第9話 冒険者登録

「ティオ?まだ冒険者登録は終わってないよ?」


「見たら分かる。ノアが針を指に刺すのを怖がっている事も」


 な、何この人……普通にストーカーみたいで怖いんですけど……。


 後ろで待っているかと思いきや俺とフィユさんさんのやり取りをしっかりと見聞きしていたことが分かり俺はティオのことを少し気持ち悪いと思ってしまった。掲示板を見るとか他の冒険者と雑談するとかで暇つぶしすればよかったのに……。


「駄目ですよティオさん、ティオさんがやったらノア君の指が大変なことになっちゃうじゃないですか」


「そんなことは絶対にしない!私が優しく、それはもうトラップを解除する時みたいに慎重にやる!」


「ええと……?」


 一体どういう事なのか理解できず俺はティオとフィユさんの顔を交互に見てしまう。どっちでもいいから説明して欲しい。


「ティオさんはギルドカードを登録する時この針を指に思いきり刺してすごい量の血を出したんですよ。それはもう指貫通する勢いで。1滴2滴で良いのにギルドカードごとこのテーブルを真っ赤に染め上げましたからね」


「いや!あれは昔の話であって今の私は違う!!」


「あの時は治癒魔法使える人がいたから良かったですけど、気を失う可能性もあったんですから」


「私がノアにそんなことをするわけがないだろう!さぁノア、私に全てを委ねるんだ!!」


「フィユさんお願いしても良いですか?」


「はい!もちろんです!私ならちょっと痛いくらいで済ませますから!」


「ぐぬぬぬぬぬぬ」


 フィユさんの話を聞いてティオに頼むのは馬鹿かドMかのどちらかだろう。こっちは針が怖いって言ってるのちゃんと聞いてたのかなぁ?それにティオに任せたら手が滑ったとかで針が深くまで刺さりそうだし丁重にお断りするのが大吉だろう。


「それじゃあ早速……ってわぁ、ノア君の手すべすべですね!それにすごく綺麗だし……羨ましいです」


「く、くすぐったいですよフィユさん」


 針を刺すために俺の手を取ったフィユさんだったが、一度針を置き俺の手の感触に驚きの声を上げる。


「肌も白いですし、ムダ毛も生えてないですし、すごく羨ましいです……」


「フィユさんも十分肌白いじゃないですか」


 手の甲をすりすりしながら羨ましそうに俺の手を見つめるフィユさんに俺は誉め言葉を返す。俺の手が綺麗だと言うならフィユさんの手も十分綺麗だとは思うのだが……。


「そりゃあ日々努力してますからね。ノアさんはお手入れちゃんとしてますか?」


「そんなにしてないですかね」


「駄目ですよ!ちゃんとケアしないと!今度おすすめの商品とか紹介しますから一緒に買いに行きましょうね」


「お、お金が溜まったらよろしくお願いします」


「絶対に行きましょうね!……っとそろそろ作業に戻りましょうか。それではちょっと痛いですけど我慢してくださいね」


「頑張ります……」


 フィユさんは慣れた手つきで俺の手を持ち、人差し指にぷすりと針を刺す。


「んぅ……!」


 次の瞬間ちくりとした痛みが人差し指から脳に伝わり、赤い液体が針の刺さったところから流れ出す。フィユさんはそのまま血が出てきたところをカードにぺたりとくっつける。すると、ギルドカードに光が灯り、真っ白だったカードに自分の名前と冒険者ランクが浮き上がる。


「わぁ……すごい……!」


「はい、これで冒険者の登録が完了しました。すぐに傷薬を塗るのでそのままで待っていてくださいね」


 俺は血が出ていないもう片方の手でギルドカードを持ち、まじまじと眺める。誰も手を付けていないのに文字が浮かんできたことに感動を隠せない俺はまるで新しいおもちゃを貰った子供の様に目を輝かせるているのだろう。


「はい、これで処置も終わりました。よく頑張りましたねノア君」


「んっ……ありがとうございます、フィユさん」


 フィユさんは俺の頭をそっと撫で始める。恥ずかしさがせりあがって来るが、それと同時くらいの心地よさも感じたため俺はされるがままフィユさんに頭を撫でられ続ける。


「本当に綺麗な黒髪ですねぇ……こんな綺麗な黒髪初めて見ました」


「やっぱり黒髪って珍しいんですか?」


「はい、それはもうとっても珍しいです。どこかの国の貴族か王族が黒髪の男を見つけたら白金貨5枚やるみたいなことを言うくらいには」


「えっ」


 それってもしかしなくてもその国に行ったら拉致られる可能性めちゃくちゃ高いってことじゃん。怖!最初に来たのがこの街で良かったぁ……。


「もし黒髪を見られるのが嫌でしたらコートを羽織るか帽子を被った方が良いかもしれないですね」


「そ、そうします」


「あ、でも僕と話す時はこの髪の毛を見せてくださいね」


「あはは……」


 優しく頭を撫で続けるフィユさんに気恥ずかしさを混ぜた笑顔を返す。こういう時にどうやって返事をしたらいいか分からないから困る。


「それと──────ティオさん、その鼻血拭いた方が良いですよー?」


「っ……!す、すまない!今すぐ処理しよう!」


 フィユさんの声を聞き振り向くとそこには鼻血をだらだら垂らしているティオの姿があった。俺と目が合うとティオはすぐさま鼻血を拭き、汚れた箇所を綺麗にするための布を探しにその場を去ってしまった。


「えぇ……?」


「ふふっ……ティオさんにはちょっと刺激が強すぎましたかね?」


「刺激が強い場所なんてありました?」


「……ノア君はもうちょっとガードを固くしたほうが良さそうですね」


 一体どこに刺激が強いところがあったのか本当に分からない。それに俺はガード固い方だと思うんだけどなぁ……だって今まで一人も彼女出来たことないし。……別に悲しくなんていないから!!


 ちなみにティオが鼻血を吹き出した原因は針が刺さった時のノアの声のせいであり、その時からずっと鼻血をたらたらさせていました。とても汚い。

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