第四幕:乱世の宦官と将軍の策謀

張奐こと上杉謙信は、鮮卑族との戦いに勝利したものの、漢の内部に渦巻く政治的混乱は収まらなかった。党錮の禁による官僚弾圧が続き、清廉な官僚たちは次々に失脚。宦官と外戚による腐敗は政権を弱体化させ、前線の軍にも深刻な影響を与えていた。


張奐はこの混乱を前に、かつて戦国時代に経験した「永禄の変」を思い出していた。日本で足利義輝が三好三人衆に襲撃され、殺害されたその事件は、政権の腐敗と権力闘争を象徴するものだった。


「どの国でも、腐敗は免れないのか…。」


張奐は呟き、深い思索に耽る。


その時、徐凱が張奐の元に駆け寄り、都からの報告を告げた。


「将軍、宦官たちがさらに権力を強め、我々の補給を削減しています。」


張奐の表情が険しくなる。内外の敵が押し寄せる中、支援が滞れば軍の存続が危ぶまれる。


「内部が腐敗すれば、我々の戦いはさらに厳しいものになる。政権の安定がなければ、いくら前線を守っても意味はない…。」


張奐は冷静さを保ちながらも、内心では大きな危機感を募らせた。彼はすぐに対策を講じ、前線の兵士たちの士気を維持しながら、宦官たちの策謀を防ぐ計画を練り始めた。


一方、南匈奴と烏桓の間で内紛が勃発していた。張奐の策略で檀石槐を裏切った南匈奴と烏桓の連合は、一時的なものに過ぎず、内部の不和が次第に表面化していた。特に南匈奴の伊陵尸逐就単于(いりょうしちくしゅうぜんう)は、部族内の対立に悩まされていた。


張奐は、この内部不和を見逃さなかった。彼は意図的に南匈奴の混乱を煽る上奏を行い、「伊陵尸逐就単于には統率力が欠けている」と宮廷に報告。これにより、内部抗争が激化し、南匈奴は内部分裂を起こした。


一方、烏桓の指導者である戎末廆(じゅうまつかい)もまた、内部の対立に直面していた。彼は、漢の官吏耿曄(こうよう)と共に鮮卑族を攻撃し成功を収めるが、部族内の強硬派たちはその協力関係を快く思っていなかった。


檀石槐こと武田信玄は、こうした混乱を知り、打って出たいと思いながらも、烏桓や南匈奴と再び正面から衝突するにはまだ準備が整っていなかった。信玄の軍勢は、先の敗北の影響から立て直しを図っていた。


「今は力を蓄える時…。」


信玄は冷静に情勢を見極めつつ、密かに次の機会を待ち続けていた。


張奐は南匈奴と烏桓の内部不和を巧みに利用し、新たな同盟を模索していた。彼は彼らの指導者たちに対し、鮮卑族の内部情報を提供することで信頼を得ようと試みた。


「鮮卑の内部は弱まっている。これを利用すれば、我々は彼らに対して優位に立つことができる。」


張奐の言葉は、南匈奴と烏桓の指導者たちに深く響いた。特に龍槐(りゅうかい)はこの提案に乗り気だったが、一方で慎重な南匈奴の伊陵尸逐就単于は、まだ疑念を抱いていた。


「彼の言葉にどれほどの価値があるか、見極めねばならぬ。」


伊陵尸逐就単于は張奐の提案に耳を傾けつつも、簡単には同意しなかった。


張奐は、彼らの信頼を得るためにさらに情報を提供し、徐々に彼らの疑念を解消していった。やがて、南匈奴と烏桓の指導者たちは張奐の提案に同意し、彼との新たな同盟を結成した。


「この同盟をもって、我々は鮮卑族に対して決定的な打撃を与えることができる。」


張奐は確信を持ち、次なる戦いの準備を進めた。


一方で、張奐は中国国内の政局にも目を光らせていた。永康元年(167年)、張奐は副官尹端や董卓を派遣し、東羌や先零羌を撃退することに成功。辺境の脅威を鎮めた。


「尹端、董卓よ、辺境の敵を討て。」


張奐の命令に従い、彼らは見事な戦果を上げ、三州の安定を取り戻した。しかし、この時すでに、宦官たちがさらに権力を強め、次なる混乱の種が蒔かれようとしていた。


建寧元年(168年)、桓帝崩御後、権力者である竇武と陳蕃が宦官の誅滅を図るが失敗に終わる。宦官たちは逆に反撃し、竇武は包囲され、陳蕃は獄中で殺害された。張奐も宦官たちの命令で竇武を包囲せざるを得なくなり、後に少府に異動させられた。


「宦官の専横を許すわけにはいかぬ。」


張奐は、宦官たちの支配に対して激しく抵抗するも、第二次党錮の禁が発動され、自身も謹慎処分を受けることとなった。


その後、董卓が絹百匹を贈り、張奐に媚を売ろうとするが、張奐はこれを冷たく拒絶した。


「董卓のような男に贈り物を受け取る筋合いはない。」


張奐は腐敗した権力者たちに対して冷徹な態度を貫き、その信念を曲げることはなかった。


張奐の前に横たわる乱世は、内外の敵との戦いだけでなく、漢帝国内部の宦官による腐敗と権力闘争に直面していた。彼は外敵を撃退しつつも、腐敗した政権との戦いを続けなければならないという二重の重圧を抱えていた。


「我々は、乱世を生き抜き、そしてこの地を守り抜く。」


張奐は冷静かつ強い決意を胸に、さらなる策を巡らせるため、次なる動きを見据えていた。

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