたのを確認、俺は魔石に魔力を込めると……出た。


「「「「「──……!!」」」」」


 全員、眼を見開いて驚いていた。

 だが、その『効果』は数分で消える。


「こいつが、クーロンの発見した魔導文字の効果だ。というか、俺も驚いた……そして、もう一つ」


 俺は、もう一つの魔石を手にし、魔力を注ぐ。

 すると、効果はきちんと出た……が、二分ほどで魔石が砕けた。


「一つ星じゃこんなもんか。というわけで、この魔石を使って隙を作って行動に移す。魔石はあればあるだけ欲しい……それと、ここにいる全員の知っている情報を、なんでもいいから教えてくれ」

「……本気なんだな、あんた」

「当然だ。仕事も詰まってるし、専属の商会も俺の捜索してるだろうしな。それにここ、コーヒーは飲めないし煙草も吸えねぇし、仕事終わった後に居酒屋寄って焼き鳥や雑酒で一杯やれねぇしな」

「……はは。酒か、いいなあ」

「ここから出れば飲めるぜ。というか……さっさと出て、全員で乾杯しようぜ。いい酒場知ってるから、貸し切りにしてよ、朝まで飲み明かそうぜ」


 俺が言うと、全員に少しずつ笑顔が戻って来た。

 酒、たばこの話、家族の話、自分の店の話……何人かは泣いてしまい、俺もウルっときてしまう。

 ここにいる十人の心が一つになった気がした。


「あんたに協力する。なんでも聞いてくれ」

「オレもだ。家に帰れるならなんだってする」

「ワシもじゃ。婆さんに会いたい……」


 みんな、やる気になってくれた。

 ホランドは、俺の肩を叩く。


「やるじゃねぇか。へへ……オレも手ぇ貸すぜ。腕っぷしは自信あるぜ」

「ああ、じゃあ、決行は二日後……みんな、魔石を集めてくれ」


 すると、階段を下る音がしたので全員が黙る。

 やって来たのは、ホアキン……弁髪野郎だ。


「少し、騒がしいですねえ……ゲントクさん、何か楽しいお話でも?」

「ああ、お前とガチで決闘したら、俺が絶対に勝つって全員に話していたのさ。で、そのあとはお前を逆さづりにして、ブーブー鳴くまでケツをブッ叩いてやろうってみんなで笑ってたんだよ」

「そうですかそうですか。フフフ……ボスに挑んだあなたはなかなかいい動きをしていましたよ。ワタシも手合わせしたいものですねえ」

「いつでも相手になってやる。おい……子供たちはどうしてる」

「お元気ですよ。現在、子供部屋でお休み中です。ふふ、獣人の子供たちが集まる部屋ですので、寂しくはないかと」

「……会わせろ」

「それはダメです。面会は、月に一度のみと決まっていますので」

「…………この野郎」

「では、明日も忙しいと思いますので、早く休むように」


 ホアキンはニコニコしながら去って行った。

 ちくしょう。あいつの言葉を全部信じるわけじゃないが……獣人の子供たちの集まる部屋ってのがあるんだな。そこを探す必要がある。

 

「……ゲントク。気負うなよ、準備をしっかりやるぞ」

「ああ、わかってる」


 待っててくれ。

 それに、恐らくサンドローネとリヒター、ヴェルデも動いているはず。

 遅かれ早かれ、助けは来る。

 でも……俺がやる。絶対に、この組織を潰して、みんなを助けてやるからな。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 一方そのころ。

 玄徳の職場に、サンドローネとリヒター、イェラン、バリオン。ヴェルデ、シュバンとマイルズが集まっていた。

 玄徳がさらわれすでに一日が経過……空気は重い。


「状況はよろしくないわ」


 サンドローネが、どこか苛ついたように言い、煙管を噛む。


「ゲントクを攫ったのがどこの誰かわからない。情報が少なすぎる……チッ」

「私のミスよ」


 ヴェルデが歯噛みし、拳を強く握る。


「私なら、あの時点で連中を皆殺しにできた。でも……ユキたちに凄惨な光景を見せるなってゲントクが言って、先手を打たれた……追うこともできなかった」

「お嬢様……」

「お嬢様。お嬢様の判断は正しかったと」


 マイルズが慰めるが、ヴェルデの表情は変わらない。

 イェランも悔しそうに指を噛み、バリオンが言う。


「アメジスト清掃の獣人たちにも捜索してもらっているが、成果は出ていない……相手は相当なプロだね」

「チッ……噂の魔道具技師誘拐、ゲントクが危ないとは思っていたけど」

「私のミス──……」


 ◇◇◇◇◇◇


(ヴェルデ、聞こえるか……俺はここだ。俺は玄徳、俺はここだ)


 ◇◇◇◇◇◇


「──……ッ!!」


 ヴェルデは顔を上げた。

 エーデルシュタイン王国全域に、無意識に展開していた魔力の波が、聞いたことのある声……ゲントクの小声をキャッチしたのである。

 

「ゲントク……!?」

「お、お嬢様?」

「いる。ゲントクは国内にいるわ……でも、声が小さすぎて場所がわからない」


 耳を澄ますが、聞こえない。

 ヴェルデは歯噛みし、魔力を最大解放し、国内の『空気の振動』をキャッチする。

 だが、あまりにも雑音ばかりが聞こえ、肝心な玄徳の声が聞こえない。


「集中すると周りの雑音ばかり聞こえる……せめて、あと何度かゲントクの声を拾えれば、位置を補足できるんだけど……」


 と、ヴェルデが歯噛みした時だった。


「だーかーらー!! アタシらの勝ちって言ってるじゃん!! トドメ刺したのアタシだし!!」

「ははは。トドメはボクの一撃だったさ。なあ、ウング、リーンドゥ」

「確かにな。ウルツァイト・メタルドラゴンの心臓には、バレンの剣が刺さってたぜ」

「そうそう!! 負け認めなよ~、全裸、全裸!!」

「……ロッソの剣、頭に刺さってた」

「そうですわ。心臓より先に、剣が脳を破壊していましたわ!!」

『わぅぅ』


 巨大な荷車には、血抜きされ、首や手足が両断された『討伐不可能』の魔獣、ウルツァイト・メタルドラゴンの死骸が運ばれていた。

 かなりの重量だが、ヒコロクは苦も無く運んでいる。

 そして、職場に到着。ロッソたちは笑顔で言う。


「たっだいまー!! ウルツァイト・メタルドラゴンの討伐終わったよ!! アタシらの勝ち!!」

「……ロッソ、あんた」

「あれれ、みんな集まってどうしたの? おっさん、おっさんいるー?」

「……ロッソ、落ち着いて聞きなさい。バレンたちも」


 ヴェルデが真剣な表情……というか、この場にいる全員がいつもと違う雰囲気だった。

 六人の顔も、スッと切り替わる。

 ブランシュが言った。


「おじさまに、何かありましたの?」

「ええ。ゲントクは攫われたわ」


 ヴェルデがそう言った瞬間、六人の周囲が歪んだような気がした。


「どこ、誰?」


 ロッソが言う。

 するとアオ、ウングが前に出る。


「……知ってること全部」

「なんでもいい。情報よこせ。半日以内にカタ付ける」


 眼が座っていた。

 そしてにこやかな表情のバレン、ブランシュ。


「借りを返すチャンスだね……」

「ふふふ。ブッ潰して差し上げますわ」


 そして、ヴェルデが前に出る。


「ちょうどいい、七人でやりましょう。私もけっこうキレてるしね」

「……本当に、恐ろしい方々を敵に回しましたね」


 リヒターが青い顔で言うと、サンドローネは煙を吐きだした。


「リヒター、ある情報を全て彼女たちへ。あとはもう手を出さなくていい……邪魔になるわ」

「はい、お嬢」


 最初で最後かもしれない、『七虹冒険者アルカンシエル』の共同依頼が始まった。

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