第14話 クジラさん

「あっ、んっ」


 こころが、色っぽい声を上げながらビクリと背筋を震わせてた。林檎みたいに赤い顔、何かを掻き立てられそうなほどに潤んだ瞳、必死に唇を噛み締めて我慢している表情。


 どこからどう見ても女の子。こころは女の子として、イっちゃいそうになっていた。


「──君の身体は、潮吹きするために気持ちよくなっているのですよぉ!」


 変なおじさんがこころをエッチな目で見ながら、そんなことを言う。辛そうにしながら、こころは必死に耐えていた。でも、確実に身体がうずうずしていて、こころが気持ちよくなろうとしてる。


 ──そんなの、ダメ。


 胸が痛い、手も痛い。

 気が付けば、爪を立てて手を握りしめてた。こんなのダメって、私の胸が叫んでる。


 こころが女の子になっても、私はきっと一緒にいれる。女の子でも、こころは大切な人だよって言ってあげられるよ。


 でも、こころは男の子に戻りたがってる。女の子より、男の子の方が良いって思ってるのを私は知ってる。


 だったら、ちゃんと戻れた方が良い。納得できる自分で生きてた方が、絶対に良いから。こころが男の子の方が……色々と、難易度は低いし。


 それに何より──大切なこころが、エッチなおじさんの魔法でイッちゃいそうになってること。それが一番、何よりイヤだったから。


 嫌がってるこころを無理やりクジラさんにして、"ここが夏空こころ噴水広場だよ。今日も良い潮吹き"なんて狂った写真撮影をしようとするのを、私は絶対に許せなかった。


 写真撮影で、みんなダブルピースしか許されない噴水。そんな観光名所にこころをしちゃいたくないし、それに……。


 そういう姿、私以外に見せちゃダメだもん……。


「リーダーから、TS魔法少女の仕様を聞いてありますよぉ。何でも、メス堕ちすると男に戻らないとか」


 おじさんのその言葉を聞いて、私は走り出してた。私一人じゃ、何もできないことなんて分かってたから、だから。



「パコリイヌ、起きて。こころが大変なの!」


 ゴミ箱に収納されていたパコリイヌを拾い上げて、揺さぶりながら話しかける。異世界で奥さんとエッチしてる最中だし、本当に悪いと思う。けど、パコリイヌの射精よりも、こころの身体の方が大事だったから。


 でも、幾ら揺さぶっても、パコリイヌは異世界エッチに励んでて目を覚してくれない。焦りながらパコリイヌの身体を弄ってると、尻尾の下にファックと書かれた穴があるのを見つけた。


 祈る様に私は人差し指を突っ込むと──その瞬間、パコリイヌはクワッと目を見開いた。それと同時に、陰茎の部分が突如として盛り上がる。


「誰パコかっ、緊急連絡用のパコリアナに入場したパコらは!」


「パコリイヌ、私」


「なんだ鈴パコか。鈴、ちゃんと許可を取って入場してくれないと、パコリアナアトラクションはお楽しみいただけないパコよ?」


「それどころじゃない、アレ」


 蹲って裸足に我慢してるこころを指差すと、パコリイヌはお説教を中止してこころを注視した。驚いてるみたいに、目をまん丸にする。


「こころがメス堕ちしそうになってるパコ!? それに、あれは……アクメイジンググレイス!? まずいパコ、初見殺しのアクメ屋じゃないパコか!」


「こころを助けたい、力を貸して」


 私の言葉にパコリイヌは頷いて、それでいて難しい顔をする。私がこころに、どうやってスカートを穿かせようかと頭を悩ませる時みたいに。


「あいつを攻略するには、それなりの魔力が居るパコ。パコは嫁とセッ◯スしてた最中パコから、それなりに溜まってるパコが……」


「それでも足りない?」


「遺憾パコが、勃起魔力探知魔法に精力を取られすぎて難しいパコ」


「──なら」


 こころが女の子になってから、ずっと思ってた。

 一人で戦わせたくない、私もこころを助けてあげたいって。


 なのに、この前は一人で戦って、今も魔法のお手伝いもできない。そんな自分が嫌で、助けたり支えてあげられる力が私は欲しかったから。


「パコリイヌ、私を魔法少女にして」


 ずっと、言いたかったこと。こころの前で言うと心配するから、言い出せなかったこと。それを口に出して、パコリイヌに気持ちを伝える。


「私だって戦える。こころでいっぱい、エッチな妄想できるから!」


 こころには凄いエッチな才能がある。パコリイヌはそう言ってて、私を魔法少女にしようって思わなかった。だから、私にエッチな才能はあんまりないのかもしれないけど。


 ──でも、私がこころで世界で一番エッチな妄想をしてる。それだけは、誰にも負けてないからっ。


「鈴の気持ち、受け取ったパコよ。

 こころで気持ち良くなるといいパコ!!」


「うん!」


 変わる、私の姿が、格好が変わっていく。まるで、日曜の朝八時半頃みたいに。白と緑のハイレグを基調として、所々にリボンやフリルが装飾された女の子の姿へと。


 ……これで、戦える。

 こころだけに、大変な思いをさせなくて良くなるっ。


「行くよ、パコリイヌ」


「イクパコ、鈴。

 今の君には、その力があるパコから!」


 頷いて、私は名乗り上げた。こころを助ける、魔法少女の名前を。


「あなた達がNTRのために戦うなら、私は純愛と幼馴染のために戦う。魔法少女シコティッシュベル──あなた達の死、不能請負人だよ」


 こころをエッチにしてたおじさんは、こっちを睨み付けた。……ううん、正確には、私の肩に乗ってたパコリイヌを。


「お前達の邪痴淫虐の数々、そこまでパコ!」


「パコリイヌ、今更のこのこと! しかも、新たな魔法少女を……っ。やはり、貴様は放置できませんねぇ。魔法少女を増やし、その淫らな格好で我らをアクメさせるつもりなのでしょう?」


「射精させるつもりパコ」


 パコリイヌとおじさんが会話するのを尻目に、コソッとこころに視線を向ける。こころも私を見つめてて、視線が絡みあった。


 上気した肌、お腹の少し下辺りを抑えてる手、潤んで訴えかけてる様な目。……私の想像で潮吹きしてたこころより、ずっとずっとエッチな幼馴染がそこにいた。


「鈴……」


「何?」


「名乗り、変」


 でも、口から出てくるのは、"鈴になら、エッチなことされてもいいよ。だから助けて!" って言葉じゃなくて、もしもの時のために考えてた口上へのダメ出し。


 ……こころはもしかすると、ナンセンスなのかもしれなかった。


「こころの体調の方が、明らかに変」


「っ、言わないで!」


 咄嗟にお股を押さえてしまって、ビクンと震えるこころ。……控えめに言っても、エッチすぎる。警察署の前を通りかかったら、猥褻物陳列罪で逮捕されるかもしれない、公然猥褻こころだった。


「待ってて、いま助ける」


「っ、ごめんね、鈴」


「いいよ」


 こころをそんな猥褻物にしたおじさんは、パコリイヌと口論してる。お陰で、今は魔法を発動される心配をしなくていい。だったら、私は──。


「おじさんは、潮吹きが趣味なの?」


 二人の会話に、割って入っていた。ずっと気になってたこと、それを尋ねるために。


「全人類、潮吹きに興奮するのは当然のことでは?」


 おじさんは急に話しかけられたにも関わらず、気を悪くしないで返事をくれた。話が全く通用しないケダモノさんじゃない。それを確信して、もう少し踏み込んだことを聞く。


「NTR、好きなの?

 それでオチ◯チン、大きくなる?」


 ずっと気になっていた、どうしてこの人たちは、こんな頭がおかしいことをするんだろうって。NTRで興奮して子作りする、異世界ではフリーWi-Fi並にフリーセッ◯スも横行してるのかなって思ったけど、パコリイヌは真っ当に奥さんを愛しててパコパコしてるみたいだから。


「それは……」


 おじさんは言葉に戸惑って、すぐに返事をしなかった。それに、やっぱりって気持ちになる。


 前、こころの前に現れたおじさんはロリショタが好きな変態さんだって聞いていたけど、NTRでエッチな気持ちになろうとはしてなかった。純粋に、ロリとショタを閉じ込めてエッチさせる事で、快楽を得ようとしていた。


 それって、この人たちにとってNTRが至上命題じゃないって事だよね、多分。


「私、好きな人がいる。だから、その魔法を使われると困る。やめてもらえない?」


 もしかしたら、そんな気持ちでお話をする。話し合いで解決できるのなら、それに越したことはないから。


「……残念ですが、そうもイキません。これは、我らにとって訴えと表明でもあるのですから」


 けど、おじさんは首を振った。話し合いの余地はないと、ハッキリと口して。


「鈴、グレイスをおもんぱこってくれたパコね」


「悲しい目をしてる、そんな気がしたから」


 返事をしつつ、私は目を瞑った。このおじさんは、倒さなくてはいけない。不能になっても魔法を使える、このおじさんを。悲しい目をしてても、このおじさんがこころのエッチな気持ちを収まらなくした張本人だから。


「鈴、どうするパコ?」


「──尿道を炎症させる」


「尿道をパコか!?」


 このおじさんが、無限に潮吹きで気持ち良くなるつもりなら、気持ちよくなれなくしてしまえばいい。きっと、それがこのおじさんを攻略する、数少ない方法だから。


「確かにそれは有効だと思うパコが、どうやってそうするパコ?」


「私、調べたの。オチ◯チンはイキ過ぎると痛くなるって」


「確かに、パコもこころに射精させられた時、行為症としてこころが忘れなくなりそうだったパコ」


「それを利用して、膀胱炎を引き起こす」


 私の言葉に、パコリイヌが震える。股間を押さえて、ブルブルと。噂に聞いてたけど、これって男の子にとっての死活問題みたい。その態度で、いけると確信する。


「何をヒソヒソと話されているかは知りませんが、あなたにも無論アクメしてもらいます。魔法少女として我が前に現れた、その不幸を悔いながら果てなさい!」


 静かに目を瞑る、おじさんが何かを言ってるけど耳に入れない。今の私に必要なのは、如何にエッチなこころを妄想するかってことだけ。


 使う魔法は勿論、”ハイレグレオタードを見ていると性癖がドスケベ魔法少女になっちまうッ! クソ、もう我慢できねぇ、膣内に出すぞ!!”に決まっている。


 射精はさせられなくなったけど、この相手にはちょうど良かった。だからね、こころ。力を貸してもらうから。


 ……うん、エッチだよ、こころ。


「"クジラの潮吹きは呼吸というが、女の潮吹きはアクメである。つまり自身を鯨と思えば──"」


「あ、後ろでこころが気持ちいいの我慢できなくなって、潮吹きしてる」


「なんですと!?」


 詠唱をやめ、ガバッと後ろを向いたおじさんは隙だらけだった。あと、こころはまだ頑張ってる。お潮は吹いてないし、クジラさんにもなってない。そうなってるのは、私の妄想の中にいるこころだけだから。


「今パコ、鈴!」


「うん。”ハイレグレオタードを見ていると性癖がドスケベ魔法少女になっちまうッ! クソ、もう我慢できねぇ、膣内に出すぞ!!”」


「ウソではないですかぁ!

 うん? な、何を!?」


 私の魔法は正しく発動された。

 おじさんはボンヤリと光だして、それで──。


「んっ、んほーーーーーーーーっ!!!」


 突如として絶叫しながら、おじさんはその場に倒れ伏した。そのまま、ブリッジを始めて、勃起してない股間から液体が迸り始めている。一見すると、すごいお漏らしをしているおじさんにしか見えない。その実態は、凄い潮吹きをしているおじさんなんだけど。


「な、何ですかぁ、これはぁーーっ!? 我の珍宝殿が覚醒し、勃起を経ていない脱法潮吹きをしているのは何故ぇ、なぜぇーーーーっ!?!?」


 ブリッジを支えていた腕で、空に向かってダブルピースするおじさん。体勢は海老反りのまま、ダブルピースを始めたから頭で身体を支えていた。


「潮吹き、止まらない♡ 我のオチ◯チン、公園の蛇口みたいにみんなから、潮吹き飲まれちゃう♡ 無料ドリンクサーバーとして、未開発人の皆さんに親しみを持たれる♡」


 多分、持たれない。誰もおじさんのオチ◯チンからお潮を飲まないし、不能で潮吹きしてるおじさんを、みんなは怖がっちゃうから。優しい誰かが、救急車を呼んでくれるまでおじさんはこのままなのかな?


「んほぉ? っ、ンゴオオオオーーーーーーーッ!?!????!?

 にょ、尿道が、我の尿道があああああっ!?」


「感じていた快楽の時間は終わり、後は尿道の痛みと戦って、アクメできなくなって、おじさん」


「き、貴様ぁ!!!」


 おじさんは白目をむいているのに、私を睨みつけてきた。だから、私はあえてもう一度名乗る。ここに居るのは、何なためなのかを。


「私は純愛と幼馴染のために戦う。魔法少女シコティッシュベル──あなた達の死、不能請負人だよ」


「シコティッシュゥ、ベェルッ!!!!」


 止まらない潮吹き、けど感じるのは過度の潮吹きによる尿道の炎症。おじさんは股間を抑えつつ、怨嗟の声を上げながら、遂に意識を失った。


 ……勝った。


「グレイス、お前の敗因は潮吹き通を謳いながら、潮吹き痛に対する防御を何も取っていなかったとこパコ。他人の潮吹きだけじゃなくて、自分の潮吹きにも興味を持っていれば、結果は変わったかもしれないパコに……」


 どうしてか、パコリイヌも股間を押さえながら、今回の戦いを振り返った。それに頷いてから、こころへと駆け寄った。


 ──あれ、こころ。

 ──潮吹きしそうなの、止まってない?




 鈴が、怪人を倒した。その事実に、感謝と歓喜の気持ちが湧いてくるけど、それも直ぐに胸の奥底に引っ込んだ。


 ──身体のムズムズ、なんで治らないの!


「こころ、大丈夫?」


「鈴っ、ありが、とうっ。

 ご、めん、大丈夫じゃ、ないかも……っ」


 おじさんは倒されてるはずなのに、全然エッチな気持ちが治ってくれない。鈴がこっちに近づいてくる度に、余計にアソコがキュンキュンってしちゃってる。


 なんで、どうして!?


「鈴、きちゃ、ダメ!

 このままじゃ僕、ぼくっ!」


 目の前に鈴がいる。心配そうなお顔で、僕を見て何とかしようとしてくれてる。そんな鈴は、今は魔法少女の格好。ハイレグを身に纏っている、いつも以上にエッチな鈴。……ダメだ、こんなこと考えちゃダメなのにっ。僕、もう!


「鈴、こっち、みないでっ」


「ん、大丈夫、こころ。ね?」


 耐えられなくなりそうな僕に、鈴は微笑みかけてくれて。そっと、抱きしめてくれた。いつもなら安心する、鈴は温かいと思うはずなのに……。


 ──身体が、この人になら良いよって堕ちちゃった。

 ──理性が必死に引き留めてるのに、身体が鈴で気持ち良くなろうって決めちゃったの。


 ……あっ。

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