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Mr.シルクハット三世

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OPENING DEMO

薄暗い一室に、南部健二の姿があった。

窓から差し込む夕日が、半分になったカレンダーを赤く染めている。

南部は淡々と身の回りの整理を続けていた。

床を掃除し、ゴミを大きな袋に入れていく。

続いて押し入れを開けると、埃まみれのゲーム機が目に入った。

手に取ると一瞬、過去の記憶が蘇る。

---高校時代、友人たちと笑いながらゲームに興じる自分。歓声を上げ、肩を叩き合う光景---

南部は小さく首を振り、現実に戻る。

「お譲りします」と書かれた箱にゲーム機を静かに収める。

「今じゃ、ゲームをする気力すらないか」

そう呟きながら、作業を続けた。

やがて部屋には、ベッドと小さなテーブル、そして小さなテレビだけが残された。

玄関に立ち、最後にもう一度部屋を見渡す。 「お世話になりました」

その言葉が、空虚な部屋に吸い込まれていった。

---怒鳴る上司の顔。一人寂しくコンビニ弁当を食べる自分---

重たい足取りでエレベーターに乗り込む南部。鏡に映る自分の疲れ切った表情を、虚ろな目で見つめた。

街に出ると、夕暮れ時の喧騒が彼を包み込む。活気に満ちた人々の姿が、南部の孤独をより際立たせていた。

恋人同士の笑い声、家族連れの会話。南部は思わず目を逸らす。

バスに揺られ、南部は郊外の山へと向かった。車窓から見える街の灯りが、徐々に遠ざかっていく。

人気のない山道を登りながら、南部は美しい夕焼けと木々のざわめきに気づく。

「こんな景色も、もう見納めか」

適当な木を選び、リュックからロープを取り出し、枝にロープを結び付けた。

ポイントの中から遺書を取り出し近くの石の上に置く。

深呼吸をし、目を閉じて首にロープを回す。

「さようなら」

その言葉と共に、踏み台から足を踏み外した。

しかし、古びたロープは南部の体重に耐えきれず、瞬時に切れてしまった。南部は地面に倒れ込み、咳き込んだ。

しばらくその場に倒れたまま、虚空を見つめる。

「こんなことも、うまくいかないのか」

自嘲気味に呟きながら、ゆっくりと立ち上がる。ロープと遺書を拾い、山を下り始めた。

バスの車窓に映る自分の姿を虚ろに見つめながら、南部は街に戻る。

降り立った街は、相変わらず人々の喧騒に満ちていた。カップルの笑い声、家族連れの会話。それらが南部の耳に痛いほど響く。

夕暮れの街を歩く南部の目に、ふと青と赤のちらつく光が飛び込んできた。

時代錯誤とも言えるネオン管の明滅が、彼の注意を引く。

その光を追うように視線を上げると、目に入ったのは、昔よく通ったゲームセンター「ゲーム館」の看板だった。

看板の文字は、かつての輝きを失いつつも、まだかすかに光を放っている。建物自体は古びた2階建てで、1階がゲームセンター、2階は事務所となっている。

店の外壁は、かつては鮮やかだったであろう黄色は、長年の風雨にさらされて色あせている。入り口の両脇には、古めかしい80年代のゲームキャラクターのイラストが描かれたポスターが貼られているが、端が少し剥がれかけている。

窓越しに、古びた筐体が並ぶ薄暗い店内が垣間見える。

南部は立ち止まり、しばらくその看板と建物全体を見つめた。胸の奥に懐かしさが込み上げてくる。高校時代の思い出が次々とよみがえり、足が勝手に動き出す。

まるで懐かしい記憶に導かれるかのように、南部はゆっくりと入り口に向かった。躊躇する間もなく、彼の手がドアノブに伸びる。

ドアを開ける瞬間、かすかに聞こえるゲーム音と懐かしい香りが彼を包み込んだ。南部の体は、まるで時間を遡るかのように、自然とゲーム館の中へと吸い込まれていった。

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