製氷機、完成
「よし、試作完成だな」
三ツ星の魔石に『冷風』の魔導文字を刻み、製氷機にセット。
やはり等級の高い魔石は違う。ゴブリンの魔石とは冷風の強さ、温度が違う。
魔石を取り付けてから二時間で、製氷皿の水は凍り付いた。
俺は皿を取り出し、ボウルの上で皿を軽くひねると、八分割された氷ブロックがバラっと落ちた。
一つを口に入れてみる。
「ん、しっかりした氷だ。うん、まあいいだろ」
俺は、試作機に関する仕様書を事務所で書くことにした。
まず、『冷風』という魔導文字の申請。この文字を登録しないと、俺が考えた魔導文字って世間に伝わらない。俺が考え、開発した魔導文字は俺の財産なのだ。
もし、登録された魔導文字を、申請なく違法に使用した魔道具を作ると、商業ギルドから罰金と懲罰が下る……商人が商業ギルドから罰を受けるというのは恥であり、この世界でやっていけないということだ。
ちなみに、魔導文字は商業ギルドに行けば何が登録されているかわかる。一文字だったり、単語だったりといろいろある。
仮に『冷』という文字が登録されていても、『冷風』という文字が未登録なら、俺が新たに創造者として登録される。この先誰かが『強力冷風』とか考えたら、それはその人が登録することになる。
「あ、そういえば……魔導文字は考えた時に、商業ギルドに確認しなくちゃいけないんだっけ」
正確には商業ギルドが、魔術協会に確認するんだっけか。
まあいいや。ダメだったら『凍風』とか『超冷風』とかで登録してみよう。
「───……よし。魔導文字の申請書と、製氷機の構造、解説書はこんなもんか」
あとは、申請書を商業ギルドに持って行き魔導文字を確認……そのまま問題なければ登録。そして、製氷機の試作品を解説書と一緒にアレキサンドライト商会に売りに行けばいい。
あとは、向こうが試作機をさらに精錬してカッコいい形にして、イェランみたいな専属魔道技師が『冷風』の魔石を作り、製氷機を生産……新商品として発売するだろう。
「さーて、もう夕方か。今日はこんなモンにして、どっかでメシ食って酒飲もうかね」
と、書類をまとめて立ち上がると、来客用のドアがノックされた。
この事務所、一階の作業室から続く階段と、来客用である外階段とあるんだよな。
ドアを開けると、サンドローネがいた。
「あれ、サンドローネ。どうした?」
「たまたま近くにいたから寄っただけ。お茶もらえる?」
「ああ、ちょうどよかった。まあ入れよ」
サンドローネ、リヒターを事務所へ。
俺はテーブルの上に置いておいた製氷機を開け、グラスを二つ出し、氷をグラスに入れた。
「「!!」」
飲み物は……水でいいか。ってか水しかない。
来客用のお茶、用意しておくか。
「ゲントク!! そ、それ……氷よね?」
「ああ。製氷機、試作機だ。リヒター、これ」
「私に見せなさい!!」
と、リヒターに渡そうとした仕様書をブン取られた。
一分ほど、サンドローネは仕様書を見て、ニヤリと笑う。そして仕様書をリヒターに渡した。
「今朝、あなたと別れて半日ほどでこれを?」
「ああ。夏も近いし、氷はあった方がいいだろ?」
「素晴らしいわ。ふふ、夏が近い……つまり、夏に間に合えば、飲食店は氷を使った飲み物や料理を提供できる。三ツ星の魔石……少しコストは高くなるわね」
「今回は三ツ星の魔石でも格安の、デラコンドルの魔石使った。これは試作機だし、魔石の耐久性とかはまだ何もやってない。その辺はイェラン辺りに任せていいか?」
「もちろん。耐久性を考えるなら、四つ星の魔石も視野に入れるべきね……」
「あと、考えたことがある」
俺は、企画書を机から出す。
サンドローネはそれをひったくり、ジッと眺めた。
「……『リース』?」
「ああ。魔道具のレンタルだ」
業務用機械……じゃなくて魔道具か。こういうのを『買う』のではなく『レンタル』させる。
月に一度の使用料金を支払うことで、その魔道具を使用できる。
「レンタル料なら、高い魔道具代金を払うこともないし、壊れたらアレキサンドライト商会の魔道具技師が修理するサービスもできる。まあ修理代金は別途でもらうけどな。製氷機とか、夏場は活躍するけど、冬は必要ない時もあるだろ?」
「…………なるほどね。これなら、小さなお店で魔道具を買う余裕のない店でも、大型の魔道具を借りたりできる」
「ああ。いいアイデアだろ?」
サンドローネは俺を見て、妖艶にほほ笑んだ。
「リヒター」
「はい、お嬢」
「明日一番で、魔導文字の登録確認。この試作機を今日は持ち帰って、明日イェランたち魔道具技師たちに解析、商品化を進めて。いい、目標は夏まで。あと三ヶ月以内に商品化を目指すわよ」
「かしこまりました」
「ゲントク。この魔道具のアイデア料金、そして『リース』のシステム考案料金を近日中に支払うわ。商品化できたら、ロイヤリティも支払うから」
「お、おう」
リヒターは、製氷機の試作を抱える。
サンドローネは立ち上がり、俺の胸倉を掴んでグッと顔を寄せた。
「やってくれたわね。開店初日で、こんな面白いモノを作るなんて。今日はゆっくり寝ようと思ったけど、興奮して寝れそうにないわ」
「そ、そりゃよかった……」
「あなた、やっぱり面白い。フフ……」
サンドローネは俺から手を離し、リヒターと出て行った。
「……く、喰われるかと思った。なんだあの迫力」
と、とりあえず……俺の『オダ魔道具開発所』の最初の仕事は製氷機。なんとか完成した。
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