自己防衛用アーマー

 さて、ヴェルデの護衛開始から数日経過。

 まだ、ロッソたちは帰ってこない。

 今日は、作業場で『自己防衛用アーマー』の開発に専念していた。


「がううー」

「うーん……『風噴射』の魔石、踵に埋め込んで飛べるかな。足だけ噴射したらグルングルン回転しそうで怖い。やっぱ両腕で姿勢制御しないと危険かな……『収束放電』以外に、姿勢制御用に『風噴射』の魔石を手に埋め込むかな」

「がうう、おじちゃん、あそんでー」


 現在、俺の背中にはクロハちゃんがよじ登ってじゃれついていた。

 たまに首を甘噛みしてくる。ユキちゃんも俺の背中に登ることはあるが、ぐりぐり頭を押し付けてくるだけで噛んではこない……正直、けっこうくすぐったい。

 俺は、クロハちゃんを抱っこして頭を撫でる。


「よしよし、あっちにヴェルデお姉さんがいるから、遊んでもらいな」

「がるる……」

「はいはーい。クロハ、私の方においで」


 作業用の簡易休憩ソファで紅茶を飲むヴェルデが両手を差し出すと、クロハちゃんは向かっていく。

 今日は、ユキちゃんもリーサちゃんも母親とお出かけしてるからな……クロハちゃんのお母さんであるリュコスさんは、今日はティガーさんのお手伝いらしいし。

 ヴェルデは、クロハちゃんを抱っこして撫でまわしつつ、俺に言う。


「ね、その鎧みたいなの、いつ完成するの?」

「ロッソたちが『ウルツァイト・メタルドラゴン』の外殻を持ってきたら完成かな。一応、外殻を装甲にしてくっつけるだけの状態にしたい」

「へー、武器とかもう完成してるんだ」

「ああ。一応」

「……ゲントクって、ほんとなんでもできるね。魔道具技師と魔導武器職人って、剣士と大剣士くらい違うのに、ふつーにすごい武器作っちゃうし」

「まあ、俺の場合は漫画やゲーム知識があるからな。俺のいた世界じゃ実現できないことも、この世界にある魔石を利用すればできる。俺自身も魔力あるし、魔法が工具の代わりになるしな」


 指先をバーナーにしたり、水と光を組み合わせてレンズにしたり、土を型にしたり、金属で型を作ったりと、本来なら専用の道具が必要な仕事も、魔法で何とかなる。

 しかも、魔石……こいつにはホントに感謝。漢字を彫るだけでその効果が実現するなんて、俺からしたら最高だ。

 『収束放電』とか『風噴射』とか、文字彫るだけで必殺兵器の完成だしな。


「とりあえず、ガワはこんなもんか」


 俺は、専用台に固定したオリハルコン製のインナーを眺める。

 肌の露出が一切ない、灰色の全身鎧だ。薄っぺらい張りぼてにも見えるが、この上に装甲となるウルツァイト・メタルドラゴンの外殻を張り付ける予定である。

 ヴェルデは言う。


「……これ、どうやって着るの? 薄い全身鎧よね?」

「ふふふ、これはこうするのだ」


 俺は、『展開』と書かれた魔石を手に魔力を送ると、オリハルコンインナー(今命名した)が一気に開いた。

 頭から指先まで、それはもう一気に。

 いきなり開いた装甲に、ヴェルデは目を見開く。


「すっご……え? ど、どうやったの?」

「魔石の遠隔起動だ。知ってるか? 魔石ってのは、砕けてバラバラになっても、一つの魔石として機能する」

 

 マッチはこの性質を利用している。

 この性質を利用し、俺は十ツ星の魔石に『展開』と彫り、それを分割して鎧に埋め込んだ。そして、手に持つ魔石に魔力を送り込むと、埋め込んだ魔石が反応して装甲が一気に開くのだ。

 もう一度魔石に魔力を送ると、今度はバカっと閉まる。


「すごいわね……」

「十ツ星の魔石だから、砕けても効果がほとんど落ちない。さらに驚いたのは、家から仕事場くらいの距離でも、魔石に命じたら効果を発揮することだ」


 これには驚いた……物は試しで、家から魔石に命令して、翌日仕事場に行ったら、鎧の装甲が開いていたんだよな。

 恐らく、数キロかそれ以上、遠隔で操作できる。


「……ねえゲントク。魔石の遠隔起動って、今の魔道具技師は知ってるの?」

「たぶん、俺が初めてだろうな」

「報告はしないの?」

「面倒だしな。それに、俺以外の誰かが発見したら報告するだろ」

「……あなたって本当に」

「ははは。さて、午後はお前に頼みたい実験があるんだ。その前に昼飯にするか」


 何度も言ったけど、俺は別に功績とか必要じゃない。新発見、画期的な発明で「俺にとっては普通だけど……なになに、こんな程度でみんな驚くの?」みたいなことはするつもりない!!


 ◇◇◇◇◇◇


 午後になり、俺はヴェルデと二人で隣の空地へ。

 クロハちゃんは、メシを食うなり昼寝となった。今は二階の宿泊部屋でお昼寝してる。 

 さて、これから何をするかというと。


「ヴェルデ。これから飛んでみるから、お前の風でサポートしてくれ」

「……飛ぶ?」


 まあ、そういう反応だよな。

 現在俺は、両足に膝下までのアーマーを装備し、両腕に改造した手甲をはめている。

 手の方は少し改造し、手首の下から『風噴射』するようにした。

 踵、手首から風を噴射し、空を飛べるかの実験だ。


「なあ、空を飛ぶ魔道具って聞いたことあるか?」

「ないわよ。というか、自転車ですら画期的な乗り物なのよ? 移動は徒歩か、馬か、ヒコロクみたいな牽引の魔獣しかないわ」

「だよな。で……これから俺は飛んでみる。で、不測の事態に備えてほしい」

「……まあ、いいけど。とにかく、サポートすればいいのね?」

「ああ、頼む」


 俺は、両足に魔力を込め……徐々に、風が噴射されるのを感じた。

 同時に、両手にも魔力を込め、手首の下から風が噴射されるのを感じる。


「おっおっおっ、おっ……」


 ジャンプすると、普段では出せないくらいジャンプできた。

 映画では、両腕と両足を揃えて飛んでたっけ。


「ヴェルデ、このままさらに魔力を増やして風を強める。頼むぞ!!」

「わ、わかったわ!!」

「じゃあ……行くぞ!!」


 俺は両足、両腕を揃え、魔力を強く込めてみた。


「───っ!?」


 飛んだ。

 ロケット噴射。やべえ、マジで。


「ぅぅぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!?」


 ロケットランチャーみたいに飛んだ。

 ヤバすぎる。上空数百メートル。嘘だろ、パラシュート、たかっ。

 背中が一気に冷たくなる。十ツ星の『風噴射』を舐めていたわけじゃないが、その強さを見誤った。

 頭が真っ白になり、魔力が止まる。


「ぉぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 落下。

 自殺。やべえ死ぬ。パラシュートほしい。こんどつくる。

 だめだ、死ぬ。しぬ。


「ああああああああああああああああああ──……ぁ」

「ビックリした……大丈夫?」


 地面から十メートルほどのところで、柔らかい物、ゼリーみたいなものに当たったような、そんな完食で停止。

 すると、ヴェルデが空中に浮かんでいた。


「空気の密度を上げて、クッションにしたのよ。『エアマット』っていう私のオリジナルよ。ふふ、けっこう柔らかくて気持ちいいでしょ?」

「…………走馬灯ってマジで見えるんだな」


 一応、股間を確認……よかった、粗相はしていない。

 ヴェルデがゆっくり地上に降ろしてくれた。


「すっごい勢いだったわね。飛んだというか、射出というか」

「失敗だ。なあ、さっきのクッションみたいなのって」

「落石の雨とかも受け止められるから、安心していいわよ」

「……よし。じゃあ、飛行訓練するか」


 吹っ切れた俺は、魔力の調節と飛行のコツを掴むまで、上昇、落下をくり返すのだった。

 そして、ようやくコツを掴み、その場でホバリングできるくらいまでになる。


「おっ、おっ……ど、どうだ?」


 上空三メートルくらいで、ホバリングできるようにはなった。

 低空でホバリングできれば、上空でもホバリングできるはず。

 しばらくは、飛行訓練だな。


「ふぃぃ……なんとか、なんとか。あー疲れた」

「お疲れ様。でも……魔道具で本当に飛べるなんて、すごいわね」

「男のロマンだろ?」

「は?」


 ごめん、意味不明だよな……でも、アーマーの完成にまた一歩近づいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る