第8話 雑猥談
変態、児童ポルノとの戦いから翌日。エロ犬はピクリとも動かなくなっていた。別に、死んじゃった訳じゃないけど。
『パコ、これからパ国会に出席しないといけないパコ。NTR推進委員会について議題に取り上げて、奴らの淫行が間違いだって羞恥の事実にして来るパコよ~』
そう言ってたから、今頃は異世界の本体が政治活動でもしてるんだと思う。いつも五月蝿いのに、今は普通のぬいぐるみみたいに静かだ。いつも、これくらい寡黙だと良いのに……。
「こころ」
その代わりに、今日はエロ犬じゃなくて鈴が僕に引っ付いていた。今日、顔を合わせてからずっと。お陰で、リビングから出られない。
結構、距離が近め。どうしてか、物理的にも引っ付こうとする。鈴の表情は相変わらず変わりがないけど、こちらを伺う目が何か言いたげにも感じて。
「どうしたの、鈴」
後ろに、ベッタリとおんぶした時みたいに引っ付かれて、流石に聞かずにはいられなかった。いつもは、もっと普通の距離感なのにこれだから。今日の鈴は、若干変だ。
「……こころ、私抜きで戦った」
「え?」
そして返ってきた答えは、ちょっと低い声でのもの。
「私がこころに似たエッチな漫画の男の子を探しているうちに、一人で戦ってた」
「僕に似た男の子のエッチな本を探してたの!?」
「話を逸らさないで、こころ」
「はい……」
そんなもの探して、一体どうする気なんだろう。そういう気持ちでいっぱいだったけど、鈴はもしかすると怒っているのかもしれない。なので、大人しく黙て耳を傾ける。
「私に黙って一人で戦って、知らないうちに勝ってた。……大丈夫だった? エッチなこと、されてない?」
鈴の瞳は僅かに揺れていて、ここでやっと心配させちゃってたんだって気が付いた。端的に事実だけ伝えて、詳しく語ってなかったのが良くなかったかもしれない。
「大丈夫だよ、鈴。エッチなことされたら、泣いてベッドに引きこもってると思うし」
僕はやっぱり男の子だから、女の子の姿でエッチなんてされたくない。それに、もしするなら、好きな女の子と初エッチが良いし。
……エッチしないと男に戻れないんだよね、本当にどうしよ。
「こころ、ため息なんて吐いて……落ち込んでる?」
「これは別件、ちゃんと無事だよ」
「処女膜も?」
「処女膜も」
「そっか」
良かった、と小さくこぼした鈴は、僕の頭を撫で始めていた。もしかして、頑張ったねって褒めてくれてるのかな。だとしたら、ちょっと照れる。
「なんか、くすぐったいね」
「我慢、して。心配させた、こころが悪いから」
「嫌じゃないから、我慢も何もないよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
何なら、ちょっと嬉しい旨を伝えると、鈴はしばらく僕の頭を撫で続けた。頭を撫でられると、すごく優しくされている気分になって来る。そのお陰か、昨日にあった出来事を落ち着きながら話すことができていた。
急に湧いて出てきた児童ポルノ、巻き込まれた男の子、ロリにされてカスみたいな部屋に閉じ込められたこと。部屋からホモセッ◯スを連想させて脱出したこと、児童ポルノおじさんを不能にした新しい呪文、僕も男の子も無事に帰って来れたこと。
話せば話すほど、本当にロクでもなかったとしみじみ思う。あんな変態、二度と現れないで欲しい。そのためにも、エロ犬には国会で頑張って変態結社を異世界退去させて欲しいね。
「大変だったんだ」
「うん、最悪だった」
ため息ながらに呟くと、鈴は飴玉をくれた。大阪のマダムかな?
「……エッチしないと出られない部屋」
話し終えた後に、鈴はどうしてだか僕のお股の辺りを見ていた。そうして、ボソッと呟かれた一言で大体察することができた。あ、もしかして、僕疑われてるの? って。
「本当に何もなかったよ」
「……じゃあ、歩いてみて」
「? 分かった」
鈴は、僕が本当にエッチなことをされてないか疑っている。多分、心配しすぎての疑心暗鬼。でも、確かにエッチをしないと出られない部屋に閉じ込められたとか聞いたら、その気持ちも分かるかも。
もし、そんな部屋に鈴が閉じ込められたなんて聞いたら……心配で、何でか怖い。嫌だって気持ちが湧いて来るから、鈴の気持ちも分かる。
「どう?」
「……うん、大丈夫そう」
鈴に言われた通りに歩いてみると、その様子をウンウンと頷きながら鈴は見つめて。
「こころは処女」
歩き終わったところで、何故か確信して頷いていた。一体何だったんだろうか、謎すぎる。
「安心した」
「うん、納得してくれて嬉しいけど、今ので何がわかったの?」
「歩き方が男の子、内股になってない」
「僕は男子だしね」
「つまり、破瓜して痛い状態じゃないってこと」
そこまで説明されて、やっと今の行動の意味を理解できた。そっか、女の子は初めてのエッチは痛いって聞くもんね……。
「こころが処女で、私も嬉しい」
「早く童貞に戻りたいけどね……」
「好きな人ができるのが条件だった」
「うん、本当は、もうちょっと複雑だけどね……」
そう、僕は好きな人と初エッチしないと元に戻れない。正確には、好きな人に絶頂させられること。しかも、メス堕ちすると、女の子から二度と戻れなくなる。……いつ思い返しても、やっぱりふざけている。
「また、ため息」
いつの間にか、鈴の目がジトーっとなっていた。相変わらず無表情なのに、分かりやすい。話してと、その目が訴えてきてる。……どうしようか。
「あのさ、鈴」
「何?」
「僕が悩んでること、バカバカしいけど結構悩ましくて。……聞いても笑わない?」
「大丈夫、今の私は綾波だから」
説得力があるのかないのかわからないことを言いつつも、鈴はやっぱり無表情だった。だからか、ま、いっかと思えた。鈴はちょっとズレてる幼馴染だったのを、たった今思い出したから。
なので思い切って、恥ずかしくなりつつも、何とか今の悩みを口にした。
「実はさ、僕さ……男に戻るには、好きになった人に……え、エッチなこと、しないといけないんだ」
こんなこと、鈴の顔を見ながらなんて言えなくて、ソッポを向いての告白。反応は欲しいけど、顔は見れない。そんなジレンマを抱えつつ、少しの沈黙が訪れる。
多分、鈴だって絶句してるんだと思う。こんな事、伝えられても困るのは確かだし。けど、少ししてから、鈴は徐に口を開いた。
「こころは……ホモ?」
「違うが!?」
いきなりなんてこと、いきなり言うんだろう。耐えかねて鈴の方を向いて睨むと、そのまま頬っぺたを両手で押さえられて、視線を固定される。
「な、何するの!」
「ちょっと」
睨んでるにも関わらず、鈴はジッと僕の目を覗き込んできた。マジマジと、穴が空いちゃうんじゃないかってくらいに。……なんか、恥ずかしい。
「こころ、動かないで」
「何で!?」
「確かめてるから」
何を、と口にしようとしたところで、気が付いてしまった。──鈴の顔が、本当に目の前にあるんだってことを。
鈴の温かい息が鼻先にあたって、ピクンと背筋が震える。優しい甘い匂いがして、何だか落ち着かない。そんな状況のせいか……また一つ、思い出してしまった。
──鈴が可愛いってことを。
僕と鈴は、昔からよく一緒にいた。だから意識しなくなってたけど、こういう状況だと否が応でも認識できてしまう。
黒色のショートボブの髪は、近くで見るとサラサラで。落ち着いた緑の瞳は、見続けていると吸い込まれそうになる。ずっと変わらない無表情な顔が、ミステリアスな雰囲気を醸し出させる。
そして、前まで幼いと思っていた鈴の顔。今も十分子供のままだけど、今は少し女の子って感じ。無表情だから気が付きにくいけど、鈴は結構可愛い系の顔をしてる。
何度も見てきた、ずっと一緒だったと思ってた幼馴染の顔。でも、こうして見ると、一年前と少し変わってる。そんな事に気がついて、何だか落ち着かなくなりそうだった。
「鈴、照れちゃうからやめて!」
気がつけば、照れてしまっていることを自供してしまっていた。この状況に我慢できなくて、口が滑っていた。
……どうしよ、鈴が可愛くて照れてるって言ってないから、気付かれてないかな? そこを追求されたら、恥ずか死ぬ可能性もあるんだけど。
「……うん、ホモじゃない。多分」
鈴はそう呟いて、そっと手を顔を離した。あっ。と声が漏れそうになって、必死になって我慢する。ちょっと惜しかったなんて、思っても悟られるのは良くなさすぎる。
お世話になってる鈴に、ドキドキしてましたなんて知られた日には、恥ずかしくて顔を合わせられなくなるし。
「だから、言ったのに」
「こころ、ちゃんと男の子。私より綾波っぽくて、素敵な女の子だけど」
「可愛いの基準、そろそろ綾波からアップデートしたら?」
「人の性癖を侵害してはいけない、パコリイヌも言ってた」
「あいつの言うこと間に受けないで……」
でも、中身は相変わらず鈴でいてくれたから。話してて、ドキドキしてたのがちょっと落ち着いてきた。軽く深呼吸すると、もう大体元通り。ふぅ、危うかった……。
少し落ち着くと、鈴が座ってゲンドウポーズを取っている事に気がついた。このポーズには特に深い意味はなくて、鈴が考え事をしてる時にこんなポーズを取ってる。
ファミレスとかでも、メニューに迷った時とかこんなポーズするし。恥ずかしいからやめてって何度も言ったけど、未だに治ってない。記名台とかにも、碇シンジとか綾波レイとか書くし。
「……何?」
「何が?」
「ジトっとした目。昔、スクール水着をプラグスーツだと言い張ってた時と同じ目」
「それ覚えてるなら、僕の気持ちわかるよね?」
「……綾波が可愛くて、ムラムラしてるのを我慢してるって目?」
「鈴は時々おバカだよねって目だよ!」
鈴は、順調にエロ犬に汚染されていっていた。そのうちにパコパコと主張し始めたら、何に変えてでも正常に戻さないといけない。それが、巻き込んでしまった、僕の責任だから。
「違う、私はバカじゃない」
「ふーん、なら何を考えてたの?」
どうせエヴァの事だろうと当たりをつけて尋ねると、鈴は少し言い淀んで。そこで、エヴァのことを考えてたんじゃないのに気がつく。だって、鈴はエヴァについては嬉々として語り出すから。
なら、何だろうと思った瞬間、鈴は言いづらそうにしながらも、ボソッと呟いた。
「ホモじゃないなら、こころは女の子とエッチしなきゃいけない」
「え?」
「こころのえっち、不埒、ふらちっち」
鈴の頬っぺは、少し赤くなっていた。エロ犬とあれだけ平然と猥談してたのに、今は何でか恥ずかしがってる。……僕のこと、だから?
「エッチな僕を想像しすぎて、僕のことがすごくエッチな生き物に見えちゃってるってこと?」
考えてみて、思い当たったことを口にした。思えば、僕が三十歳以上のおじさん集団の一斉射精シーンを上手く想像できなかったから、鈴が代わりにエッチな妄想を引き受けてくれてるんだ。なぜか、三十人の僕が一斉に射精する妄想になっちゃってたけど。
そう、鈴のするエロ妄想は、どうしてだか全部エロが僕に置き換わっている。その弊害が出てるんじゃないか、そんな心配が胸の底から湧いてきて。
「…………今日は男の子のこころじゃなくて、女の子のこころがイッちゃう想像する」
「なんで!?」
だから、意味不明すぎる反応が返ってきて、本当に動揺が隠せなかった。もしかすると、鈴のエロ犬汚染は想像を遥かに超えているのかもしれない。
そうして、無表情なのに露骨に不機嫌が湧き出ている鈴は、僕のジャージを剥ぎ取って、ハイレグレオタードな魔法少女衣装の僕をずっと視姦し続けた。
恥ずかしくて逃げ出したかったけど、鈴が手を離してくれなくて逃げることもできない。
「……こころ、知ってる? おっぱい小さいと感度が良いって噂、あれは胸が小さいと弄る場所が乳首に集中しちゃうから」
「僕は一体、ナニを聞かされてるの!」
「……こころ、知ってる? レオタードは普通お股の部分もパッチリでズラせないけど、こころの着てるレオタードはズラせるくらいに鋭角。つまり、今こころが着てるのはエッチのための衣装」
「どこの知識なの、それ!!」
「パコリイヌ」
「あいつはころすっ!」
それから、エロ犬の悪影響を存分に受けた鈴から、カスなエロの知識を流され続ける事になった。女の子の気持ちいいところを解説されて、その度に鈴が僕の身体のその部分を眺めて来るのが、本当に恥ずかしくて仕方ない。
それから、解放されるまで、ずっとそんなことが続いた。実際に触られてたのは手だけだったのに、どうしてか心も身体もエッチされまくったみたいな気持ちになってしまう。
汚されるって、こういう気分のことを言うんだね。
知りたくなかったよ……。
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