雪国への支度

 さて、雪国へ行くための準備だ。

 あと三日で出発。

 季節も秋が深まり、もう暑さを感じることがなくなった。服装も長袖だし、あと一か月で国内は雪に包まれる……たった一か月だけだが。

 俺は魔道具の持ち込み修理案件を全て終わらせ、店の前に『冬の間休業します。再開は一月半ば予定』と看板を置いた。

 あとは、旅支度なのだが。


「「「おじちゃーん」」」


 旅支度の前に、職場の掃除をしていると……子供たちが遊びに来た。

 ヒコロクに乗ったユキちゃん、クロハちゃん、リーサちゃんだ。ヒコロクから降りると、俺に向かって飛び込んでくる……かわいい。

 俺は、三人の頭を順番に撫でた。


「ははは、どうした? 何か用事か?」

「にゃ。あそびにきたの。ヒコロクのおさんぽなの」

「がうう、おじちゃん、あそぼ」

「きゅう、あそぼう」

「うーん……これからお掃除するんだけどな。よし、ちょっと待ってて」


 俺は地下の素材置き場から、バブルフィッシュという弾力のある魚の皮を持って来た。そして、それを丸く加工して空気を入れて膨らませ、しっかりと穴を閉じた。

 真ん丸なボールの完成だ。俺は三人の前でバスケットボールみたいにポンポンさせる。


「さあ、これで遊んでいいぞ。ほれっ」

「にゃ!!」


 ポンポン跳ねるボールにユキちゃんが飛びついた。

 会社の前は広いし、人通りも多くないからいいだろう。

 俺は外にいたヒコロクに言う。


「ヒコロク、みんな危険がないように見ててやってくれ」

『わふ……わうう!!』


 すると、転がって来たボールにヒコロクが飛びついた。クロハちゃん、リーサちゃんもヒコロクに飛びついてコロコロ転がる……あ~あ、もう砂だらけだ。

 ユキちゃんたちは楽しそうにボール遊びをしている。この隙に掃除でもするか。


 ◇◇◇◇◇◇


 一時間ほど、事務所と一階、地下の掃除をした。

 まあ、掃き掃除と拭き掃除、ゴミの処理くらいだ。年末の大掃除……ってわけでもないな。自分で言うのもなんだが、俺はけっこう綺麗好きだし、掃除は出勤と退社でちゃんとやってるし。

 掃除を終え、俺は外を見た。


「あらら……寝てる」


 ユキちゃんがボールを抱え、三人はヒコロクに寄り添って寝ていた。

 会社の前であんなに熟睡できるとは……よし。

 俺は、会社に常備してあるお菓子を全部小分けにし、それぞれ袋に入れた。

 そして一階に行き、寝ているユキちゃんの頭を撫でる。


「……にゃ」

「さ、そろそろ帰る時間だぞ。クロハちゃん、リーサちゃんも」

「がう……くぁぁ」

「きゅうう……ん」


 三人の頭を撫でると、みんな眠そうに起きた。

 ヒコロクも大きな欠伸をして起きる。


「さ、みんなにお菓子をあげよう。持ち帰ってから食べるんだぞ」

「にゃあ!!」「がるる!!」「きゅうう!!」

「ヒコロクにも。ちゃんとみんなを送ってやるんだぞ」

『わう!!』


 三人はヒコロクの背に乗ると、ヒコロクは歩き出す。

 

「「「おじちゃーん、ありがとー!!」」」

「おう。気を付けて帰るんだぞー」


 三人を見送り、俺は気付いた。


「あ、ボール……まあいいか。ユキちゃんたちのオモチャになるだろうな」


 さて、今日で仕事納めだ。三日後には雪国に出発だし、明日はいろいろ買い物しないとな。


 ◇◇◇◇◇◇


 荷車の手配、雪国用のジャケットや服、ブーツなどを買ってカバンに入れた。

 財布に現金もバッチリ、ロイヤリティの支払いもあったので資金は十分。

 職場の管理も不動産ギルドに任せたし、屋敷の管理も任せた。

 出発前日、サンドローネとリヒターに挨拶もした……まあ、サンドローネはメチャクチャ不機嫌そうな目で睨んできたが。

 そして、出発の日。職場の前にザナドゥで使った荷車が到着。

 ヒコロクを連れたロッソたちも到着した。


「やっほ、おっさん!!」

「おじさま、今回もよろしくお願いしますわね」

「……楽しい温泉旅にする」

「ああ、よろしくな」


 ヒコロクを荷車と連結させると、アオが地図を出してヒコロクに見せた。


「……ヒコロク。向かうのはここ。鉱山の町ドドファド。で、次が温泉の町レレドレ……わかった?」

『わう』

「……なあ、それで大丈夫なのか?」

「うん。ヒコロク、頭いいから」


 ヒコロクは地図をジーっと見て尻尾をブンブン振っている。

 ロッソ、ブランシュは荷物を積み込んでいたので、俺も自分のカバンを入れる。


「おっさん、それだけ?」

「一応、着替えに財布、あとは仕事道具一式か。お前たち、けっこうな荷物だな」

「うふふ、おじさま……女の子にはいろいろ『準備』がありますのよ?」

「す、すまん。詮索はしません、はい」


 ヒコロクが道を覚え、荷物も積み込み、俺たちも馬車に乗り込んだ。


「……ヒコロク。まずは鉱山の町ドドファド。出発」

『わうう』


 ヒコロクが歩き出すと、馬車も動き出した。

 さて、元気よく「しゅっぱーつ!!」なんてガラじゃないし、俺たちは馬車の一階に集まる。


「じゃ、前と同じく二階の寝室はお前たちな。俺はこのソファで」

「やっぱ言うと思ったし。じゃあ、道中の安全はアタシらが守るから」

「おう。ところで……やっぱスノウさんたちは来なかったのか」

「ええ。温泉の香り、獣人の肩は苦手なようですわ。スノウさんとユキちゃんは、拠点の管理を任せたので。それに、お友達もできたようなので、安心ですわ」


 確かに、ママ友や子供友達がいれば、寂しくないか。

 温泉饅頭とか売ってたら買ってやろうかね。


「予定としては、鉱山の町ドドファドを経由して、温泉の町レレドレに向かう感じか」

「……本来は十日以上かかるけど、ヒコロクなら一週間」

「アタシらも別荘買うことにしたの。おっさんみたいにお金持ちじゃないから、そんなに大きな別荘は買えないけどね」


 そういや、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の三人は、稼いだ金を故郷に送ったり、寄付とかしてるんだっけ。若いのに立派なモンで……うう、おっさん泣ける。

 俺が貸してやってもいいが、そういうことじゃない気もするので黙っていた。


「とりあえず、温泉付きは絶対かなー」

「いいですわね。雪景色も楽しみですわ」

「……美味しい料理も楽しみ」

 

 さて、温泉の町か……今からワクワクしてきたぞ。

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