決戦!! 闇の魔導組織『クーロン』①

「…………ぅ」


 眼を覚ますと、冷たい床の上だった。

 身体を起こし、自分の状態を確認する。

 手足は縛られたりしていない。腹に一撃くらったが特に気分が悪いとかもない。服、持ち物などもそのまま。愛用の工具もしっかりあった。

 上を見ると、安っぽいランプがチカチカ瞬いている。


「ここは……」

「牢獄さ」


 びっくりした。

 声のした方を見ると、金髪オールバックのガタイのいい男が壁を背に座っていた。

 周りを見ると……どうやら、地下牢みたいな場所だ。

 男の他にも、数人の男が座り込んでいるのが見える。

 男たちは、妙に疲れているように見えた。


「牢獄、って……」

「新入り。ここに来た以上、死ぬまで『組織』に使われる運命だぞ」

「組織? 新入り? おい、あんた何を」

「理解しな。お前は、『組織』に攫われた。ああでも誇っていいぜ。攫われたのは皆、優秀な魔道具技師、魔導武器職人だからよ」

「はあ? おい、ほんとに何を言って……」


 と、思い出した。

 ユキちゃん、クロハちゃん、リーサちゃん。

 俺は立ち上がり、周りを見渡す。

 四方は壁になっており、一部が鉄格子のようになっている。

 俺は鉄格子を掴んで揺らすが、全く動かない。


「無駄だ。ここは深い地下……『作業』以外では、ずっとここだ」

「作業って何だ!? ってか、子供たちは!!」

「子供? いや、ここに放り込まれたのはお前だけだ」

「くそ!!」


 すると、男が立ち上がり、俺の肩を掴む。


「落ち着け。お前に、ここのルールを教えろと言われてるんでな」

「それどころじゃ」

「いいから聞け!! いいか……ここにいる全員が、人質を取られてるんだよ!!」


 俺の手が止まる。


「月に一度だけ、子供や妻に会える。組織に誘拐され、今はどこかで別の仕事をさせられてる。わかるか? 組織に家族ごと管理されてるんだ。オレらは皆、人質を取られてんだよ」

「あ、あんたらも……」

「そうだ。組織のタチの悪いところは、家族に合わせずに延々と仕事をさせるところじゃない。あえて会わせることで、やる気を削がないようにしてるところだ……前に、脱走を試みたヤツがいたが、見せしめに家族が殺された……ここは、そういう組織なんだよ」

「待て。組織組織って……ここは、なんの組織なんだよ」


 男は首を振り、絞り出すような声で言う。


「闇の魔導組織、『クーロン』だ……魔道具、魔導武器を利用した闇稼業。お前は、そいつらに魔道具技師として攫われたんだよ」


 クーロン。

 マジかよ……ただの魔道具技師である俺が、そんな異世界テンプレみたいな闇組織に攫われた? 

 しかも、ユキちゃんたちを人質を取られて。


「……ふざけんな」

「お、おい」

「決めた。チート解禁だ。俺、主人公っぽいことしてやる。この組織、ぶっ潰す」

「おいおい、お前……大丈夫か?」

「おう。と、自己紹介するぜ。俺は玄徳だ、よろしくな」

「ホランド。一応、腕利きの魔導武器職人だ」


 俺はホランドと握手。聞けば、同い年らしい。

 でも妻子持ちで、奥さんはこの組織で料理人として、娘さんは給仕として働いているとか。

 もう一年近く、この組織で魔導武器を作っている。

 他の連中とも挨拶したが、ホランド以外はみんな、ほとんど喋ることがない。なので俺はホランドと話をする。


「クーロンだったか。知ってること教えてくれ」

「ああ。だが……その前に」

  

 と、コツコツと遠くから足音が。

 そして、鉄格子の前に、俺を殴った弁髪の男が現れた。


「ホホホ、こんにちは。お元気ですか?」

「あ、お前!! この野郎……」

「お待ちを。人質をお忘れですか?」

「……」


 すると、鉄格子が開いた。


「まずは、我々のボスにご挨拶をしていただきましょう」

「……お前、あとでブッ倒してやるからな」

「それは楽しみですねえ」


 不思議だった。

 闇の組織とか、実際に関わると恐怖しか感じないかと思っていた。

 異世界転生の主人公とか、平気で人を殺しまくったり、盗賊とかに恐怖することなく戦うのが普通だと思ってた。実際に会ったら恐怖しかないと思っていたが。

 今の俺、正直怖くない。

 アドレナリンでも出てるのか、このまま魔力全開で大暴れしてもいいと思っていた……が、人質がいる以上、今はまだその時ではない……みたいな冷静な思考もあった。

 むしろ、弁髪野郎と一緒に来た雑魚戦闘員みたいな連中、みんな黒服なんだなーと考える余裕もあった。


「おい弁髪野郎」

「私のことはホアキンとお呼びください。何か?」

「子供たちは」

「もちろん無事です。今は、子供部屋でスヤスヤ眠っていますよ」

「忠告する。もし子供たちに手ぇ出したら……その弁髪引っこ抜いて、代わりに花を植えてやる」

「それは怖い怖い」


 地下の階段を上り、出たのは……なんとも綺麗な通路だった。

 どこか中華風と言えばいいのか、廊下が広く、調度品も豪華ですごい。

 天井にはシャンデリアが輝き、絨毯もピッカピカだ。


「……貴族の家みたいだな。ここ、王都の貴族街か?」

「さあ」


 ちっ、そう簡単に場所を漏らしたりはしないか。

 でも、王都の外ってわけじゃなさそうだ。

 気絶していたのも、一時間に満たないし……俺の職場から郊外へは十五分くらいで行けるけど。

 王都のどこかと仮定しておくか。

 そして、窓が開いているのに気づいた。


(ヴェルデ、聞こえるか……俺はここだ。俺は玄徳、俺はここだ)


 超小声で喋る。

 ヴェルデは言っていた。空気は振動、風を操る自分はそれを察知できると。

 まあ、どのくらい距離あるかわからんし、意味ないかもしれんけど。

 でも、できることはする。


「到着しました」

「……おお」


 すっげえ扉。

 丸い入口で、雑魚戦闘員が引き戸を開ける。

 室内に入ると……なんともまあ、豪華絢爛、広い部屋だ。

 そして、デカいふかふかのオフィスチェアに座る、厳つくガタイのいい葉巻を吸った男が、気持ち悪いくらいニコニコしながら立ち上がった。


「ようこそ、ゲントクくん」

「……あんたが、ここのボス?」

「いちおうは、ね」

「……一応? ボスじゃないのか?」

「ここのボスと言えばボス。ふふふ、まあそんなことはどうでもいい。私はマオシン、よろしく頼むよ、優秀な魔道具技師くん」


 マオシンは近づき……で、でけえ。

 しかも、なんてガタイだよ。みっちり筋肉が詰まった鋼の肉体だ。

 壁を見ると、青龍刀っぽい剣やトンファー、偃月刀みたいな武器も飾ってある。

 こいつ、恰幅のいい葉巻を吸うような『ダメな組織のボス』じゃなくて、『組織内で最強のボス』って感じのボスだ。


「ホランドくん、そしてゲントクくん。若き魔導職人が二人も組織に来てくれるなんてね。ふふふ、これで後継者は私に決まったようなものだ」

「後継者?」

「ああ。そうだ!! 私に忠誠を誓うなら、いずれクーロンの大幹部にしてあげよう」

「後継者……そうか、あんた以外にもいるんだな? クーロンの後継者候補」

「その通り。クーロンというのはね、私のパパが作った組織なんだ。そして、私の他にも八人の『ドラゴン』がいる。パパはね、その中の一人を後継者にすると言った。後継になりたければ、後継としての成果を示せ……それで私は、魔道具、そして魔導武器に目をつけた」

「…………」

「偶然、私たちの管理する魔道具職人が珍しい魔導文字を見つけてねぇ……それを実用化させた『兵器』を開発し、世にバラ撒けば……それは素晴らしい『成果』だと思わないかい?」

「…………」

「ゲントクくん。きみには期待しているよ」

「ふざけんな」


 自然と口から出た言葉だった。

 マオシンは驚いたように目を開くが、すぐに笑顔になる。


「ふぅむ。納得いかないかね?」

「いくわけあるか!! ってか、こんなやり方で従わせようなんてふざけんな」

「納得いかないかね? ちゃんと、職人だけじゃなくその家族も連れてきた。衣食住の管理も徹底しているし、月に一度の面会も許可しているが?」

「そんな住み込みあるか!! ってかさっきの地下牢は何なんだよ!!」

「お仕置き部屋さ。まあ、あまりにひどい反抗の場合、家族にその責任を被ってもらうがね」

「……この野郎」

「ああ、そうそう。ゲントクくん。きみ……武術家らしいね。どうだい、手合わせでもしないかい? そうだな……もし私を倒せたら、帰っていいよ」

「……面白い」


 俺は構えを取る。

 鍛錬を再開してよかった。こいつの顔面に一撃くれてやる。

 マオシンは構えを取る……やっぱこいつも使うな。


「さて、かかってくるといい」

「覇ッ!!」


 俺は気合いを入れ、拳を握り込んだ。

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